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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 43



 それから疲れ切ったリルルに鞭打って『若返りの呪い』もかけさせた上で、私はネルヴィアさんとケイリスくんがチョイスしてくれた服に着替えました。

 ただ、似合ってる似合っていない以前の問題として、レディースはどうなの? と思ったので、そこは普通に少年っぽい服を選びましたけど。

 店員さんには絶対ボーイッシュな女子だと思われてたでしょうけどね!


 そして孤児院前へと戻ってきた私たちは、孤児院の正門でダンディ隊長を見かけました。傍らにいる青年の騎士と話をしているようで、どうやら隊長さんに遅れること数時間、ドラゴン討伐隊の全隊がルーンペディへと集結したという報告を受けていたみたいです。


 予定よりも早めに到着したみたいなので長旅の疲れでも癒せばいいのに、彼らはこのまますぐにボボロザ樹海へと向かうみたいです。

 いやまぁ、もしも樹海で夜を迎えたら全滅はほぼ確実ですし、木々の多い場所で戦うなら正午辺りがベストでしょうから、気持ちはわかりますけど……

 しかし今日はゆっくり休んで、明日出撃とかでも……ああ、でもリルルがドラゴンを抑え込んでいることを知らない彼らとしては、ドラゴンが別の場所へ移動したり、新たに別の街を襲ってしまわないうちに攻撃を仕掛けなければならないのでしたか。


 私たちが近づいてくるのに気が付いた隊長さんは、新たに増えてる私を見て少し目を細めたものの、もはや何も言わずに、


「彼女たちが今回、協力を申し出てくれた腕利きの旅人だ。先遣隊に同行させる」


 と、傍らの青年騎士に紹介してくれました。

 その青年は「え……」と表情を引きつらせながらも、隊長さんが真面目な顔をしているのを見ると、小さく頷きました。あれ絶対納得してない顔ですね。


 そして私たちはそのまま(ルーンペディ)から出る関門を通過すると、外壁の陰で待機していたむさ苦しい男共の群れと合流します。中には魔法使いっぽい女性も混じっていますね。

 そこで再度隊長さんによって私たちの存在がサラッと紹介されると、やっぱり騎士団の人たちは大いにざわめきたち、疑惑の目や嘲笑の的にされてしまいました。……気をつけてね、おじさんたち。貴方たちの生還率は私たちからの好感度と密接に関わってる節もありますから。


 騎士たちが武器の手入れや騎馬の休息、食糧の補充など、着々と出撃の準備を整えているあいだ、私たちはその様子を適当に眺めながら待機していました。

 これから行われる過酷な戦いにおける立ち回りについて考え込んでいた私は、そこで不意に手を握られたことによって我に返ります。

 振り返ると、私の手を握ったのはケイリスくんでした。


『ケイリスくん?』

「……お嬢様のことですから、今回のこともきっと解決してしまうんだと思います。それは、わかってるんです」


 私たちの不思議そうな視線が集まる中、ケイリスくんは珍しく露骨に不安の表情を浮かべて、私の手を握る力を強めました。


 ……ああっ!?

 よく見れば、ケイリスくんの目の下には(くま)ができてしまっています!

 も、もしかして今回の一件が心労になって!? それとも私が連れて行かないって言ったから!?

 なんにせよ、彼が多大なストレスを感じていることは明らかです。


 こう言ってはなんですが、以前のケイリスくんであれば、ここまで思い詰めてくれることはなかったと思います。

 ちょっと不謹慎ではありますが、こうして安眠に差し支えるくらい彼が私たちのことを案じてくれるというのは素直に嬉しいものですし、ひとしおの感動さえ覚えてしまいました。


 今やケイリスくんより十センチ低いくらいの背丈となった私を、彼はともすれば泣き出しそうにも見える瞳で見つめてきます。


「ですけど、どうしても不安なんです。お嬢様や皆さんに、もしものことがあったら……」


 ……きっと私も逆の立場だったら、同じ不安を抱えたことでしょう。

 というより、実際にエルフの里での一件で、ケイリスくんがいなくなったことに気が付いた私は死ぬほど焦りました。

 しかし今回は逆に、私が死地へと向かい、ケイリスくんが置いて行かれる立場です。あの夜に私が感じた焦りや不安を彼も感じているとするなら、その心労はかなりのものに違いありません。


 そこで私は張りつめた空気を和ませようと、ちょっといじわるな笑みを浮かべて、


『心配してくれて、ありがとね。でも、これでエルフの里の時は私がどれだけ心配したか、わかってくれたかな?』

「あぅ……そ、それは……すみませんでした……」


 顔を赤らめてうつむくケイリスくんに、今度は私のほうから彼の手を包み込むように両手で握り返すと、まったく気負いしていないような能天気さを装って彼に応えます。


『今夜は、ひさしぶりにケイリスくんの手料理が食べたいな。お願いできる?』


 これから魔族の最強種と戦いに行くというのに、なんとも暢気のんきすぎる言葉。

 そんな私の申し出に唖然とした表情を浮かべたケイリスくんは、けれどもすぐに嬉しそうに微笑むと、


「ふふっ。それじゃあ、腕によりをかけた料理を作って待ってますね」


 ……この輝く笑顔が見られたなら、ちょっと強がってみた甲斐があったというものですかね。


 ここのところずっと馬車暮らしだったし、ルーンペディに来てからも外食オンリーだったので、実際ケイリスくんの絶品料理が恋しくなっていたのは事実です。

 いやぁ、これは晩御飯への期待が高まりますね。ドラゴンなんてさっさと倒して帰ろっと。


 と、そこで急に騎士団の人たちの動きが活発になり、武器を装備したり騎馬に跨ったりする人が増え始めたのを見て、どうやら出発の準備が整ったらしいことを私たちは察します。

 遠くからダンディ隊長がこちらへまっすぐに歩いてくるのを見て、私は首輪を隠している赤いマフラーを整えます。


「お嬢様、どうかご無事で」

『うん。ケイリスくんも気をつけてね』


 ケイリスくんの灰色がかった青い瞳を見つめ返して微笑みながら、私は彼を心配させないよう気楽に手を振って応じます。


 それからケイリスくんは、私だけではなく仲間全員に向けて、洗練された瀟洒しょうしゃ所作しょさで「いってらっしゃいませ」と言って一礼しました。


 元々、こんな“寄り道”でうちの子たちに被害を出すつもりなんて断じてありませんでしたけど、待ってくれている人がいる以上は尚更です。……もちろん、帝国で待ってくれているみんなもそうですが。


 そしてダンディ隊長の先導に従いながら、私は決意も新たに歩き出すのでした。



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