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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 42 ―――セフィリアの変身



 リルルの言うところの『良い手』とやらを聞いた私は、いろんな意味で大いに逡巡(しゅんじゅん)させられたものの……結局は手っ取り早い解決策であることに加えて、ほんの少しの好奇心に負けて乗せられてしまいました。

 当然、リルルは全くもって信用できない相手ですので、彼女がどさくさに紛れて妙なことをしでかさないように、ルローラちゃんを呼び出してから事に及びます。


 ダンディ隊長と勇者(クリヲト)ちゃんにはちょっと待っていてもらい、私たちは孤児院を後にしました。

 そしてルーンペディの街並みをしばらく歩いて適当なアパレルショップを覗いてみると、ちょうど試着室みたいな場所が見えたので入店します。

 ざっと見たところ店内には、修道士さんが着そうなイメージの地味めな服しか見当たりませんけど、種類は豊富みたいです。


 私とリルルはカーテンで区切られている狭いスペースに入ると、ルローラちゃんがカーテンの隙間から翡翠色の瞳で監視してくれている中、向かい合いました。

 ちなみに、現在の私はこの後に行う作業のため、身に纏っていた衣服をすべて脱ぎ去ってから、大きめのタオルのようなものを体に巻いているといった格好です。……すごい恥ずかしいですが、仕方ありません。


 リルルは一つ深呼吸をすると、ルローラちゃんが見ている前だからか低い声を発します。


「よし、それじゃあ始めるわね。発動条件は……うーん、何か希望はある?」


 リルルに訊ねられた私は、ちょっと悩みます。うっかり普段やってしまうようなことを発動条件に設定してしまったら、あとで大変な目に遭いそうです。

 私はしばらく考えてから、自分の嵌めている首輪を掴むと、そのまま横にグルッと一回転させました。

 リルルは「なるほどね」と呟いて、


「それじゃあ、そのまま首輪を回転させててね。いくわよ?」


 真剣な表情で目を閉じながら、私の頭に手を置くリルル。


 そして私がそのまま首輪をぐるぐる回していると、やがてリルルの「よしオッケー」という言葉を聞きながら、自らの身体に起きた異変を体感することとなりました。


 そう、異変(・・)です!


 先ほどまではリルルの腰ほどもなかった身長が、今では彼女のお腹ぐらいまで伸びています!

 小さくて短かった指はしなやかに伸びて、身体に纏ったタオルからは真っ白な細い手足がすらりと伸びました!


 残念ながら試着室には姿見なんて置いていないので、私の顔を確認することはできませんでしたが……明らかに高くなった視点に、私は年甲斐もなく大興奮してしまいます!


 そしてかなり消耗した感じでぐったりしていたリルルが私の顔を見ると、彼女はぽっかりと口を開けて動かなくなってしまいました。……え、なに? どうしたの? なにか変なの?

 私はかなり不安を覚えつつも、とりあえず予定の年齢になるまで首輪を回します。

 首輪を一周回すたび、にょきっと伸びる身長。なんだか初めての感覚にほんのり恐怖も感じますが、成長の興奮のほうが勝っていたようです。私はどんどん首輪を回して、やがて私の目線がリルルの鎖骨と水平になるくらいでストップしました。


 加齢のシステムがよくわからないので……たとえば私が二十歳に死ぬ運命だとして、私が魔法によって二十一歳に成長したら死んでしまったりするの……? という疑問がふと頭をよぎり、私の手を止めさせたのです。

 ……よ、要するに私が幼児から脱却すればいいんですからね。まだ首輪のサイズ的には成長の猶予がありますけど、これくらい大きくなれば十分でしょう。さっきの隊長さんによってルローラちゃんとレジィが黙認されていたんですから、レジィと同じくらいの背丈になった私がダメってことはないでしょう。


 乳児の頃から動き回っていたのでムキムキマッチョになったりしないかなと思っていたのですが、全然そんなことはなく、むしろ見る限りでは体つきは細いくらいでした。

 しかも肌まで真っ白なのを見るに、もしかして十数年後の私は魔法にかまけて怠惰な生活を送っているのでしょうか?


 あと、髪長いなぁ……お尻くらいまであるんですけど。

 これでもしもゴツい顔つきだったら、壮絶な気持ち悪さですね……そうだったらすぐに髪切ろっと。


 いやー、でもすごいなぁ! 本当に成長しちゃいましたよ!!

 私はついテンションがあがってしまい、身体に巻いていたタオルで最低限 前を隠しただけで、カーテンをちょっとだけ開けて外に顔を覗かせました。


『みんな、ほら見て見て! おっきくなったよ!』


 私は通訳してもらおうと思いケイリスくんに向けて口を開いたのですが、しかしケイリスくんはいつものように同時通訳を行ってはくれず、ネルヴィアさんといっしょに私のために選んでくれていたっぽいメンズ服を、地面に落としてしまっていました。

 あれ、ケイリスくん? ネルヴィアさんも……どうしたの?


 レジィに視線を向けると、彼はビクッと飛び跳ねて、「えっ、えっ……?」とオロオロし始めてしまいます。な、なにその反応!? なんかすごい不安に駆られるんですけどっ!!


 リルルを監視してくれていたルローラちゃんに顔を向けると、彼女はタオルで隠した私の身体をじろじろと眺めた挙句に、勝ち誇った顔で「っしゃ!!」とガッツポーズをしていました。理由はわかりませんが、なぜかすっごいイラッと来ました。


 え、えっと……いったい今の私は、どんな姿なのでしょうか? よっぽど見るに堪えない顔つきとか? いやいや、お母さんとお兄ちゃんの整った顔立ちを見るに、そんな事はないはずだと信じたいですが……で、でもお父さんの顔とか見たことないし……!


 私がみんなの不穏な反応に疑心暗鬼になっているところへ、ケイリスくんとネルヴィアさんがそっと差し出してきた新しい着替えを見たとき、そこで私はすべてを悟ったのです。


 ……だってその服、どう見ても女子向け(レディース)だったのですから。



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