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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 41



 むしろそこらへんの魔族相手に複数人がかりじゃないと戦えない一般兵士がいたらちょっと困るといいますか……

 それに私が昨晩 立案した作戦は、ほとんど私たち四人だけで完結しているので、それ以上の戦力は必要ないのです。


 しかし私たちの正体を隠したままこの隊長さんを説得するのは、さすがにリルルも面倒だと思ったようです。

 リルルは隊長さんの言葉に「そうですねぇ、それじゃあそういうことでお願いします~」と、貼りつけた微笑みで応じました。

 ……まぁ、わざわざドラゴン討伐のために共和国が送り込んできた精鋭たちです。私たちがフォローするまでもなく、案外ドラゴンを追いつめてくれるかもしれません。


 あれ? でも私たちが先遣隊と行動を共にするっていうことは、私はどうすればいいの?

 最悪、他の騎士たちと別れるまではバッグの中にでも詰まってれば良いかと考えていたのですが、先遣隊とずっと一緒にいるってことは、私が指示を出したり戦闘に参加したりするのがかなり難しくなりませんか?


 けれどもリルルはそんなことなど気にもしていない様子で、改めて今回の作戦についての詳細をみんなに説明し始めました。内容は昨日の夜に聞いたこととほとんど変わりはありません。


 作戦の概要はこうです。

 まずはボボロザ樹海の入り口付近へ数百名の騎兵大隊を潜ませます。

 そして先遣隊が樹海の奥へと突入して、ドラゴンを探します。

 先遣隊はドラゴンを見つけたら、笛で合図を出しながら全力で後退。

 合図が聞こえたら、待機していた騎兵大隊数百名が、合図のあった方角へと突撃。


 魔族の領地で向こうに待ち構えられている以上、こんな手探り感満載な作戦に頼るしかありません。

 いっそ樹海に火を放ってやりたいとも思いますけれど、そうするとドラゴン以外の魔族までもが激怒して一斉侵攻を受けかねないため危険だというのがリルルの意見です。


 本来、ボボロザ樹海の魔族には二大勢力が存在し、一つは『オークキング』、もう一つは『吸血女帝』の一団です。

 そのためドラゴン退治をしようとして、森へ考えなしに兵力を突撃させれば、その二つの勢力に叩き潰されてしまうのだとか。

 しかし騎士団の人たちには秘密にしてありますが、今回はリルルの入念な事前準備によって、その二つの勢力は抑え込まれています。さらにリルルは樹海のドラゴンにも接触しており、だいたい樹海のどの辺りで待ち構えているのかも概ね把握しているのです。


 ……本当なら朝早くに私たちだけで戦いに行くのが手っ取り早かったのですが、さすがにそれはリルルが許してくれませんでした。まぁ、これはクリヲトちゃんの弔い合戦でもありますからね。

 それに私たちが劣勢になったり、万が一ということもあります。そういう時のために、騎士団が近くにいるという状況は私たちにとって悪い話ではありません。……近すぎると面倒というだけで。


 その後も作戦の詳細について詰めていったり、あるいは諸々の事情によってやむなく変更した計画についてを隊長さんが説明してくれているうちに、それなりの時間が過ぎてしまっていたようです。

 やがて朝食の時間になったのか、ちらほらと小さい子供が食堂に集まってきました。

 私たちの話し合いを見守っていたお婆ちゃんシスターは、「あらあら、もうこんな時間」としわくちゃの顔を綻ばせて、私たちにちょこちょこ近づいてくる子たちをさりげなく遠ざけてくれます。


 大体話し合いは終わったので私たちも席を立つと、そこでお婆ちゃんシスターが私に目を向けて、「そちらの子は、うちで預かっておきましょうか?」などと言ってきました。

 ケイリスくんが「いえ、お構いなく」とやんわりお断りしていると、そこへリルルがケイリスくんの手を引きながら、


「この二人は宿に帰るみたいです。ちょっとリルちゃんがお見送りしてきますねぇ」


 そんな事を言いながら、リルルはぐいぐいとケイリスくんの手を引っ張って食堂を後にしてしまいます。

 当然ながらケイリスくんに抱かれたままの私も一緒に連れ出されてしまうわけで、リルルが何をするつもりなのかと怪訝に思っていると、彼女は私に顔を寄せながら小声で、


「勇者様。思いのほかあの糞……コホン、隊長さんが石頭だったので、ちょっと予定変更です。ボボロザ樹海までは騎士団と一緒に馬車で移動してください」


 私はいつものように、私を抱くケイリスくんに視線で『通訳して』と伝えながら、


『いや、それはいいんだけど……どこに、どうやって隠れるの? さすがにドラゴンを見つけたら顔を出さないと戦えないんだけど、先遣隊がずっと近くにいるんだよね?』


 私の発した疑問に対して、しかしリルルはすぐには答えず、なぜか私のマフラーを緩めると、私の嵌めている首輪のサイズ感をチェックし始めました。首はブカブカだけど、頭は通らないというサイズ感です。

 そして「……うん、これならいけるかな」と呟くと、彼女はニンマリと満面の笑みを浮かべて、


「さすがに赤ちゃんを戦場に連れて行こうとしたら、追い返されちゃいますよねぇ。でもでもぉ、なるべくなら無駄な騒ぎを避けるために、勇者様の正体は内緒にしておきたい……そうですよねぇ?」

『え……うん、まぁ』


 私が困惑を隠そうともせずにそう答えると、リルルはますます笑みを深め、そしてこう言い放ちました。



「うふふ……それなら良い手がありますよぉ? ――――それはもう、とびっきりの『良い手』が」




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