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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 38 ―――リルルとドラゴン

桜ノ宮橘華様にレビューをしていただきました!

本当にありがとうございます!!



「事の始まりは、リルルが『ボボロザ樹海』でドラゴンと出会ったことだね」


 そんな語り出しで始まったお話は、リルルの素性を知っている私からすれば、意外とも順当とも言えそうな微妙なものでした。


 その日、リルルがドラゴンと出会ったのは完全に偶然だったそうです。むしろ、この時ドラゴンと不意に遭遇したリルルは、ここで殺されるかもしれないと本気で思ったくらいでした。

 一応、この時リルルは馬に乗っていましたが、それでも逃げ切れるかは怪しかったためかなり焦っていたとのこと。


 けれどもそのドラゴンはリルルに大した興味を見せず、代わりにある質問をしてきました。


 ……その質問とは、「ここから最も近くて大きい、人間たちの街はどこか?」というものです。

 リルルは正直に、その条件にあてはまる街は“ルーンペディ”であると答えて、大まかな場所も伝えました。

 そして嫌な予感がした彼女は、さりげなくドラゴンの目的に探りを入れてみます。

 するとドラゴンは当然のように、自らの実力を見せつけるために、その街を滅ぼすのだと言い放ったのです。


「……ここでもしもリルルが何もしなかったら。もしくはリルルがドラゴンと会ってなかったら、きっとドラゴンが襲撃したのはルーンペディだったろうね。そうなった場合どっちが勝っていたかはわからないけど、仮に人族側が勝ったとしても、かなり大きな被害は免れなかっただろうし、死人もたくさん出たと思う。下手すれば、街ごと滅んでたかもしれないし」


 別にリルルとしては、人族の街が滅ぼうが何人死のうが知ったことではなかったでしょう。しかし彼女は帝都での失敗が悔しくて、今度はルーンペディの教会を水面下で掌握しようとしていたそうなのです。

 そしてせっかく頑張って根を張っていたところで、いきなり現れたドラゴンに横槍を入れられるのは面白くないと考えた彼女は、ダメ元でドラゴンにこう言ってみました。


『奇襲を仕掛けて街を滅ぼしても、果たしてそれで実力を示せるでしょうか? それでしたらまずは小さな村でも滅ぼして、人族が集めた精鋭たちが哀れにも立ち向かって来るのを待ち構えて叩き潰すのが、高貴なドラゴン族に相応しいかと思いますが』


 別にこれで断られたなら、それでもいいかとリルルは半分諦めモードでした。

 しかし意外にもドラゴンは、そのリルルの提案をあっさりと受け入れ、まずは適当に目についた村を滅ぼすという方針に転換します。


 意気揚々と走り去っていくドラゴンに、リルルはこれまでルーンペディで行ってきた仕込みが無駄にならずに済んだと胸をなで下ろしました。

 しかし、代わりにどこかの小さな村が滅ぼされることになるかもしれない……その事実に胸が痛んだりすることは全くありませんでしたが、なんとなく事の顛末が気になった彼女は馬を駆り、ドラゴンの後をこっそり追いかけました。


 ……と、ここまで話を聞いた私は、気になったことをみんなに訊ねてみました。


『ドラゴンって、こんな簡単に人族の領地に突っ込んでこられるの? しかも大きな街が滅びかねないって、すごく危なくない?』


 そんな私の問いに答えたのは、ルローラちゃんの話を聞いてちょっと眠くなってきていたらしいレジィでした。


ドラゴン(あいつら)は、自分たちが生まれたとこから離れることは無いはずなんだけどな。それに人族は罠とか卑怯な手が得意ってイメージが魔族にはあるから、前線近くの激戦区には立場の弱い魔族が追いやられてるんだ。ドラゴンは数も少ないし、前線なんて行くはずないんだが……」


 立場の弱い魔族というと……それは獣人族のように差別を受けているような種族や、あるいは単純に弱くて見下されているような魔族たちでしょう。

 いくらドラゴンが強いと言っても、無敵というわけではありません。

 対策を施されて罠に嵌められれば、決して勝てない相手ではないのだとすれば……危険な場所は下っ端に任せて、自分たちは安全な場所で待ち構えているのが賢いやり方です。

 魔族は強さが正義とはいえ、強さを過信して身を滅ぼすような種族はとっくの昔に絶滅しているでしょうし。


 と、そこでケイリスくんも、人族の立場から説明を補足してくれました。


「共和国の前線は『リバリー魔導隊』と呼ばれる精鋭たちが守っているはずですけど、おそらく前例のないドラゴンの奇襲には対応できなかったんでしょう。別の魔族と交戦中だったとすれば、ありえないことではありません。……それでも、ドラゴンが魔導隊をまっすぐに襲撃していれば、対応は可能だったとは思いますけど」


 そうなると、そのドラゴンは種族特性である縄張りを外れて、しかも敵の死角を見つけて潜り込む隠密性まで発揮しているということになります。

 高い実力に慢心せず合理的な判断を下せる知能を持ち合わせていると考えるべきか、はたまた小細工を弄さなければならない程度の実力であると考えるべきか。


 しかしドラゴンが現れたのが帝国側だったとしたら、襲われていたのはうちの村だった可能性もあったわけですか。ゾッとしない話です。

 これはますます、そのドラゴンが二度とこちらへ来られないようにする必要があります。


 私は『話の腰を折っちゃってごめんね』と謝り、ルローラちゃんに続きを促しました。

 ルローラちゃんは小さく頷くと、


「リルルが追いかけてたドラゴンは、空は飛ばなかったそうだけど足が速かったみたい。どんどん距離を離されて見失っちゃった頃に、遠くの方で黒い煙があがっているのが見えたんだよ」


 その煙は言わずもがな例の村からあがっていたもので、リルルがドラゴンと鉢合わせしないように大きく迂回して村へたどり着いた頃には、村は完全に壊滅していたそうです。

 その惨状を見たリルルは、内心でかなりドン引きしていたのだとか。というのも、これは他のエルフ族にも共通することですが、魔族の野蛮な暴力性は軽蔑の対象ですからね。


 そしてリルルが燃え盛る村の様子を窺ってみたところ……彼女はその村における唯一の生き残りを見つけたのです。


 その生き残りというのは、二十歳くらいの魔術師の女性でした。

 彼女はドラゴンと交戦したのか、血を流しながら村の外で横たわっていました。

 このまま燃えている村の近くで倒れていれば焼け死ぬと思ったリルルは、ひとまずその女性を引きずって村から離れました。ルローラちゃん曰く、その時リルルは何も考えずに行動していたそうです。


 そして村が燃え尽きて、火も完全に鎮火した頃。

 近場で木の実を採集していたリルルは、倒れていた女性が目を覚ましたことに気が付きました。


 目覚めた女性はしばらく混乱していたようですが、やがて自分が気絶する以前の出来事を思い出したのか、半狂乱で村へと駆け出します。

 彼女を追いかけたリルルは、そこで……


 燃え尽きた村と、かつて人だった塊を前にした女性の、凄絶な叫び声を聞いたのです。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] やっぱり、リルルにリアリティがない。 キャラがぶれてる。 人の住む国家すら落とし込む大悪党で 人を蔑む性格破綻者だったはず。
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