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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 36



 と、こうしてリルルをたっぷりと脅迫した後で、私は親指でクイッと合図を出しました。

 するとネルヴィアさんとレジィは即座に、リルルの腕を左右からそれぞれがっちりとホールドした上で立たせて、私たちのテーブル席へと連行します。


 私たちの席に押し込まれたリルルは、そこに一人座っていたルローラちゃんを見て「お、お姉ちゃんッ!?」と大声を上げました。小学生くらいまで縮んでても、やっぱり一目でわかるんですね。

 私とケイリスくんはそのままルローラちゃんのお隣に座り、そしてリルルはその対面へ、ネルヴィアさんとレジィに左右を挟まれた状態で座らされました。

 ……あ、そういえばリルルは年齢指定子を操るエルフ族なんでしたっけ。

 じゃあちょっと釘を刺しておきましょうかね。


『くだらない逃走を図ろうとしたらギタギタにする。それと私の家族に危害を及ぼしたら、地の果てまでも追いかけて必ず殺す。……いいね?』


 その脅迫が決して口先だけのものではないことが、私の二つ名を知っているリルルには伝わったのでしょう。彼女は青い顔でコクコクと何度も頷きます。


 すると放心状態からようやく回復したらしいルローラちゃんが身を乗り出し、ちょっと泣き出しそうな表情で口を開きました。


「もう、今までどこに行ってたの!? あたしたちがどれだけ心配したかわかってる!?」

「……お、お姉ちゃんには関係ないじゃん」

「関係ないなんてことはないでしょ! まったくリルルは昔から無茶なことばっかりして心配かけて!!」


 ややバツの悪そうな表情のリルルに、ルローラちゃんは勢い込んで説教を始めました。

 ルローラちゃん、妹にはお母さん属性も発揮するんですね。そういえばルルーさんもお母さん属性を大いに発揮していましたが、あれは遺伝だったんですかね?


 そして今まで、帝都で私に殴られたときくらいしか崩れなかったリルルの丁寧語口調が、ルローラちゃん相手には一瞬で崩されてしまっています。やっぱりその口調、キャラ付けだったの?


 あと、店内で二人が叫び合っているのはマズそうなので、私は密かに『絶対領域アイアンメイデン』を発動させて外部に漏れる音声をシャットアウトします。


「あんた、このゆーしゃ様にも迷惑かけたんだって!? 人様に迷惑だけはかけるなって、昔からあれほど言って聞かせたでしょ!!」

「う、うるさいうるさい!! 知らないよそんなの! 里ではリルのこともルルのことも守ってくれなかったくせに、今更お姉ちゃんづらしないでよ! 超うざい!!」


 リルルがエルフの里での迫害について言及すると、ルローラちゃんは「うっ……」と言葉を詰まらせてしまいます。

 おそらくルローラちゃんは、妹たちを懸命に守ろうとはしていたはずです。だから直接的な、肉体的な迫害にまでは発展せず、二人が自分から失踪するまで、里から追い出されるようなこともなかったのですから。

 しかしリルルにとっては、リルルとルルーさんを守り切れなかったルローラちゃんもまた、他のエルフたちと同じに見えてしまうのでしょう。


「ルルだって……人族の国を引っ掻き回して遊ぼうって約束してたのに、いつの間にか変な男に引っかかって、魔導師とか意味わかんないことしてるし……! もうホントにエルフ族って大嫌い! 口先だけの最低な種族だよ!」


 ルルーさんが引っかかった変な男って、もしかしなくてもヴェルハザード皇帝陛下ですよね……?

 二人の間に何があったのかは知りませんが、陛下は帝国を襲いに来たルルーさんを改心させて手懐けちゃったみたいです。なにあのドS狼、女たらし属性まであるんですか? こわい。


 ともあれ、リルルがまだ人族の国を引っ掻き回そうとしているらしいことは明らかになりました。

 つまり……今現在 彼女が行っている慈善事業もどきにも、何かしらの裏があるというわけです。


『……それで、赤ちゃんを勇者様に祀り上げて、今度は一体何をするつもりなの?』

「うっ……さ、さぁ……どうでしょうね?」

『あれ、リルル? もしかしてルローラちゃんの能力を忘れちゃったの?』


 私が意地悪くそう言うと、リルルは再び顔色を青ざめさせて「あっ……!!」と叫びました。

 そして眼帯に手をかけたルローラちゃんに、リルルはテーブルに身を乗り出して手を伸ばします。


「だっ、だめだめだめ!! お姉ちゃん、その眼使ったら絶交だからね!? 嫌いになるよ!?」

「……でもさっき、大嫌いだって言ってたでしょ?」

「う、ウソウソ! あはは、もうお姉ちゃんってばそんなの信じちゃって可愛いなぁ~! 大好きに決まってるじゃないお姉ちゃん! お姉ちゃん大好きっ! あは、あはは……!」


 乾いた笑みで大好きと連呼するリルルに、ルローラちゃんは満足げに微笑んで眼帯から手を放しました。

 そしてリルルがホッと息を吐くと、ルローラちゃんは何食わぬ顔で眼帯を外しました。


「まぁ、でも見るんだけどね」

「ちょっとぉぉぉーっ!?」


 涙目でルローラちゃんに手を伸ばすリルルでしたが、身を乗り出した彼女の両肩をネルヴィアさんとレジィが掴んで引き戻しました。この二人の腕力と握力は見た目に反してかなり強いので、もうああなったらどうしようもありません。


 そして数秒後、リルルの心を覗いていたルローラちゃんは驚いたように目を見開き、


「リルル、あんた……」

「うっさい! もう何も言うなバカぁ!! もう嫌い! お姉ちゃんのそういうとこホント嫌い!!」


 顔を真っ赤にして手で覆ってしまったリルルに、ルローラちゃんは何とも言えない視線を向けていました。

 そしてそんなルローラちゃんに私が疑問の表情を向けると、彼女はちょっと言いづらそうにしながら、


「……ゆーしゃ様。その……今回のルーンペディでの勇者騒動に限っては、この子も完全に善意でやってたみたい。でも、ドラゴンが村を襲ったのも半分はこの子のせいで……」

『どういうこと?』

「詳しくは後で話すけど、とにかくリルルは例の勇者の味方みたいだよ。明日のドラゴン討伐にはついていくつもりなんだってさ」


 ルローラちゃんからそんな説明を受けて、私は意外な気持ちでリルルに視線を投げかけます。

 善意、ですか……。リルルもそういう心を持ち合わせていたんですね。とはいえ、ドラゴンが村を襲ったことにリルルが関わっているという話も気になりますが……


 かつて帝都で対峙した際には余裕の冷笑を常に湛えていたリルルでしたが、今や真っ赤に染まった頬を膨らませてお姉ちゃんを睨んでおり、さながら歳相応の少女みたいです。


 そんなリルルの視線を無視して、私はルローラちゃんに向き直りました。


『それで、ルローラちゃんはどうしたい?』

「えっ……?」

『リルルの心を読んで事情を知った上で、ルローラちゃんはどうしたいの?』


 ルローラちゃんの瞳をまっすぐに見つめて私がそう問うと、彼女は瞳に湛えていた困惑の色を決意で塗り替えて、力強く返答します。


リルルの尻拭いは姉の務めだもん。あたしも協力するよ」


 それから、ルローラちゃんは少し弱弱しい語調で、


「それで、その……できれば、あたしたちに力を貸してもらえない……かな……?」

『うん。乗りかかった船だしね。命を懸けるとかはできないけど、できる限りの協力はするよ』


 最優先はうちの子たちの命。そこは譲れませんが、しかし勇者様がガイドを務める格安自殺ツアーは阻止しなければなりません。

 それにケイリスくんは黙っていますが、きっとトーレットの時みたいにこの国の人々を救いたいと考えていることでしょうし。


 私の答えを聞いたルローラちゃんは心底ホッとしたように脱力すると、「……ホントにありがとう、ゆーしゃ様」と柔らかく微笑みました。


 あっ、そうだ。


『この首輪は外せないのかな?』

「うん、そうみたい。首輪を盗んできたのは共和国の首都みたいだから、外すならそっちと交渉しないとダメかな……」


 うげっ……やっぱりですか。

 この首輪さえ外れれば、私一人でだってなんとかできたのですが。

 まぁ、元々リルルが見つからなければ共和国首都まで行くつもりだったのですから、そこまで落胆することでもないと考えましょう。


 それから私とルローラちゃんがリルルへ視線を向けると、彼女はバツが悪そうに目を逸らして、


「……べ、べつに助けてなんて頼んでないし……」

「もう、素直じゃないなぁ。昔みたいにあたしに泣きついてきたら可愛いのに。ほら、前にリルルがおねしょした時、夜中に泣きながらあたしの部屋に……」

「うわぁぁあああああっ!!? い、いつの話してるのッ!? もうホント、そういうとこだよ!! お姉ちゃん、そういうとこホント最低!!」


 手元にあったお手拭きを泣きながら投げつけるリルルに、「お行儀が悪いよ」と言いながらニコニコと微笑むルローラちゃん。

 かつて帝都に騒乱を巻き起こしたリルルも、お姉ちゃんの前では形無しのようです。


 しかも久しぶりに妹と会えたことでテンションが上がっているのか、ルローラちゃんの暴走はまるで止まる気配がなく、


「あ、そうだゆーしゃ様。おねしょと言えば、もっと面白い話があってね? リルルが……」

「殺す!! 今ここで殺してやるバカ姉めぇぇええええっ!!」



 数分後、顔を真っ赤にしてガチ泣きを始めてしまったリルルを見て、私はかつて首輪を嵌められたことについての留飲りゅういんがそれなりに下がったのを感じました。もしこれがルローラちゃんの狙いだったとしたら、大したものです。


 ……まぁ、何はともあれ、今後ルローラちゃんを敵に回すのだけは絶対にやめよう。



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