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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 35 ―――笑顔の再会



「……セフィ様? どうかされましたか?」


 お店に入った瞬間に口をあんぐりと開けて絶句してしまった私に、ネルヴィアさんが心配そうに声をかけてきます。

 私はそんな彼女に『しーっ!』と口の前で指を立てて、リルルを指さしました。

 それだけで私の意図は全員に伝わったらしく、みんなの放つ雰囲気が戦闘態勢へと速やかに移行したみたいです。えっ、ちょっとみんな切り替え早すぎじゃない?


 ちらりとルローラちゃんの様子を横目で窺うと、彼女は呆然とした表情をリルルの背中に向けていて、半ば放心状態みたいでした。

 もう失踪してから数年が経っている妹を、不意に見かけてしまったとなれば妥当な反応と言えましょう。


「いらっしゃいませ~」


 突然、私たちに向けて間延びした穏やかな声がかけられました。ちょっと驚いてそちらへ視線を向けると、どうやらこのお店のウェイトレスさんのようです。

 私は今の声でリルルに気が付かれたかと思いそちらを窺いましたが、どうやらお隣のお爺ちゃんとの話に夢中になって、こちらにはまだ気が付いていないみたいでした。

 というわけで、私はリルルが座っているカウンター席の真後ろに位置するテーブル席が空いているのを見つけて、そこを指さしました。

 即座にケイリスくんが「あそこでいいですか?」と小声で訊ねると、ウェイトレスさんは「はい、どうぞ~」と私たちを案内してくれます。


 まだ放心していたルローラちゃんの手をネルヴィアさんが引いてあげながら、私たち五人はぞろぞろとリルルの背後に陣取ります。

 距離は二メートルとちょっと……いつでもれます。いや、殺らないけど。


 とりあえずこちらに気づかれていない間に、リルルにどう接触するかを考えることにしましょうか。

 その、なんていうか、一応彼女を捜してはいましたけど、いざ急に見つかると どうしたらいいかわからなくなったのです。

 某ポケットに収まるモンスター育成ゲームで、草むらを歩いていたらいきなり伝説のモンスターとエンカウントしてしまった感覚を思い出しちゃいました。

 閑話休題それはさておき


 私たちはいつリルルに気付かれても彼女を捕獲できるように身構えながら、ウェイトレスさんにご飯を注文します。

 まぁ、レジィがいて取り逃がすなんてことは絶対にないとは思いますけどね。


 どれ、ちょっとリルルが何を話しているのかを盗み聞きしてみましょうか。

 また妙な陰謀を企ててたら大変ですからね。


「もぉホントに野蛮なんですよぉ、帝国の勇者って~。目が合ったら襲いかかる血に飢えた獣って感じで、すっごい怖かったですぅ~」

「へえ、そうなのかい。そいつは物騒だねぇ」


 ピシリ、という音が聞こえました。


 見れば、隣に座っているネルヴィアさんが手にしていた湯呑ゆのみに、大きな亀裂が入っています。

 ネ、ネルヴィアさん……? 女の子がしちゃいけない顔してるよ? 落ち着いて?

 私がそっとネルヴィアさんの腕を掴んで落ち着かせようとすると、


「たしかに多少は強いみたいですけどぉ、ちょっと品性が下劣っていうか……人間性には難アリみたいな?」


 ガリリッ、という音が聞こえました。


 見れば、逆隣りに座っているレジィの爪が鋭く伸びて、テーブルに五本の傷跡を残していました。

 レ、レジィ? 目が血走ってるし、牙がむき出しになってるよ? 落ち着いて?

 私はレジィを落ち着かせようと、彼の腕にも手を伸ばしました。


 もう、二人とも……この私に仕えるのなら、私を見習っていつでも冷静沈着にいてもらわないと困っちゃいますよ。


「その勇者に仕えてる人たちも低レベルっていうかぁ……お世辞にも、まともとは言えない人たちなんですよねぇ」



 殺す。



 私が即座に立ち上がろうとすると、両隣からネルヴィアさんとレジィが私の身体を抑えつけるように抱き付いてきました。

 ふふっ、急に抱き付いてきて、どうしたの? あとでいっぱい甘えさせてあげるから、ちょっと放して? 大丈夫、五秒で終わらせてくるから。ちょっと○○を×××るだけだから。


 そんな風に私たちが軽く揉み合っている間に、リルルのお隣に座っていたお爺ちゃんが「おっと、そろそろ孫を迎えに行かんと」と言って席を立ち、軽く手を振りながらレジへと向かって行きました。

 リルルも「それでは、また」と言ってにこやかにお爺ちゃんを見送ります。

 そしてリルルはお爺ちゃんがお店から出て行くのを見届けると、「ふぅ」と一息ついてから湯呑みを手に取りました。


 すぐにルローラちゃんを除く私たち四人は立ち上がると、それぞれ所定の位置に移動します。

 そしてリルルが湯呑みのお茶に口をつけた瞬間、私を胸に抱いたケイリスくんが、先ほどお爺ちゃんの座っていた椅子に腰かけました。


『楽しそうなお話だね。私たちにも聞かせてよ』


 リルルはお茶を飲みながらこちらを振り返ると、「ごぶぇほッ!?」とか言いながら口と鼻からお茶を噴き出しました。


 そして激しくむせながらもリルルは慌てて立ち上がろうとしますが、そんな彼女の両肩が“ガシッ!!”と指が食い込むほど強く握られ、再び着席させられます。

 リルルは鼻からお茶を垂らしながら真っ青な顔で振り返ると、そこにはすごく良い笑顔のネルヴィアさんとレジィが。

 肩の筋肉どころか骨ごと掴むかのような握力に、二人の殺気がありありと窺えました。


 ハイライトさんがサヨナラしちゃった瞳を涙目にしながら、リルルは引き攣った笑みを浮かべてブルブル震えています。

 そんな彼女へ、私は完全に口元だけで笑いながら言い放ちました。


『どうしたの? ほら……さっさとしろよ(・・・・・・・)



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