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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 33



 目的を概ね果たした私たちは、再び宿屋に戻って来ていました。

 宿の玄関を潜ってカウンターの前を通る際、宿屋の亭主さんが「もう一部屋空いたけど」と言ってくれました。

 さすがに一部屋に五人詰めている今の状況はみんな窮屈かなと思っていたので、三:二で分けようかとみんなに視線を向けたところ、


「結構です」


 ネルヴィアさんがすごく良い笑顔で即答して、さっさと私たちの部屋へ続く廊下を歩いていってしまいます。

 そして当然みたいな顔で後に続くレジィと、ちょっと何かを言おうとして、けれど何も口にはしなかったケイリスくん。ルローラちゃんも俯きがちに彼らの後に続きました。


 ……いえ、私個人としては、むしろみんな一緒に寝るっていうのは大好きなので望むところなのですよ?

 でも意外とみんなも五人部屋に乗り気なのでしょうか……? わりと狭いっちゃ狭いと思うんですけど。


 というわけで、昨日と変わらず大部屋に集まった私たち五人は、何度目かになる作戦会議を始めます。


 ちなみにルローラちゃん曰く、司教様の話した内容に嘘偽りは無かったとのことです。

 出会ったばかりの巡礼者もどきに、こんなぺらぺらと話していい内容なのかなとも思いましたが……どうやらルローラちゃんが言うには、司教様は私たちが只者ではないことを見抜いていたのだとか。


「とりあえずアレだな。その偽勇者ってのは御主人みたく強いわけじゃなさそうだな」

「相手がドラゴンですから、一概に弱いとも言い切れないとは思いますけどね」


 レジィがつまらなそうに吐きだした言葉に、ネルヴィアさんが真剣な表情で答えました。

 私は自分の三つ編みを弄びながら、根本的なことをみんなに訊ねます。


『ねぇ、ドラゴンって、そんなに強いの?』

「強いなんてものではありません! ……もちろん、セフィ様の相手になるとは思えませんが、それでも普通の人間にとってはかなりの難敵です」

「ドラゴンは鱗が硬すぎて、ほとんどの攻撃が通じないらしいぜ。ドラゴンが個人にぶっ倒されたなんて話、鍛錬バルビュートくらいしか聞いたことがないぞ」


 無理ゲーの代名詞みたいなドラゴンに、当たり前みたいにタイマン勝つリュミーフォートさん。あの人ほんとに何者なんですか? ルルーさんがエルフ族だと判明した今、もう何が来ても驚きませんが。

 ……とはいえ、たかが鱗が硬い程度のことで私が負けるようなビジョンも浮かびませんけど。たしかに殺さないように倒すのはめんどくさそうですし、首輪がある今は厳しい相手ですが……手加減無しなら空間ごと原子レベルで消滅させれば瞬殺ですし。

 でも魔法を使わずに倒せと言われたらどうしたらいいかはわかりません。この世界、まだ大砲とかもロクに無いみたいですし。


『勇者ちゃんは、どうやって倒すつもりなんだろうね? 何か有用な魔法があるのかな?』


 私が腕を組んで悩みながら口にした問いに、ケイリスくんが涼しい顔をして口を開きます。


「案外、村の人間を殺されて破れかぶれになっているのかもしれませんよ」

『え?』

「勝ち目がなくても、特攻してやろうというつもりなのかもしれません。どっちみちドラゴンを放置しておくことはできませんし」

『さ、さすがにそんなの、周りの人が止めるんじゃ……』

「ですから周囲の人間は適当に欺いて、さも勝算があるかのように振る舞っているのかもしれません」


 い、言われてみれば確かに、その可能性もありそうですけど……

 でもそれでもし歯が立たなかったら、そんなの集団自殺ツアーじゃないですか。

 私だって同じ状況なら……家族や村人を皆殺しにされたら、正気を保っていられる自信なんてありませんが……


『一度 勇者ちゃんと直接会って、真意を確かめてみたいね』

「……今回は、首を突っ込むんですか?」


 そう遠慮がちに訊ねてきたケイリスくんの言葉に、私はちょっといじわるな笑みを浮かべて、


『大事な家族が、今度はドラゴンに突撃していったら困るからね』


 私の皮肉たっぷりな言葉に、ケイリスくんは「ううっ……」と顔を真っ赤にして俯いてしまいました。

 なんだかエルフの里から帰ってきて以来、ケイリスくんが表情豊かになったみたいで嬉しい今日この頃。でもあんまりイジメると可哀想なので、ほどほどにしとこっと。


 ……と、そこで。

 珍しく眠っていないのに、教会を出てからずっと黙りこんでいるルローラちゃんへ、私は目を向けました。


『ルローラちゃん、大丈夫? さっきから元気ないけど』


 私がそう言うと、ルローラちゃんはハッとしたように顔を上げて、けれどもまた憂鬱な視線を床に向けてしまいます。

 そしてその理由にも、見当はついていました。


「……もしかしたら、村をドラゴンに襲わせたのも、あの子なんじゃ……だとしたら、とんでもないことを……」


 そう呟いて、また頭を抱えてしまうルローラちゃん。

 ……実際、現時点でその可能性を否定する材料は、どこにもありませんからね。


「セフィ様を遊びで陥れようとした女です。ルローラさんの手前、こう言うのは酷かもしれませんが、私はドラゴンの襲撃は仕組まれたものではないかと思います」

「オレ様も同感だな。襲われた村ってのは、そんなに魔族の領地寄りじゃなかったんだろ? もっと襲いやすい場所もあったのに、わざわざその村だけ……しかも勇者が住んでるなんて、できすぎだろ」


 ネルヴィアさんとレジィの忌憚きたんのない意見に、ルローラちゃんはびくりと肩を震わせました。いつものんびり飄々としている彼女ですが、さすがに実の妹に関することでは冷静沈着とはいかないようです。

 ケイリスくんはそんなルローラちゃんに少し同情的な視線を向けていますが、しかし根本的にはネルヴィアさんたち寄りの意見なのか、何も言わずに唇を引き結んでいます。


 私は空気が重くなっていくのを感じて、その陰鬱な雰囲気を打破すべく、殊更晴れやかな表情で口を開きました。


『まぁ、正解を知っているのは本人だけだよ! 孤児院を何度か訪れてるってことは、まだこの街にいるかもしれないね。何をするにも明日までは時間があるんだし、ちょっとリルルを探してみない?』

「……ゆーしゃ様……いいの?」

『私も文句の一つくらい言ってやりたいしね! それに、もしかしたら大きな誤解かもしれないし。ね、落ち込むのはそれを確かめてからでも遅くはないんじゃないかな?』


 ルローラちゃんは私の言葉を聞くと、悲壮な表情を少しだけ和らげてくれました。

 そしてリルルの行動に懐疑的だった三人も、やれやれみたいな表情で薄く笑みを浮かべています。

 おや、どうやら私がそう言いだすのはバレバレだったみたいですね。

 ふふふ、さすがはうちの子たちです。 



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