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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
105/284

1歳3ヶ月 32

遍駆羽御様にレビューをしていただきました!

本当にありがとうございます!


「……そのドラゴンは、今どこへ?」

共和国首都プラザトスの騎士団が懸命に捜索した結果、最後に目撃されたのは魔族領の浅域にある“ボボロザ樹海”へと入って行くところだったそうです」


 ボボロザ樹海? ……あれ、なんだっけ? どこかで聞いたことがあるような……

 私がそんなことに意識を割いていると、司教様は続けて、とんでもないことを口にしました。


「そして現在、勇者様を筆頭として、ボボロザ樹海への討伐隊が編成されつつあるのです」


 再び私たちは、驚きを露わにしました。

 その樹海は魔族領にあるんでしょう? じゃあ、思いっきり戦争中の敵領に踏み込んで攻撃を仕掛けるってことですか?

 しかも実力が未知数な勇者様を頼りにして……。主戦力は戦域前線に割いているでしょうから、そこまでの実力者を差し向けることもできないでしょう。


 私以外の四人は、『ドラゴン』という単語を聞いたとき、明らかに動揺していました。きっと普通にやれば勝ち目がないような超生物なんだと思います。どんなゲームでも、ドラゴンは強キャラと相場が決まっていますからね。


 ……ええ~? ……それ、勝ち目あるんですか?


 ケイリスくんも私と同じ事を考えたらしく、すぐさまその作戦について質問をしてくれました。


「それは……勝算はあるんですか?」

「共和国としては、今後再びドラゴンの奇襲を受けるリスクを看過するわけにはいかないということらしいですな。向こうからの奇襲に対応するよりは、集められる戦力でこちらから奇襲を仕掛けた方がまだましということでしょう」


 理屈ではそうでしょうが……だからって、敵のホームグラウンドで戦うというのはかなり厳しいのではないでしょうか。

 それに魔族の領地へ侵攻するにあたって、敵がそのドラゴン一体しか現れないということはないはずです。強さはさておき、きっとたくさんの敵に囲まれての戦いを強いられることは想像にかたくありません。


 それらのリスクを“仕方ない”と割り切るっていうのは、ちょっと信じられないことです。これは、戦争慣れしていない日本人的な思考なのでしょうか?

 そんな、将棋やチェスじゃないんですから……と思ってしまうのは、この世界でも共通の感情であると願いたいものですが。

 それならもういっそのこと、共和国側が派遣するのはたくさんの優秀な騎士よりも、私の首輪の鍵一本の方がよっぽど有効だと思います。そしたら樹海を地図から消して差し上げますけど?


「その作戦は、誰が?」

「希望したのは、勇者様自身です。それを許可して兵の派遣に応じてくださったのは、ゴルザス第三師団長殿ですが」


 その答えを聞いた瞬間、ケイリスくんの表情が明らかに強張り、それから彼は膝の上に置いていた手を硬く握りしめていました。

 ど、どうしたの、ケイリスくん……?

 私が心配して彼の顔を覗き込むと、それに気が付いたケイリスくんはハッとしたようになってから、すぐにまた普段のクールな表情に戻りました。


「……いつ、出兵するんですか?」

共和国首都プラザトスからの兵が到着するのが、今夜ということになっています。ですから、早くて明日となることでしょうな」


 明日!? いくらなんでも急すぎませんか!?

 だってクリヲトちゃんが勇者認定されたのが昨日だから……あ、でもドラゴン襲撃が半月前だから、早すぎるってこともないんでしょうか?

 仕掛けるなら早く仕掛けないと、ドラゴンがどこかへ行ってしまったり、また村や街が襲われてしまうかもしれませんし。

 それに教会による正式な勇者認定が昨日だったとしても、その内定はもっと早くに決まっていたでしょうし。


 と、そこで今まで黙っていたルローラちゃんが、ぽつりと呟きました。


「……ねぇ、勇者をこの街に連れてきたのって、誰なの?」


 ルローラちゃんの問いに、私はハッとします。

 彼女が襲われた村の唯一の生き残りだというのなら、誰か村人以外で彼女を村へ連れてきた人間がいるはずです。

 いえ、あるいは魔法を使って単身でここまでたどり着いたという可能性も一応あるにはありますか。

 質問を受けた司教様は一つ頷くと、


「偶然近くを通りかかったという女性が、村から黒煙が立ち上っているのを見て、勇者様を救出してくださったのです」

「で、この街まで連れてきたってこと?」

「ええ。ここルーンペディは、その村から最も近く大きな街ですからね。それから彼女はこの街に留まり、何度か孤児院の勇者様を訪ねてくださっています」


 ほぇー、じゃあその人が居なかったら、勇者様も危なかったってことなんでしょうか?

 まぁもしもドラゴンに奇襲されたら、私だってしっかり対応できるか自信はありません。そういう意味では、たった一人でも生き残れただけで奇跡的と言えましょう。……それが幸か不幸かはさておき。


 それにしてもその女の人、ただ孤児院に届けるだけじゃなくて、何度も会いに来てるっていうのはすごく優しいですね。どんな人なのか、私も一度会ってみたいような気もします。

 ……などと考えていると、司教様はとんでもないことを口にしたのです。




「彼女はこの辺りでは見かけないような、黒いドレスのような服を着た美しい女性でしたな」




 直後、ルローラちゃんはむしり取るように眼帯を取り去ると、その翡翠色の瞳で司教様を射抜きました。

 その突然の行動に驚いて固まっている司教様や、何か不穏なものを感じたのか腰を落とす護衛の二人。けれどもそんなものには構わずにルローラちゃんは司教様の心を探り続け、数秒後……輝く右目を再び眼帯によって封じました。

 そして俯いて頭を抱えると、掠れた声で呟きました。


「……リルル(・・・)だ」



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