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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
101/284

1歳3ヶ月 28



「セフィ様……本当に、あの偽勇者を放置しておいても良ろしいのですか?」


 ルーンペディは必然的に、巡礼者が数多く訪れます。

 ここはそんな彼らのために構えられた質の良い宿屋の一つで、私たち五人は久々にまともな寝床にありついていました。

 とはいえ残念ながら宿泊者が多いせいで複数の部屋を取ることができなかったため、大部屋に五人が詰めるような形となってしまいましたが。

 ううん、これも修学旅行みたいで私はちょっぴり楽しいんですけどね。ただ他の子に申し訳ないっていうだけで。


 現在、時刻はおそらく七時頃でしょうか。夜のとばりが下りた白煉瓦造りの街並みはどこか神秘的で、窓から見下ろせる景色はどこに目を向けても絵画のようです。


共和国イースベルクが正式に認定したんだから、べつに“偽”勇者じゃないよ、おねーちゃん』

「勇者は世界に一人だけ、セフィ様しか認められません!」


 いつもはおっとり穏やかな垂れ目をメラメラと燃やして、ムキになった感じでそう訴えるネルヴィアさん。でも私自身そこまで勇者であることにこだわりが無いのでちょっと困ってしまいます。

 いえ、そんな風に思ってもらえるのはもちろん嬉しいんですけどね?


 私はベッドに腰掛けたネルヴィアさんに後ろから抱きしめられている体勢のまま、ベッドの対面にある椅子にお行儀よく腰かけているケイリスくんへと口を開きました。


『あの勇者も広告塔プロパガンダかな? それとも、本当に強いのかな?』

「さぁ、それは何とも。ただ喋るだけなら誰でも……ああ、いえ。喋るだけでも普通ではないですけど」


 あはは、たしかに。そう言われるまで私も、あの赤ん坊とも言えるような幼児が喋っていたことに対してほとんど疑問を抱きませんでした。

 普通に考えれば、赤ん坊なんですから魔法なんて使えなくてもただ喋るだけで異常なことなんですよね。“魔法を使える公算が高い”というだけでも、本来十分に勇者認定を受ける素質はあるのかもしれません。

 そうなると気になるのは、本当にただ頭が良すぎるだけの子なのか、はたまた私と同じ“転生者”なのか……そこが焦点ですね。


「でもさー、もしかしたらゆーしゃ様より、あたしの方が近いかもよ?」


 ベッドに腰掛ける私たちの後ろで転がっていたルローラちゃんが、ころんと寝返りを打ちながらそんなことを言いだしました。まだ起きてたのね。

 しかし確かに、その可能性も考えないでもありませんでした。リルルが関係しているかはわかりませんが、何らかの方法で年齢が若返っているとすれば、喋れることにも、あの落ち着き払った表情にも納得がいきます。

 あの雰囲気からして、もしかしたら自分で自分を若返らせたのかもしれません。あるいは、身近な魔術師にやってもらったとか……

 だって、もしも不本意に赤ん坊にされてしまったのだとしたら、あんな穏やかに笑っていられるとは思えませんし。


「そうなるとよ、やっぱり強さは見ておきたいよなぁ」


 そう言うレジィの顔には好戦的な色がありありと浮かんでいます。最近は少し落ち着いてきたかと思いましたが、やはり戦闘大好き種族ですね。

 とはいえレジィとは意図が異なるものの、私も概ね彼の言葉には同感です。

 例の勇者がどれほどの力を秘めているのか、どんな人柄なのかを知らないことにはおちおち休んでもいられません。


『でも、戦ってるところを見ようにも、こんな人族領地の奥深くまで来るような魔族、レジィくらいしか知らないよ?』

「お、おい、急に褒めるなよご主人……」


 ほっぺを染めて照れるレジィは素直に可愛らしいと思いますが、しかし褒めてません。決して褒めていません!


「では、私が始末してきましょうか?」


 始末って、いったい何をするつもりなのネルヴィアさん!?

 このところ鳴りを潜めていたので油断していましたが、またネルヴィアさんの狂信者バシュハルスイッチが入ってしまったようです。

 普段が優しすぎるくらい優しい分、このギャップはなかなかに恐ろしいものがあります。

 まったく、いくら大切な人に関することでも、そう簡単に激昂するものじゃないよ? 常に温厚で穏やかな私を見習ってほしいものです。


「戦うまでもなく、ルローラさんの『心眼』を使えばすべてわかるんじゃないですか?」


 私がネルヴィアさんの過激論に苦笑しているところへ、なんてことはないといった風にケイリスくんが正論を主張しました。

 おおっ、なるほど。その手がありましたか。

 私が感心しながらルローラちゃんへと視線を向けると、しかし彼女は不服そうな顔で声を荒げました。


「えーっ!? 『勇者』の心を覗くなんて、もうこりごりだよ! 今度こそ死んじゃうってば!」


 あー……そっか、そういうリスクもありましたね。

 もしも万が一、例の勇者クリヲトちゃんが私と同等以上の力を持っていたとして、さらに膨大な呪文を頭の中に保持していたら、ルローラちゃんは私との戦いの二の舞になってしまいます。

 うーん、良いアイデアだと思ったんですけどね。心を読めば、一発で転生者かどうかも判別できるんですけど……

 ああ、でもあの子が転生者だとバレたら、芋づる式に私の正体もバレかねないのか。じゃあこの案はダメですね。


 その後もしばらく考えてみたものの、特に良いアイデアも思い浮かばず……


『もうめんどくさいし、直球勝負でもいいかもね』


 直球勝負―――すなわち私の正体を明かしたうえで彼女の正体を訊ねてしまうのも、場合によっては手かもしれません。



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