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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第三章 【イースベルク共和国】
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1歳3ヶ月 27 ―――イースベルクの勇者



「今日はやけに街が活気づいているなとは思ってたんですが……まさかこんなことになっていたなんて」


 そう呟くケイリスくんに、私は無言で頷きます。たしかに私も、やけに街の人たちが浮ついているなと思っていたのです。

 お店を出てから街並みを再び歩いていた私たちは、道行く人々の多くが足を向けている方角へと向かっていました。

 今日が勇者誕生の祝日だと言うのなら、その誕生した勇者様とやらがこの街にいるはずです。まさかお忍びで来てる私の誕生を祝っているわけでもないでしょうしね。


 ……“誕生”と言ったって、いくらなんでも今日生まれたわけというわけではないはずです。

 ということはおそらく、教会から正式に『勇者である』と認定を受けたのが今日なのでしょう。言うなれば、『勇者としての』誕生日ってやつです。


 私以外の四人は胡散臭そうな表情をしていましたが……しかし私だけは、その存在に強い脅威を感じていました。

 というのも、他ならぬ私は、とある可能性を考えないわけにはいかないからです。



 ―――もしかしてその勇者は、私と同様に“転生者”なのでは?



 私という前例がある以上、これは決してあり得ない話ではありません。

 その勇者がプログラミングの知識を備えているか否かで話は変わってきますが、勇者などと持てはやされている以上は、魔法を使用できると考えて間違いないのでしょう。


 そして問題なのは、その強さと人格です。

 なぜならこの私でさえ、お兄ちゃんと交わした“不殺の約束”がなければ一人で帝国を滅ぼすことだって可能なのです。

 あの悪夢の夜、万が一にでも盗賊によって私の家族が殺されていたなら、その想定は現実のものとなっていたかもしれません。


 逆に、“不殺の約束”は私という脅威から魔族たちを守ってもいます。

 加えてレジィやルローラちゃんたちの存在が、人族以外の種族に対する私の接し方、考え方を軟化させているのもまた事実。


 ……もし、新たに誕生した勇者とやらが優しい心を持ち合わせておらず、私と同等かそれ以上の強さを示したなら……それは世界にとって非常に危険な存在となることでしょう。


 場合によっては、いずれ私と対立する可能性も……


「セフィ様? どうかされましたか?」


 無意識に怖い顔をしてしまっていたのか、私の顔を覗き込んでいたネルヴィアさんが心配そうな表情を浮かべていました。

 私は彼女を安心させるように笑みを浮かべながら、首を横に振ります。

 そして私の心情を深読みしてくれちゃったらしいネルヴィアさんは、強い共感を示す表情で何度も頷きながら、


「セフィ様のお気持ちはわかります。セフィ様を差し置いて“勇者”を名乗るだなんて、不届き者もいいところです。即刻、私が排除してきましょう」

「だな。御主人より強い人間がいるとは思えないが、そいつの実力は見ておきたいし」


 うちのパーティの過激派二人が、なにやら物騒なことを言い始めてます。お願いだからやめて。


 私はパーティの穏健派であるケイリスくんに二人をなだめてもらおうと、彼に期待を込めた視線を向けました。

 ケイリスくん、いつもみたいにお願いします。


「………………」


 あ、あれ? なんで黙ってるのケイリスくん? もしかして今の話、聞いてなかった? そんなわけないよね?

 そしてもう一人の穏健派であるルローラちゃんは、ネルヴィアさんの背中で寝ちゃってます。……お腹がいっぱいになったから眠くなっちゃったのかい……?

 野党ストッパーが機能していない政治って、こんなに恐ろしいものなんですか!?


 私が独裁政治の恐ろしさの片鱗を味わいながら戦々恐々としていると、不意に前方から歓声が聞こえてきました。見ればそこは街の中心にある教会前の大広場のようで、その周囲にはたくさんの民衆が集まっています。

 そしてその中心で、人々の視線を一身に受けている人物が一人。


 夕陽のような赤い髪に、健康的な色合いの肌。

 遠目にもわかるほどお金がかかっていそうな豪奢な礼服に身を包んだ“彼女”は、落ち着いた表情で薄く微笑みながら、自らに注目する群衆たちに手を振っていました。


 その外見は、どうみても一、二歳の“幼児”。

 けれども彼女の纏う雰囲気や、落ち着き払った態度。そして明確に自我を持っているらしい様子を見れば、それが只者でないことは誰の目にも明らかです。



「―――はじめまして、わたしは『クリヲト』。魔族をほろぼすためにうまれてきました」



 迷いもてらいも無くそう断言した彼女―――“クリヲト”の笑みに、私は寒気を禁じ得ませんでした。



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