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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第一章 【アルヒー村】
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0歳7ヵ月 6 ―――勇者セフィリア?



 ことの始まりは、『お兄ちゃん失踪事件』から数日が経った、ある日のことでした。


 例の事件以降、それまで頻繁に私の家へ出入りしていた村の人たちがぱたりと来なくなってしまいました。

 そして私は時折向けられる居心地の悪い視線や、ひそひそ声から逃げるようにして、ますます本の解読に熱中するようになります。


 お兄ちゃんは、私がお父さんの本を持ち出すことを咎めてくることはなくなりました。

 それどころか村のみんなが私に構わなくなったのと入れ替わるようにして、私のことを可愛がってくれるようになりました。

 ……私、もしかしてこんな小さい子に同情されてる?


 するとそんなある日、村長であるバシュハルお爺ちゃんが、村のお年寄りたちを全員引き連れて私の家を訪ねて来たのです。

 当時の私は、一体何事かと大層怯えたものです。

 ついに私は悪魔の子として弾劾(だんがい)され、酷いことをされてしまうのかと人生を悲観したものでした。


 しかし現実は、私の想像をさらに一足飛びで超えてきたのです。


 村長はたっぷりと長い時間をかけて、私にある『お話』を聞かせてくれました。

 それは要約すると、次のようなものです。


 まず、この世界にも宗教のようなものが存在するようです。それも司教や修道士といった職業が存在するくらいのレベルで、熱心に信仰されているのだとか。


 私の前世でも、科学が発展するまでの時代において、人々は敬虔に神へと祈りを捧げていたと聞きます。

 おそらくこの世界の文明レベルは、科学全盛だった二十一世紀の地球よりもずっと遅れているように思います。……私はこの村しか知らないため、あくまで想像の域を出ませんが。


 魔族との戦いを生き抜くために国力を軍事面に投じている人族は、理解の及ばない世界の節理を、科学ではなく神話的な空想で補っているのではないでしょうか。

 そして、戦争が身近なところにある国家とは総じて、国民……とりわけ戦場に赴く兵士やその家族たちの『死に対する恐怖』を和らげる鎮痛剤として、宗教を用いるものなのです。


 かくして、この小さな村にも例外なく信仰は根ざしており、しかもそれはこの世界において最も有名な、最大宗派とでも言うべきものだったのです。


 その名も―――『勇者信仰』。


 基本的なストーリーは、まぁ、ありがちなものです。

 まず、この世界には二柱の『神』が存在するとされています。

 一方は『創造を司る神』であり、この世界の大地を、天を、そして人族を生み出しました。

 一方は『破壊を司る神』であり、この世界に災害を、死を、そして魔族を生み出しました。


 魔族の生まれ方には諸説あるそうですが、主流となっている説は、破壊神から流れ出した“魔力”によって人族や獣が影響を受け突然変異してしまったというのが、魔族の原点とされているらしいです。

 二柱の神は創世以来から長らく争っており、現在の人族と魔族の対立構造は、その代理戦争とも呼べるものだと見られています。

 ここまでが、神話の大前提となるバックグラウンド。


 そしてここからが『勇者信仰』たる所以です。

 ある時、とある小さな貧しい村に生まれた少女は、生まれながらにして高い知性と教養を持ち、そして魔法を操れたのだとか。

 しかし魔法とは、元をただせば『魔』族の『法』則です。破壊神の影響を受けて突然変異した種族である魔族が、生まれながらにして持つ破壊の性質……それを人族は恐れと侮蔑を込めて魔法と呼んでいたのです。

 そのため最初は、魔族にしか扱えないはずの魔法を行使できる少女は迫害の対象となったらしいです。


 しかし少女は迫害に屈せず、それどころか数々の神がかり的な伝説を打ち立てながら人々を救済し、ついには大陸に巣食っていた魔族を世界の果てへと追いやり、平和を取り戻したのです。

 そして人々は、少女を“勇者”と呼び讃えた……と。


 ざっくりまとめると、こんな感じのお話です。


 この神話において、どうやら魔法というのはあまり良い印象の技術ではないようです。

 しかし、強大で暴力的な能力を持つ魔族に対抗するためには、非力な人族は魔法に手を染め、毒を以て毒を制すことでしか生き残る道は無かったのでしょう。

 本来は敵が扱うはずの力を、敵以上に使いこなして打倒する。……なんだか使い古されたヒーロー像ですね。


 ちなみにこの『勇者信仰』、またの名を『魔女信仰』とも呼び、この世界においては『勇者=魔女』という図式が成り立つみたいです。

 神話での活躍を聞くに、現代日本で生まれ育っていた私としては、魔女というより魔法少女という方がしっくりくるのですが……

 けれども魔法の技術を後世に伝えたのは勇者らしいので、魔法を人族に与えたという意味では、魔女という響きもしっくりくるような気がします。


 よって、この世界において『魔女』という称号は、最上級の賛辞を意味するのだそうです。

 日本人が相手を褒める時に「神!」とか言うような感じで、とんでもなく優秀な魔術師や魔導師のことを「魔女」と呼ぶのでしょうか。


 かつての勇者―――あるいは魔女―――が伝えた技術を継承して魔法を扱うのが魔術師であり、その魔術師を養成・運用する魔術師に与えられる称号が魔導師みたいです。

 なるほど、そう説明されれば、爵位を授爵するほどの栄誉も頷けるような気がします。軍事面における貢献度は、並みの兵士の比ではないはずです。

 ……まぁ、信心深くない私にしてみれば、この『授爵』の裏側にはもっと現実的で身も蓋もない『支配者の思惑』が見え透いているように思えるのですが。


 ともあれ、これで私が現在、村のお年寄りたちに礼賛されている理由がご理解いただけたかと思います。

 人族と魔族が激しい戦争を繰り広げる戦乱の世に、貧しい村で生まれた知能の高い赤ん坊。


 そしてこれは初めて聞いたのですが、どうやら私はお母さん似の顔らしく、まるで女の子のような顔つきをしているそうです。村には鏡がないので、そんなの全然知りませんでした。だからお母さんは私の髪を切ってくれないのでしょうか?


 極めつけに、私が一日中 睨めっこしている本が魔術師様の形見であるという情報が、どこからか漏れてしまったようで……

 なんというか、ここまでおあつらえ向きな条件がそろっていたので、村のみんなも、つい思っちゃったんでしょうね。


 「あれ、こいつ勇者じゃね?」と……



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