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神童セフィリアの下剋上プログラム  作者: 足高たかみ
第一章 【アルヒー村】
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0歳3ヶ月 ―――神童セフィリア




 労働とは、死ぬことと見つけたり。




 私が二度目の(・・・・)生を受けたのは、人口 三〇人ほどの小さな村でした。


 ここから馬車で三日という距離には、人口 十二万人を擁する『帝都ベオラント』があるらしいのですが……そんなことが信じられないほどの超ド田舎です。


 しかも今は人族と魔族の戦争中であるため村の男手はほとんどが出払っていて、どこの家計も火の車。

 残された女性やお年寄りたちが互いに助け合うことで、どうにか日々を食い繋いでいるような有様でした。


「セフィ? セフィ~?」


 聞き馴染みのある声に、私は床に広げた本の上で寝そべるように読書していたのをやめて、そちらへ視線を向けます。

 そして足音が私の方へ近づいてくると、すぐそこの突き当たりから「ひょこっ」と女の子の顔が覗きました。


 見た目は中学生くらいの少女にも見えますが、なんと彼女は今年で十九歳とのこと。

 派手さはないものの、透き通った金髪のセミロングが似合う美人さんです。宝石みたいな紫色の瞳がとっても綺麗。


「もう、やっぱりお父さんの部屋にいたのね」


 そう言って、彼女―――私のお母さんであるマーシアさん―――は困ったように微笑みました。

 もはや私が勝手に這いずり回ることに何の驚きもない辺り、私が日頃からどれだけの常識破りを連発しているかが窺えます。……ごめんねお母さん。

 彼女は私に手を伸ばして軽々と抱え上げると、私の広げていた本を机の引き出しに戻しました。


 あーっ! この身体でその本を取り出すの、すっっっごい苦労したのにーっ!!


 私が不満げな顔で猛抗議すると、お母さんは私の白金色の髪を優しく撫でました。


「この本は、まだセフィには早いかなぁ。もうちょっと大きくなってからにしようね?」


 お母さんの言葉は、確かに正しいものでした。そもそも私には文字が読めませんからね。

 まぁ、この貧乏村の住人なら、誰も文字は読めないはずですが。


「こんな歳で本に夢中なんて、いったい誰に似たのかなぁ?」


 “こんな歳”って言葉は、むしろお母さんにこそ言いたいものです。

 だって見た目が中学生……! それで二児の母というのは、さすがにちょっと面食らってしまいます。

 ……どう考えても、うちのお父さんはロリコンです。


 そしてお母さんの言った通り、本に強い興味を示す子供というのは珍しいのでしょうね。

 なぜなら、この世界では義務教育といった概念はありません。

 だからお金のない貧しい人たちは、大人でも読み書きや加減乗除さえもできないのです。


 しかし私は違います。

 私には、『生樹 千早(おいき ちはや)』として日本で過ごしてきた記憶があるのですから。


 なんの因果か間違いか、私には“前世の記憶”があります。


 使用されている言語が違うため、日本語の読み書きは役に立ちません……が、それでも基礎的な語学力は十分。

 加減乗除も、化学の知識も、歴史の中で先人たちが辿った道筋も、そして社会に出てからつちかった社会人としてのスキルも、すべてこの頭に刻まれているのです。


 周りの教育レベルが低いのですから、この前世の知識を利用すれば成り上がりも十分に可能……のはず。


 けれども、油断は禁物です。

 確かに私は現段階で、周囲よりも遥かに豊富な知識を持っています。

 さりとて偉大な先人たちは、こんなありがたい言葉を遺しています。


 『十で神童 十五で才子 二十過ぎれば只の人』


 未成年に対する称賛とは常に、“その年齢にしては”という前置詞が付いて回るものです。

 その年齢にしては、頭が良い。

 その年齢にしては、絵がうまい。

 その年齢にしては、立派な考えだ。

 しかしそれらは大抵、経験を積んだ大人なら出来て当然であることが非常に多いのです。


 だからこそ、私は将来のために研鑽(けんさん)と自助努力は惜しみません!


 ……前世での私は、目の前のことしか見えていませんでした。

 小学校のテストで満点ばかり取ってしまったせいで「あれ、私って天才!?」と勘違いして中学校で絶望したり。

 高校や大学では部活も勉強も真面目に取り組まず、受験や就活の時にかなり苦労したり。

 やっとこさ内定をもらって入社した会社がじつは超絶ブラック企業で、最低な待遇でこき使われた挙句に……

 そうです、私は自分の死の瞬間を覚えていませんが……


 おそらく私は、“過労死”したのでしょう。


 だから今度こそ、間違えるわけにはいきません! この最低な前世の記憶に賭けて、絶対に!

 人生は働いたら負け! これが世界の真理です!


 しかしそれで貧しい生活に甘んじるのは三流。

 一流は働かず、それでいて贅沢に暮らす……これが最強です。にやり。

 帝都にマイホームとか構えちゃいますよ。


 そしてそのためには、もたもたしてはいられません。

 “神童”だからこそできることは、たくさんあるのですから。

 なんら特殊能力を持たない私がこの世界で生き抜くためには、『そうして平和な歳月は流れ、私は五歳になりました』なんてことは、絶対にあってはならないことなのです!!


 この世界では、成人は男女ともに十五歳。つまり『十五過ぎれば只の人』と見なされてしまいます。

 とすれば、神童は七歳くらいまで。才子は十一歳くらいまで。

 貴重な時間を無駄にはできません!


 現在、私こと『セフィリア』は生後3ヶ月目の乳児。この世界には男の子として生まれました。

 大いなる野望を叶えるため、今は見た目中学生なお母さん少女のおっぱいをしゃぶっております。


 『神童』としての余命は、残り七年。



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