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ベンとカルロ

作者: 桜香樹

[scene1]

《昼下がり、森の広場、子供たちの遊ぶ図(二人の少年がメイン)》

【???】

「みぃーつけた」

【???】

「ちぇっ、もうみつかったのかよー。ベンつよすぎー」

【ベン】

「ふふっ。これでつぎはカルロがオニだねっ」

【カルロ】

「よっしゃ、すぐにみつけてやるからな?」

【ベン】

「てかげんなしだかんね!」

《暗転(時間経過)》

【カルロ】

「ぜーっ、ぜーっ」

【ベン】

「もうおしまい? こうさん?」

【カルロ】

「はあ、はあ……。あ゛ーわかったわかったって。

オレのまけだよ、やっぱりベンはつよいなー」

【ベン】

「へへっ。だってカルロ、どこにいるかバレバレなんだもん」

【カルロ】

「そうかぁ? あたまもおしりも

 ちゃんとかくしてるけどなあ」

【ベン】

「そうじゃなくて」

【ベン】

「カルロもみんなも こきゅう? ……がきこえちゃうんだもん」

【カルロ】

「はあ? そんなわけないだろ? おまえのみみすごいなー」

【ベン】

「もうっ! ほんとうなんだっ――」

《鐘のSE》

【カルロ】

「“ゆうのかね”だ、もうかえろーぜ」

【ベン】

「そうだね。はやくしないとママにおこられちゃう」

【カルロ】

「おう。またあした」

【ベン】

「うんっ! またあした」



[scene2]

《昼下がり、向かいあう青年と少年(俯き気味)》

【ベン】

「どうしてそんなこというの?」

【カルロ】

「…………」

【ベン】

「ねぇ! お別れなんていやだよ」

【カルロ】

「……………………」

【ベン】

「なんかしゃべってよ……ねぇってば!!」

【カルロ】

「…………………………」

【カルロ】

「……精神年齢は身体にひっぱられるんだってさ」

【ベン】

「…………?」

【カルロ】

「オレの背が50cm伸びたのに

 お前はちっとも大きくならないじゃないか」

【カルロ】

「もう限界なんだよ。種族が違うってこういうことなんだ」

【カルロ】

「最初からオレたちはずっと一緒なんて無理だったんだ!!」

【ベン】

「カルロがなに言ってるのかぜっんぜんわかんないよ」

【ベン】

「僕たち親友でしょ? そう言ってくれたのはカルロの方だよ」

【カルロ】

「なんだよ親友って、人の気もしらないで――」

【ベン】

「カル……ロ?」

【カルロ】

「やっぱりガキはガキのままなんだな」

【カルロ】

「もう話すことなんてねぇよ、あばよ」

【ベン】

「待って!! まだ話は……」

《差分・少年だけにする、天候雨に》

【ベン】

「……待ってってば……じゃあさ、あの日どうして

 僕を連れ出したりしたんだよおおおおおお」



[scene3]

《昼、墓地、墓前に向かう青年と遠巻きに喪服の遺族、雰囲気は暗め》

【ベン】

「こんにちは」

【ベン】

「まさかこんな形で再開するとは思っていませんでした」

【ベン】

「でも……ごめんなさい」

【ベン】

「僕にはあなたとカルロはアカの他人でしかないみたいです」

【ベン】

「まったくの別人…………、

 あ、いえ、よくみると口元とホクロは同じみたいですね」

【親族1】

「……あれ、見てみなさい。エルフよ……」

【親族2】

「……あら本当。

 でもおじいさん、エルフ族に知り合いなんていたのね」

【親族1】

「……やだ、知らないの?

 おじ様が裏でエルフ族にいろいろ便宜を図ってたこと」

【親族2】

「嘘!? だってもっぱらの差別者だって噂じゃない」

【ベン】

「………………ふぅ」

【親族1】

「シッ! 声大きいってば」

【ベン】

「あなたがこの60年間なにをしていたかは知らないけれど」

【ベン】

「カルロ、僕は60年前に君が言ったことの

 半分もわかっちゃいないよ」



《差分、少年を脇に立たせた図》

【子ども】

「……? お兄ちゃん、だれ?」

【ベン】

「カルロ!?」

【子ども】

「ちがうよー。

 カルロおじいちゃんはねー、おほしさまになったんだよー」

【ベン】

「そうか。ボクはカルロのお孫さんだね?」

【子ども】

「うん! おにいちゃんは、おじいちゃんのおともだち?」

【ベン】

「そうだね。古い友人……だったのかな?」

【子ども】

「そっかー。あのね、おじいちゃんは、とおくにいっちゃったけど

 ないたりしたらいけないんだって」

【子ども】

「テンジュヲマットウシタ、からしあわせだったんだよ」

【ベン】

「…………そっか、…………そうだね」

【ベン】

「ボクみたいな素敵な孫に囲まれて逝ったなら

 それはそれは幸せかもしれないね」

【子ども】

「えへへ。

 お兄ちゃんもおじいちゃんのこと、かなしんだらだめだよっ」

【子ども】

「ばいばい!」




《差分、元の画像へ》

【ベン】

「…………うん、うん。君は幸せだったんだ」

【ベン】

「それが確認できただけでも、本当、よかった」

【ベン】

「君は何を伝えたかったのか、いつかわかるといいな――」



[scene4]

《夜、室内、ベッドに横たわる老人と脇に成人女性》

【ベン】

「おお、来てくれたか」

【ベン】

「わしも、もう長くはもたない。

 そろそろ、お主に長老の座を譲ることにしようと思ってな」

【女性】

「ついにあたしにもお役目が回ってきたのね」

【女性】

「じいさんが寝込んだからそろそろかなーとは思ってたけどさ」

【女性】

「でも男性名ってのだけはやっぱり抵抗あるわ」

【ベン】

「まあそういうでない。一応は掟だからのう」

【女性】

「わかってるって、じいさんの意外と融通の利かないところもね」

【ベン】

「ほっほっほ。ではさっそく始めるとするか」

【ベン】

「おっほん、現長老ベネディクト・エルヴンの名において告ぐ」

【ベン】

「今ここに次期長老ベネディクト・エルヴンの誕生と

 長老の証である“祝福の綱”の戴冠を行う」

【ベン】

「…………はて? こんな感じじゃったろうか?」

【女性】

「じいさん、しっかりしてよね……」

【ベン】

「ほっほ。なんせ2000年以上も前じゃからのう」

【ベン】

「ほれ頭こっちにむけなさい」

【ベン】

「それにしても二代つづけて若くしてこの任に就くとは

 難儀なものじゃ」

【女性】

「しかたないじゃない。

 真ん中が“失われた世代”になったんだしさ」

【ベン】

「そうじゃのう……よし、これで戴冠の儀は終了じゃ」

【ベン】

「“綱”も案外似合ってるのう。

 男性用の武骨な意匠だから、ちと不安だったにの」

【女性】

「そりゃどうもね。

 ……さて、もう用も済んだでしょ? お暇させてもらうわ」

【ベン】

「なんじゃ。冷たいヤツじゃな。老人は労わるものだぞい?」

【女性】

「三日も起きなかったのに突然しゃべったらそれこそ毒よ?」

【女性】

「これでも心配してるんだからさ。

 今は療養してよ、おねがいだから」

【ベン】

「わしは果報者じゃのう。おーいおいおい」

【女性】

「ふふっ、今頃気づいたの?

 村のみんなは長老が大好きなんだから」



《差分、女性入り口付近へ移動、部屋の明かりをけす》

【ベン】

「では御好意に甘えておとなしくしてるかのう。

 さすがにちいっとばかし疲れたようじゃ」

【女性】

「うんうん、おやすみなさい」

【ベン】

「ああ、そうそう言い忘れておったことがあったわい」

【女性】

「なあに? お小言なら御免よ?」

【ベン】

「どちらかといえば遺言じゃ。

 いいか。もし人間がこの村に来るようなら歓迎してやりなさい」

【ベン】

「ついぞわしの時代では果たせなかったからのう。よろしく頼む」

【女性】

「もうっ、縁起でもないわね。

 でもいいわ。あたしの世代でなんとかして見せるわよ」

【女性】

「長老ベネディクトの名にかけて、ね?」

【ベン】

「それは安心じゃ。ではおやすみ」

【女性】

「おやすみなさい。良い夢を」



[scene5]

《明転(FFFFFF)》

【???】

「…………、…………」

【ベン】

(…………まぶしいのう、もう朝かえ?)

【ベン】

(それにしては静かすぎる。朝餉の匂いも届いてよかろうに)

【???】

「ベン、おいベン」

【ベン】

(おやおや? そんなに馴れ馴れしく呼ばれたのは

 10世紀ぶりくらいかの?)

【???】

「ベンのヤツどうしたんだよ? かくれんぼしてるのに

 ねちゃうなんてさ」

【ベン】 

(かくれんぼ? はて? わしは寝室にいたと思うのだが)

【???】

「おきろベン! カゼひくぞ!?」

【ベン】

「やかましいのう。一体この老体に鞭を振るうのは誰――」

《昼、木の根元、横たわる老人と覗き込む少年の図》

【???】

「あははっ、やあっとおきたか。

 あいかわらずどこかぬけてんだな?」

【ベン】

「カ、カルロ!? カルロなのか!?」

【カルロ】

「おいおい、どうしたんだ? ったくねぼけているな」

【ベン】

「そうか、君か……。

 しかしわしはもうあの頃のように若くない」

【ベン】

「それでも君はもう一度この手を引いてくれるかの?」

【ベン】

「よぼよぼに枯れたこの右の手を――」

【カルロ】

「……なにいってんだよ?」

【カルロ】

「オレたち“シンユウ”だろ?」

《明転(FFFFFF)》

【ベン】

「――っ、ああ、もちろん!」

【カルロ】

「いこうぜ、なんせかくれんぼは人が多いにかぎるからな」

【ベン】

「ぐずっ……そうだね。ありがとう」

【カルロ】

「ベンはやっぱり泣き虫だな」

【ベン】

「う、うるさいなー

 そういうカルロだってあのとき泣いてたんでしょ?」

【カルロ】

「なっ、泣いてたわけないだろ、ベンのバーカ」

【カルロ】

「ほら、もたもたしてるとベンがオニだぞー」

【ベン】

「あ、ちょと、まってよぉー」



[scene6]

《リビング、3時のお茶のイメージ》

【男の子】

「それで、前長老はどんな方だったんですか?」

【女性】

「そうね……。あたしの知ってる彼は」

【女性】

「大きい人。賢くて、でも頭でっかち。あと寂しがり屋」

【女性】

「それとね」

【女性】

「きっと村の誰よりも人間が好きだったのよ」

【男の子】

「え? でも村をつくったのは人間から離れるためでは?」

【女性】

「ううん。彼はね、お互い傷つくのが見たくなかったの。

 結果的にこうするしかなかったのよ」

【女性】

「だからね。人間とはうまくやりなさい

 無理にいがみ合う必要なんてないんだから」

【女性】

「それに――」

【女性】

「なんといってもあの人の遺言なんだから」


-Fin-


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