プロローグ
辺り一面、火の海だった。
逃げ惑う人たちは行き場を失い、やがて体を焼かれていく。
追い打ちをかけるように風が加勢し、そして地響きが聞こえると同時山なだれが起きる。
まるで、地獄を見ているようだった。
高い崖から見下ろすこの場所は、果たして本当に、地上で繰り返されていることなのか。
信じられなかった。信じたくなかった。
悲痛な叫び声が、ここまで響き渡ってくる。
「近いうち、戦争が始まるかもしれないな」
「ゼロシックを、実行なさるのですか?」
ファラン・ロノ国王が静かにつぶやくと、隣の零レイラは神妙顔つきで国王に尋ねる。
常に彼のそばに仕えてきたレイラだ。彼が言葉にしたいことは、十分理解できる。
――だが、それでも、ゼロシックを実行にうつすのは――心で引っかかるものがあった。
ドオン!また一つ、大きな爆発が起きる。
びょおっ、突風が、彼らの身をさらいそうになる。
「仕方ない。……若者の未来を潰してしまうリスクも、批判も、すべて私が背負おう。そうでなければロノの国に、未来はない」
苦しげな決意。
国民の意思を守るため、ゼロシックを実行しなかった国たちのなれの果て。
戦力を持たぬ者はいずれ滅ぶ。
最高力のエレメント持つと謳われる国王だが、もはやされだけでは太刀打ちできない。
若者たちのエレメントを、一番吸収力のあるエレメントを、行使するしか術はなかった。
「そうですか……わかりました」
抗えない現実。こうする以外にもう手は打てないと、レイラにも十分理解できる事態だった。
「すまない、レイラ。お前にも、迷惑をかけることになるだろう」
「いえ。国の未来と、国王のためですから。僕は大丈夫です」
「……ありがとう。ここもそろそろ危ない。速急に戻り手配をするぞ」
火はさらに勢いを増していた。
雷鳴がとどろき、ぽつぽつと降り注いでいた雨は、やがて針のように地面や肌を叩きつける。
短い言葉を交わした後、そこに2人の姿はなかった。