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6:別離ーわかれー

『試験』のことではなくて、もっと何か、別のことで喜んでいる……?

ロストはそこまで考えたところで、ふと肩越しに璃餡を見る。

すると、ちょうど彼のほうも肩越しに自分を見ていて、彼は慌てて目を背け、背中も離してしまう。

その様子がなんだか面白くてクスクス笑っているうちに、何を考えていたのか忘れてしまった。

代わりに、璃餡を見ていて思ったことを言葉にする。


―――背中は、離れたままだ。


「璃餡はさ、笑ってる方がいいよ」

「……えっ?」

「きっと璃餡の笑顔はさ、誰かを幸せな気持ちにできるって思うんだ」

ロストのその言葉を聴いたとたん、璃餡は再び笑いがこみ上げてくるのを感じた。


むしろ、誰かを笑顔にしていたのはお前のほうなんだよ。


そうつっこみたくなるが、今のロストにそういったところで彼は首を傾げるだけだろう。

そっと心の中で感謝を述べ、あることを思いつき、振り返りながら話しかける。

「なぁロスト、今度さ……」

背後に座っているはずのロストに向けて。

しかし、自分の背後には誰もいなかった。

そう。璃餡じぶんが笑ったというのは、そのまま合格条件の達成によるロストの試験が終了したことを意味する。

試験が終了すれば地上界にいる必要はなくなるのだから、きっと学園のある天界へとかえったのだろう。

背後からいなくなっていても、それは当然のことだった。


ロストがいない代わりに、そこには小さなキーホルダーが落ちていた。

「これって……」

それは、先ほどロストが璃餡りあんにみせた【自分が生きていた唯一の証拠】である、サッカーボールの形をしたキーホルダー。

璃餡はそれを拾い、じっと見つめる。

プラスチックでできているそのキーホルダーは、よほど大切に持っていたのか、新品のようにキズ1つ無い。

『りあん、これあげる!』

そんな声が脳裏を(かす)め、懐かしい記憶が甦る。

璃餡はそっと目を閉じ、遠い記憶かこへと思いを馳せていた。


それは、生前のロスト……つまりコウタが(一方的にではあるが)璃餡と友達になってから2ヶ月が経った頃。

言い換えると、コウタが交通事故に遭う2時間ほど前のことだった。

「りあん、これあげる!」

「…は?」

放課後、教室で読書をしていた璃餡が顔を上げると、いつもの屈託の無い笑顔で拳を自分に向かって突き出しているコウタが目の前に立っていた。

コウタがその拳を開くと、そこには、サッカーボールの形をしたキーホルダー。

「…なにこれ?」

「なにって……キーホルダー」

「いや、キーホルダーなのは見てもわかるから」

天然なのか、ただのバカなのかは知らないが、彼の笑顔など悪く言えば「自分はバカだ」という意思表示にしか見えない。

小学生の頃から既に大人びていた璃餡は胸中で呆れる。

もう2ヶ月も一緒にいるというのにコウタに振り回されっぱなしの璃餡は、今日も天真爛漫なコウタに疲れたのか、大きくため息をつく。

「だから、―――何でそれを俺にくれるの?」

ジトッ、とした視線をコウタに向けると、相手は少しきょとんとしてからすぐに無邪気な―――あるいはバカ丸出しな―――笑みを浮かべてこう言ったのだ。

「これは【友達の証】だ!しかも俺とおそろい!!」

……なぜそうなる。

璃餡は心の中で毒づく。

しかしそんなことをコウタが知るよしもなく、いつのまにか璃餡の手にキーホルダーを乗せ、既に次の話題に入っていた。

「なぁなぁ、りあん!後で公園行こう!」

「…わかった。わかったから服引っ張んな」


結局、最後の最後まで振り回されてたんだな、俺……。

あっという間の再会だった、と璃餡は停止しかけている思考の中でぼんやりと考える。

そしてふと思い立ってポケットからスマホを取り出す。

それに付いているのは、所々傷のついたサッカーボールのキーホルダー。

かつてコウタにもらってからずっと持ち歩いているものだ。

傷1つないコウタのそれと、傷だらけの自分のそれ。

傷の分が、自分とコウタとの空白の時間を示していた。


日付も変わらないうちの、たった数時間の間だった。

しかも、結局聞きたいことは聞けてないしいいたいこともいろいろといえてない。

「ロスト、……いつか、またサッカーやろうな」

璃餡は泣きそうになるのを必死でこらえて、空に向かって微笑んだ。

ロストが……コウタが、願ったから。

笑って、と。


※本編はこれで完結ですが、後日その後の二人についての後日談を掲載する予定です※


☆捕捉

ロストが試験の条件達成以外で喜んでいるというのは、かつての自分の死後からずっと笑わなかった【親友】の璃餡がようやく笑顔をみせてくれたからです。

しかし、かつての自分のことを知らないロストからしたら、璃餡はただの【試験の対象者】で。

だから何故自分が喜んでいるのかわからないんです。

うまく説明できなくてすみません……。


上の注意書の通り、これで二人の物語はいったん幕を降ろしますが、番外編として少しだけ続きます。

なかなか更新できず、また、稚拙な文章であるにも関わらずここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!

番外編をお楽しみに!


2014.5.5. 白星裂空

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