「笑うちぃ子」
朝、学校へ向かう途中、通学路で部活の後輩にばったりと出会った。
「おはよう」と挨拶をしてから、ふと疑問に思った。
「あれ、ちぃのうちってこっちの方だったっけ?」
並んで歩きながら尋ねると、ちぃ子はちょっと苦笑い気味に答えた。
「おはようございます、先輩。朝ちょっと早めにうちを出たら、家の前に変な黒猫がいまして」
「猫追いかけてこっちまできちゃったの?」
「どちらかというと、逃げてきたかんじ……かも?」
「ちぃって、猫嫌いだったっけ?」
「一升瓶片手に、ねーちゃん一杯ヤロウゼとか言ってくるんですよ……その猫」
「は?」
酒かっくらって喋る猫ですと?
「朝っぱらからお酒飲むわけにも行かないし、それ以前に未成年ですし? おひとりでどうぞ、って言ったらなんか怒ったらしくて、いきなりその場で一升瓶を道路に叩きつけて、睨んできたんですよ。猫とはいえ、酔っ払いって何するかわからないですよね。で、後付けられても嫌ですし、怖くなっていつもと違う道を歩いてたらこっちの方に来ちゃってました」
「……大丈夫だったの?」
「やられる前に殺れが、わたしの信条なのです」
そう言ってちぃ子は鞄をぽんと軽く叩いた。
「この中に入ってますので、もう安心です」
そう言ってちぃ子はニヤリと笑った。
ちぃ子の鞄は、とても静かだった。ずいぶんと膨らんでいて、中に詰め込まれているのは猫一匹どころではないようにも思える。開けたら中には一体何が見えるのだろうとちょっと怖くなった。どうか酔っ払い親父のバラバラ死体とかじゃありませんように……。
ちょっと黒いお話。鞄の中身はご想像にお任せします。