ファイアーのちウォーター、一時サンダー
ここは、ワインズデイル王国、都市メイバートンの北にある迷宮・毒蛇の沼。
紫色のヘドロ水を湛えた毒沼の間を縫って細い石畳の道が続くフィールド、出てくる魔獣は水蛇ばかりという、誰も来たがらない不気味系迷宮だ。だが、サリーとアコの魔法使いコンビは特に気にしないで潜りに来る。
それは、他に来る人がいなくて、思いっきり魔法を撃ちまくり気分爽快になれるうえに、いい稼ぎになるからだ。今日も毒蛇の沼に、ファイアーとウォーターが炸裂する!
はず……なのだが。
「アコ、ファイアーボールに水掛けんな、つーてんだろうが!
サリーもファイアーボール出すな! アコがウォータースプラッシュ出しちまうやん、アローにしや、アローに!」
ジョン・サカイの怒鳴り声が炸裂していた。
「すいませーん、つい」
「ごめんアコ、どうしても出ちゃう~」
「ほんと、おまえらはな。ほんとにほんとに、ほんとにしかたねぇ、もう別々に潜るか?」
「「いやでーす!」」
3人の魔法使いは、日本からの転移者。3連休にライト・コスを楽しんでいたら、白い部屋を経てここ、ワインズデイル王国に飛ばされて来た87人のうちの3人だ。
サリー・赤石沙璃は、プロ・バレーボーラーで、スパイク攻撃を得意としていた。身長189cmの沙璃が助走をつけてバックアタック、3枚ブロックを打ち抜く。ボールの速度は時速110kmに迫る。「サリー!」 ファンの絶叫声援が快感だ。ビートの乗った音楽とともに場内アナウンスが「ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーファイアーファイアーボール!」と煽り、観客が声を合わせる。
白い部屋に送られて来たサリーは大激怒。国際大会の日本開催週が迫っていたのだ! エースアタッカーの責任感がぎりぎりと心を締め付ける。
怒りに任せて、魔法使いの職能、30ポイントを選び、残り970ポイントで魔法・ファイアーを取れるだけ取った。 もちろん、目標はファイアーボール打ちまくり。
レベル1は10ポイントだった。レベル2が、20、3が40,4が80と倍々で高くなっていく。160,320。レベル6までとれたところで残り340ポイントとなり、もう取れなくなった。すごくすごく、残念だった!
転移したらそのあたりを全部爆裂させ、不本意にも転移させた誰かを引っ張り出して、燃やし尽してやりたかったのに!
アコ・浅海阿古耶も全く同じパターンの取り方をした。魔法使いの職能、そして、魔法ウォーターをレベル6まで、何の疑問もなくとった。アコは別に水びだしにしたい何かがあったのではない。彼女は、消防士だったのだ。水さえ無限に使えれば、火は消える。(これは正解ではないが、信念ではある)
水タンクを背負って山道を登り、ホースを引いて路地を走り、限られた水を最も有効に使いながら消火に当たり続けた消防士としては、もうもう、ただただ、水さえもっとあれば。 水が欲しい、水が! という衝動に従ったのだ。
身長160cmのがっしりした体格で、“のっぽの”サリーと並ぶとお互いを引き立て(?)合う。
今日もふたりの掛け声が。
「ファイアーボール」 「サリー、やめろ!」
ファイアーボールを打ちたいサリー。
「ウオータースプラッシュ」 「アコ、せめてファイアーボールが当たってからにしやんか! 魔力の無駄遣いだっつーてんだろ!」
火を見たら思わず水を掛けてしまうアコ。
怒鳴られ、叱られ、謝り。メゲルという言葉は辞書にないふたりは、今日も筋肉系重量級ジョン・サカイを重りに毒蛇の沼をエンジョイ? している。
毒蛇の沼は地下5階構成の迷宮だ。ここに棲む体長10cmから2mほどの各種の水蛇は毒蛇ではない。毒の沼に潜んでいて、探索者が沼の間を縫うように続いている白い石畳の道を歩いていると、沼から飛び出してアタックしてくる。噛まれたら痛い、攻撃手段はそれだけ。
ここの水蛇は、体色が赤、白、青、黄、緑とカラフルで、デカいクレヨンが飛んでくるようなものだ。魔法が命中すれば体色と同じ色の光の粒となり派手に弾けて消える。 たまや~
噛まれたら痛い、それだけではあるのだが、沼の水をまき散らして飛び出してくるので傷口から毒が入るのは怖い。
だが、毒無効の指輪を装着している3人には関係ない。高価なアイテムを持ってわざわざ倒されに出て来てくれると思えば、金貨にしか見えなくなる。ファイアーアローとウォータージェットのコントロールを上げていけば全勝だ。
ジョン・サカイなどは、飛んでくる蛇の首を右手でひょいとキャッチして、左手に持つ特製・スライム袋に放り込んでいる。「なんぼでも来いや、アイテムゲットやないか、オイシイのう、ハッハハ」とのこと。ここの蛇は、毒沼に住むだけあって、毒無効の指輪を持っている。正直に剣で倒すと、指輪が毒沼に落ちて回収できない。そこで手掴みしてスライム袋にインだ。
スライム袋は、酸に強い。メイバートンの錬金術師姉妹に特注して作ってもらった。その袋にポイポイと放りこんで、地面があるところで1匹ずつ葬れば、確実に毒無効の指輪を残して光となって消える。たまにレアアイテムも持っているとなれば、もうオイシサが止まらない。
「よし、休憩」
地下4階から5階へ降りる階段の真ん中あたりの踊り場で、休憩となった。いくら毒無効の指輪があると言っても、紫色の毒沼を眺め、時々襲ってくる蛇を鷲掴みしながらのランチはいただけない。
サンドイッチなんかで戦えるかーという、転移してきて探索者となったメンツの声に応え、都市マズーラの薬師ノーラ・中畑みのりが苦心して配合と炊き方を開発した“雑穀米的な何か”が広まっている。まだ米は見つかっていないのだが、「米が、米が食いたい!」という一心で南の辺境の沼地に挑む冒険者が出てきたから、これも間もなく解決するだろう。
3人は“雑穀米的な何か”の上に、ラッシングボアの生姜焼きを載せたLサイズ弁当を黙々と食べる。メンバー構成が、プロバレーボーラーのサリー、消防士のアコ、ゴリラ、いや失礼、ラインマンのジョンという、筋肉特盛り・体力勝負の魔法使い3人という謎の構成なので、食事中はただひたすら食べるのみ。
「今日は右の沼を干すぞ」
「「ラジャー!」」
地下5階に降りると、階段下からまっすぐに白い石畳がボス部屋に続いている。
道の左右にある毒沼からはぼこぼこと大きな泡が吹き上がっている。そして、ここには特大のボアが棲んでいる。だが、この迷宮に慣れ切った3人にとっては、ただの狩場だ。
ジョンの土魔法が、右の沼の手前側5mほどの位置を中央の道から右手の壁に向かって直線状にググっと盛り上げ、土手を作り上げる。
「サリー、やれ、俺は手が離せねえ」
「お任せ!」
サリーのファイアーアローがとびかかってくる中型の蛇を確実に打ち抜く。アコがサリーの右後ろで撃ち漏らしに備える。
「掘るぞ、落ちんなよ」
「「ラジャー!」」
アコとサリーは、立ち位置を左に直す。
「ディープ・インパクト!」
まあ、ただの穴掘り魔法だ。別に彗星が衝突したのではないのだが、効果は似ている。盛り上げた土手からこちらの壁までの間を深さ20mほど掘り込めば、沼の毒水ごとドンと地面が下がる。
「頼んだぞ」
「ラジャー!」
ジョンが石畳と土手の交わるところまで走る。アコの水壁がジョンを囲んで防御する。
ジョンはマジックバッグから石の重りをつけたスライム製ネットを取り出し、土手沿いに毒沼に沈め、ネットが掛った部分の土手を切った。紫色の毒水が、浅い沼から深い穴へとドドドと流れ込む。
「今日も大量だねぇ」
「ああ」
「何回やっても凄い作戦だよね、さすがジョン」
「うん、思い付きがスゴイ」
「誉めても何も出ねぇ」
「いやいや、心から、本心で言ってるから」
「そりゃどうも」
ジョン・酒井順は、ラインマン(架線工事士)である。その中でも、がけ崩れで道がふさがった山村目指して木製の電柱を担いで山を登り、橋が落ちた川を渡って補助ロープを渡して仮架線し、地面を掘って電柱を立てる訓練を積んでいる緊急時電気復旧チームのひとりだ。数は少なくなったが重機が入れない状況ではなくてはならない人員だ。筋肉で必ず電気を通す。
白い部屋では、雷魔法は当然として土魔法も取った。スコップなしで地面を電柱ジャストサイズに掘れるという魔法は、作業を早く終え次の電柱を取りに行かねばならぬという使命に燃える緊急事態対応ラインマンにとって夢に見た能力だったからだ。
不本意にも、コスプレイヤーに交じって転移させられた。
姉が「あんた、今週末付き合いなさい。聖騎士になって、姫の私に仕える役よ。鎧っぽいコスに聖剣っぽい剣を持って、ただ後ろで立ってりゃいいから」という指示を出してきて、やむなく立っていただけだったのに。
断ればいいのに? 無理ムリ。小学3年の時におねしょしてしまい、泣きながら姉に手を引かれてお風呂で洗ってもらった過去を、同僚にばらされたくなければ、従うしかない。
水が穴に落ち切るのを待つ間、踊り場まで戻って、お茶を飲んでいた。
「なあ、おまえら、この先どうすんのよ?」
「この先? 冒険者やってんじゃないの?」
「一生か?」
「あー、帰れなかったら?」
「そうだ」
「2,3年してもまだいたら、そん時考えるわ」
「だなー」
「えーっと? お姉さんはどうしてんの?」
「アネキな。大喜びのままだ。 頭がイカれてっからなあ、試験受けて王宮に入り込んだ」
「ええー、スゴイじゃない」
「何やってンのか知らんけど、どうせロクなことじゃねぇ。王宮メチャクチャ迷惑してンだろ」
「ふーん」
「人の話聞く女じゃねぇからな」
「頼もしいじゃん」
「関わるなよ、メイワク振りまいて歩く女だ」
密かに、いつか会いたいかも、と思うアコとサリーであった。会って、ジョンの黒歴史を探るのだ!
頃合いを見計らってB5に戻る。右の沼の水は、ほぼすべてジョンが掘った穴に流れ込んでいて、所々に拾えないまま放置していた毒無効の指輪や、レアドロップの毒牙の剣や毒矢が見える。
久しぶりに復活したらしい宝箱が見えている。中身は耐毒のマントか解毒薬だ。耐毒マントならいいなぁ、と全員が思う。かなり高く売れるから。
スライム製ネットには、色も長さもとりどりの水蛇が掛っている。カラフルとはいっても、あまり見たくはない。
「アコ、水」
「いきます!」
アコが水をドドンと出して、沼底に残る紫の毒水を流し出す。水がなくなってハフハフしていた蛇もネットまで流れてくる。ジャンプして抵抗する元気な個体は、片っ端からサリーのファイアーアローの餌食だ。水中に落ちるアイテムも、後で拾える。
「よし、ここは俺がヤッておくから、アイテム頼んだ」
「「ラジャー!」」
ジョンが、網のあたりでウゴウゴしている水蛇の塊に、「サンダー」を一発。濡れている生き物には特別よく効く。
硬直してまっすぐ伸び、すでに蛇というより色とりどりのステッキ化している蛇の頭を落とし、光の粒に変える。大量の毒無効の指輪、解毒の巻物、毒の槍、毒の矢、蛇毒の瓶などが散乱する。それを拾い集めていると、サリーの大声が。
「ファイアーボール!」
火の玉がジョンに迫ってくる。アコが、「ジョン、後ろ」と叫ぶ。
とっさにしゃがみ、身を捻って背後を見ると、左の沼から全長5mを越えるボアが鎌首を上げていた。
げ!
そのまま頭を抱えて小さく体を丸める。直径1mはあろうというファイアーボールがボアの頭を吹き飛ばし、勢いを削がれることなく直進、迷宮の壁に激突した。派手な火花が散る。 満面の笑顔のサリー。
ファイアーボールの後からは、お約束のウォータースプラッシュが追いかけてきて、ボアの体を吹き飛ばし、大量の水がジョンに降り注ぐ。
もちろん、それで全身やけどを負わずに済んだのではあるが。
「今日はボス部屋パスだな」
嫌な予感しかしない……。
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バレーボールの国際試合で撮影してきました
実際に観客になって「ファイアーボール」を連呼してきましたが、楽しかったです
魔法が爆裂するだけの短編でした
なお、このお話は、集団異世界転移者のストーリーの一部を成すものです、Granite




