第九話 値札の付いた力
探索者として専念する。
その言葉の重みを、竹本ゆうじは早くも思い知ることになった。
朝。
目覚ましで起きるが、スーツは着ない。
代わりに、防護インナーと軽装ジャケット。
(……もう、会社じゃないんだ)
探索者ギルドから指定された、初任務。
東湾第七ダンジョン浅層の定期浄化。
危険度は低いが、数は多い。
「報酬は、固定給じゃないからね」
黒瀬ミサキが、端末を操作しながら言う。
「討伐数、素材回収量、時間効率。全部が査定対象です」
「……完全に成果主義ですね」
「ええ。探索者は、そういう職業です」
現実的だった。
ダンジョンに入ると、すぐに魔物の反応が出る。
小型が三体。
ゆうじは、深く息を吸った。
「―― 風よ、道を切り開け。ウィンドカッター 」
風の刃が走り、二体を同時に倒す。
残りは、短剣で仕留めた。
(……無駄撃ちは、できない)
魔力は有限。
スキル一発が、そのまま収入に響く。
探索を終え、地上へ戻る。
ギルド端末に、結果が表示された。
《本日の報酬:48,000円》
「……え」
思わず声が漏れた。
「浅層で、この効率なら優秀です」
黒瀬は冷静だ。
「ただし」
続く数字に、ゆうじは目を凝らす。
《装備消耗費》《管理手数料》《医療積立》
差し引かれた金額を見て、現実に引き戻される。
「……手取り、思ったより少ないですね」
「生活できないほどではないでしょう」
黒瀬は、淡々と言った。
「夢だけで続けられる仕事ではありません」
その日の夜。
ゆうじは、久しぶりに自炊をしていた。
(これが、俺の稼ぎか……)
不安はある。
だが、数字で示される分、覚悟もしやすかった。
その頃。
ギルド上層フロアでは、別の会議が行われていた。
「竹本ゆうじ、ですね」
スーツ姿の男が、資料をめくる。
「固有スキル《中二病》。時間・重力系統を確認済み」
国家機関―― 対異常戦略局 。
ダンジョン関連の裏側を担う部署だ。
「まだ民間探索者です」
黒瀬が、静かに答える。
「ええ。だからこそ、今が観測段階です」
男は微笑む。
「放っておけば、国家案件になる」
空気が、わずかに張り詰めた。
「彼は、人です」
黒瀬の声は、低い。
「兵器ではない」
「承知しています」
だが、その視線は冷たかった。
「だからこそ、“値札”が付く前に、見極める必要がある」
会議室を出たあと、黒瀬は一人、立ち止まった。
(……来たわね)
国家が動く。
それは、保護でもあり、干渉でもある。
同じ夜。
ゆうじは、ベッドに腰を下ろしていた。
今日の報酬。
今日の疲労。
そして、まだ知らない視線。
(……俺の力にも、値段が付くんだな)
探索者専念の第一歩は、
思った以上に現実的で、
そして、静かに世界を動かし始めていた。
ダンジョン時代は、
才能を、放ってはおかない。




