第五話 覚悟は、背負ってきた重さで決まる
竹本ゆうじは、探索者ギルドの会議室で一人、椅子に座っていた。
白い壁。
長机。
窓のない、閉じた空間。
ここがダンジョンより緊張する場所になるとは思わなかった。
「結論から言います」
向かいに座る黒瀬ミサキが、端末を閉じる。
「あなたは本日付で、 特別監督対象探索者 に編入されます」
「……特別、ですか」
「ええ。行動制限、事前申請、同行監視。すべて付きます」
事実を淡々と並べる口調。
だが、そこに敵意はなかった。
「第七ダンジョンでの件、覚えていますね」
あの闇の霧。
制御不能寸前だった、あの感覚。
「あなたのスキルは、成長性と同時に、事故リスクが高すぎる」
黒瀬は一拍置き、続けた。
「放置すれば、いずれ誰かが死ぬ」
ゆうじは、何も言えなかった。
「ただし」
黒瀬は視線を上げる。
「管理下でなら、使わせます。才能を、無駄にはしない」
その言葉に、救われた気がした。
会議室を出ると、廊下の壁にもたれて立つ男がいた。
「……聞いてたぞ」
鷹宮レオだった。
「特別監督。重い肩書きだな」
「鷹宮さん……」
二人は、無言のまま歩き出す。
ギルドの裏手。
人の少ない通路で、鷹宮は足を止めた。
「俺がなぜ、あそこまで口うるさいか、知りたいか」
低い声。
「……はい」
鷹宮は、遠くを見るように語り出した。
「昔、俺は自衛隊にいた。災害対応で、ダンジョン初期にも関わった」
五年前。
混乱の最中。
「訓練不足の民間人が、力を持って――制御できなかった」
言葉が、重い。
「結果、部隊が壊滅した。俺だけが、生き残った」
沈黙。
「力はな、覚悟がなければ凶器だ」
鷹宮の視線が、ゆうじに向く。
「お前は、まだ迷ってる」
図星だった。
「会社員としての生活。探索者としての力。どっちも捨てきれてない」
「……それは」
「悪いことじゃない」
意外な言葉だった。
「だが、いつか選ばされる」
鷹宮は背を向ける。
「その時、覚悟が足りなければ――お前は誰かを殺す」
その背中は、重かった。
帰り道。
夜の街を歩きながら、ゆうじは考えていた。
会社では、今日も普通に働いた。
上司に注意され、同僚と雑談し、資料をまとめた。
だが、ダンジョンでは――
自分の一言が、世界を歪める。
(……俺は、何を背負えるんだ)
部屋に戻り、ベッドに腰を下ろす。
特別監督。
制限。
期待と警戒。
中二病スキルは、もう遊びではない。
それでも。
「……逃げないって、言ったもんな」
小さく、呟く。
覚悟は、まだ未熟だ。
だが、歩みを止めるつもりはなかった。
ダンジョン時代は、待ってくれない。
選ぶのは――自分だ。




