第四話 制御不能という名の可能性
黒瀬ミサキは、監視室のガラス越しにダンジョン内部の映像を見つめていた。
東湾第七ダンジョン、浅層下部。
本来なら新人パーティが無理をする場所ではない。
「……無茶をする気ね、竹本くん」
画面の中で、竹本ゆうじは明らかに疲弊していた。
会社帰りの連続探索。
魔力の回復が追いついていない。
だが、それでも彼は前に出る。
(自覚がない。危険なのは、そこ)
黒瀬の端末には、彼のスキルログが表示されている。
属性の偏りがなく、再現性も低い。
そして何より――
「感情振幅に比例して、出力が跳ね上がる」
《中二病》。
ふざけた名前とは裏腹に、極めて厄介な固有スキルだった。
現場。
魔物は中型が一体。
パーティの動きが、一瞬乱れた。
「竹本、距離を取れ!」
鷹宮の声。
だが、ゆうじは足を止めてしまった。
(やばい……魔力、残ってない……)
焦り。
不安。
そして、仲間の視線。
《スキル:中二病 強制発動》
警告表示が走る。
「……え?」
ゆうじの意思とは無関係に、言葉がこぼれ落ちた。
「―― 終焉を告げる影よ、すべてを沈めろ……ダークネスミスト! 」
黒い霧が爆発的に広がった。
「視界ゼロ!?」
「何も見えない!」
霧は魔物だけでなく、仲間すら包み込む。
空気が重く、呼吸がしづらい。
(しまった……!)
ゆうじの胸が締め付けられる。
さらに、霧の中心で魔力反応が膨張していく。
「黒瀬さん!」
監視員の声が上ずる。
「出力が想定値を超えています!」
「……やっぱり」
黒瀬は即座に通信を開いた。
「全員、退避。竹本くん、聞こえる?」
耳元のイヤーピースから、冷静な声が届く。
「スキルを止めて。意識を一点に集中して」
「で、でも……止まらない……!」
霧が、渦を巻く。
(このままだと、内部崩落……)
黒瀬は歯を噛みしめた。
「竹本くん。今から言う言葉を、そのまま口にして」
一瞬の沈黙。
「――“俺は、まだ終わらせない”」
ゆうじは、必死に叫んだ。
「俺は……まだ終わらせない!」
霧が、急激に収縮する。
闇が霧散し、魔物だけが崩れ落ちた。
静寂。
その場に、膝をつくゆうじ。
「……すみません……」
誰も、すぐには答えなかった。
地上に戻った後。
黒瀬はゆうじを呼び止めた。
「あなたのスキルは、制御不能になる可能性がある」
率直だった。
「でも」
少しだけ、声を落とす。
「管理できれば、国家レベルの戦力になる」
ゆうじは顔を上げる。
「……それって」
「ええ。期待も、警戒もしている」
黒瀬は視線を逸らし、続けた。
「だから、放置しない。逃げないで」
それは命令ではなく、忠告だった。
中二病スキル。
笑われる名前の裏に潜む、危険な可能性。
ゆうじは、初めてはっきりと理解した。
この力は、
夢ではない。
――現実そのものだ。




