第三話 現実は、パーティ単位で襲ってくる
朝七時。
目覚まし時計の音で、竹本ゆうじは跳ね起きた。
「……やば」
昨日はギルドの講習を終えたあと、興奮でなかなか眠れなかった。
スーツに着替え、ネクタイを締める。
鏡に映るのは、昨日ダンジョンで魔法を撃った男ではなく、いつも通りの会社員だった。
会社では、何事もなく一日が進む。
「竹本くん、この資料コピーして」
「はい」
淡々と仕事をこなす。
同僚は誰も、彼が探索者だとは知らない。
(……俺、二つの生活やってるんだよな)
定時。
ゆうじは足早に会社を出て、ギルドへ向かった。
今日は初めての パーティ探索 だ。
集合場所にいたのは二人。
一人は、筋肉質な体格の男性。
もう一人は、軽装で弓を背負った女性だった。
「俺は 鷹宮レオ 。前衛担当だ」
低く落ち着いた声。
噂に聞いていた元自衛官の探索者だ。
「私は 七瀬ヒナ 。後衛と索敵ね。よろしく」
明るいが、目はよく周囲を見ている。
「……竹本ゆうじです」
自己紹介を終えると、空気が一瞬止まった。
「例の……スキル持ちか」
鷹宮の視線が、鋭くなる。
「はい。一応」
「一応で済む代物じゃないだろ」
だが、それ以上は言わなかった。
東湾第七ダンジョン。
浅層でも、ソロとは勝手が違う。
「勝手な行動はするな」
「詠唱は事前に言え」
「魔力切れたら即申告」
指示が飛ぶ。
(……思ってたより、厳しい)
魔物が現れる。
小型が三体。
鷹宮が前に出て、盾で受け止める。
「今だ、竹本!」
ゆうじは息を吸った。
頭に浮かぶのは、昨日の氷の感触。
「―― 風よ、刃となれ! ウィンドカッター! 」
空気が裂け、風の刃が走る。
魔物の一体が吹き飛ばされた。
「……威力は申し分ない」
七瀬がつぶやく。
だが、次の瞬間。
「後ろ!」
反応が遅れた。
別の魔物が回り込んでくる。
鷹宮が割って入り、斬り伏せた。
「集中しろ。お前一人の戦いじゃない」
「……すみません」
胸が締め付けられる。
ソロなら、好きに叫べた。
だが、パーティでは一言の遅れが命取りになる。
探索後。
全員無言で地上に戻った。
「正直に言う」
鷹宮が口を開く。
「お前のスキルは強い。だが、扱いきれてない」
「……はい」
「それでも」
視線が、まっすぐ向けられる。
「伸びる。逃げなければな」
その言葉に、救われた気がした。
帰宅は夜遅く。
スーツを脱ぎ、ベッドに倒れ込む。
明日も、会社がある。
疲労と魔力消耗で、体は重い。
だが、不思議と後悔はなかった。
(……楽じゃないな)
平凡な会社員。
探索者。
二つの現実は、どちらも甘くない。
それでも――
自分の居場所を、自分で選べる。
その事実だけで、ゆうじは目を閉じることができた。




