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第二話 探索者ギルドという現実


 探索者ギルドの建物は、思っていたよりも現実的だった。


 もっとこう、ファンタジー感あふれる施設を想像していたのだが、実際にはガラス張りの中層ビルで、入口には番号札の発券機まである。

 役所と銀行を足して割ったような空気だった。


「次の方、三番窓口へどうぞ」


 事務的な声に呼ばれ、竹本ゆうじは背筋を伸ばした。


 受付の向こうに座っていたのは、黒いスーツに身を包んだ女性だった。

 切りそろえられた髪、無駄のない所作。年齢は二十代後半だろうか。


「探索者登録の件ですね。お名前を」


「た、竹本ゆうじです」


「確認しました。昨日の初回探索で、魔物一体を単独討伐。……初心者としては珍しいですね」


 淡々とした口調。

 だが、視線だけは鋭い。


「こちらが担当の黒瀬ミサキです。ギルド職員として、今後のサポートを行います」


「よ、よろしくお願いします」


 黒瀬は端末を操作しながら言った。


「では、問題のスキルについて確認します。固有スキル――《中二病》」


 ゆうじは、喉を鳴らした。


「……名前、変えられませんか」


「できません。スキル名は世界に登録された正式名称です」


 ばっさりだった。


「効果ですが、発動時に属性スキルを生成。条件は“技名を口に出すこと”。再現性は低く、危険度は中?高」


「危険……ですか」


「ええ。あなた自身に、ではありません」


 黒瀬は顔を上げ、ゆうじを見た。


「周囲にとって、です」


 その言葉の意味を理解する前に、黒瀬は立ち上がった。


「では、実地確認に移りましょう。訓練用ダンジョンへ」


 地下に設けられた訓練区画は、コンクリート打ちっぱなしの空間だった。

 そこに、模擬魔物が投影される。


「安全装置は万全です。自由にスキルを使用してください」


「……自由に、ですか」


 言われると、余計に緊張する。


 目の前に現れたのは、獣型の模擬魔物。

 動きは鈍いが、圧はある。


(……また、あれを言うのか)


 心臓が早鐘を打つ。


《スキル:中二病 発動可能》


 浮かぶ文字。

 逃げ場はなかった。


 ゆうじは、一歩前に出る。


「――静まれ……世界よ……」


 自分でも何を言っているのかわからない。

 だが、止まらなかった。


「氷獄に堕ちろ! アイスランス!」


 空気が一気に冷えた。


 青白い光が集束し、氷の槍となって放たれる。

 模擬魔物の胴体を貫き、氷結させたまま砕け散った。


 室内に、霜が降りる。


 沈黙。


「……威力、安定性ともに高い」


 黒瀬の声が、わずかに低くなっていた。


「先ほどとは別属性。本人のイメージ依存型……厄介ですね」


「やっぱり……危ないですか」


「はい」


 即答だった。


「ですが」


 黒瀬は端末を閉じ、ゆうじを見る。


「管理下で使えるなら、話は別です」


 その言葉に、胸が少しだけ軽くなる。


「探索者登録、正式に受理します。ランクは仮登録のF。今後の行動次第で昇格」


「……はい」


 返事をしながら、ゆうじは思った。


 平凡な会社員だった自分が、

 こんな場所に立っている。


 恥ずかしくて、怖くて、でも――少し、楽しい。


 ダンジョン時代の現実は、甘くはない。

 だが、その中で。


 自分の言葉が、力になる世界が、確かに存在していた。



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