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第十七話 撤退命令は、守るために出される


 新しい管理チームは、静かに結成された。


 表向きは「安全強化」。

 だが、内実は違う。


「竹本ゆうじ専属管理班、発足」


 その通達を見た瞬間、現場の空気が変わった。


 黒瀬ミサキを中心に、医療担当、管制官、戦術補佐。

 そして――撤退判断専任者。


「……止める役が、本当に置かれたんですね」


 ゆうじは、苦笑した。


「ええ」


 黒瀬は、うなずく。


「あなたの希望通りです。戦闘続行の可否は、あなた以外が判断する」


 それは、自由を失うということでもあった。


 初任務は、都市近郊ダンジョンの異常再調査。

 難易度は低い。

 だが、国家管理区域。


「油断しないでください」


 管制官の声が、イヤーピースから届く。


 内部に入ってすぐ、違和感があった。


(……静かすぎる)


 魔物の反応が、遅れている。


「歪み指数、上昇」


 黒瀬の声が、少しだけ硬くなる。


 ゆうじは、意図制御で微弱な補助をかけた。


 身体が、軽くなる。


(……まだ、許容範囲)


 だが。


「――撤退準備」


 突然、命令が飛んだ。


「え?」


「歪みが、臨界に近づいています」


「まだ、戦えます」


 即答した。


「敵も確認できていない」


 一瞬の沈黙。


 そして、はっきりとした声。


「撤退命令です。竹本」


 足が、止まった。


 胸の奥で、何かがざわつく。


『――まだ、いける』


 声が、囁く。


(……黙れ)


 ゆうじは、歯を食いしばった。


 判断を、手放すと決めたはずだ。


「……了解」


 その一言は、思った以上に重かった。


 帰還後。

 ブリーフィングルーム。


「正しかった判断です」


 黒瀬は、淡々と告げる。


「数分後、内部で急激な重力崩壊が起きました」


「……そう、ですか」


 救えなかった何かが、あった気がした。

 それでも、被害は出ていない。


「これが、管理下での戦闘です」


 夜。

 ゆうじは、一人で天井を見ていた。


(……撤退、か)


 探索者として、

 最も受け入れがたい命令。


 だが、今回は――

 守られた側だった。


 同じ頃。

 別の会議室。


「……撤退命令、出ましたか」


 低い声。


「はい。初回から」


「良い」


 封印派の一人が、静かに笑う。


「現場が混乱するほど、世論は動く」


「彼は、危険だと」


「制御不能だと」


 事実を、

 少しだけ歪めればいい。


「次は、公式な事故が必要ですね」


 誰かが、そう言った。


 ゆうじは、知らない。


 自分を守るための管理体制が、

 同時に――

 力を奪う準備にも使われ始めていることを。


 声は、静かだった。


『――奪われる前に、選べ』


(……選ぶのは、俺だ)


 撤退命令は、守るために出される。

 だが、繰り返されれば――

 心を削る。


 新管理チームは、動き出した。

 そして同時に、

 別の歯車も、確実に回り始めていた。


 戦場は、

 ダンジョンの中だけではない。


 竹本ゆうじは、

 そのことを、まだ知らない。


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