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第十六話 守るために、奪うという選択


 会議室の空気は、重かった。


 探索者ギルド、対異常戦略局、医療班、研究班。

 普段なら同席しない顔ぶれが、円卓を囲んでいる。


 議題は、一つ。


「――竹本ゆうじの管理体制再編について」


 その名前が出た瞬間、視線が一斉に集まった。


 黒瀬ミサキは、資料をめくる。


「第十五話の実戦テストにおいて、新制御法は一定の成果を示しました」


 言葉を選びながら、続ける。


「しかし同時に、重大な欠陥も確認されています」


 スクリーンに、数値が映し出される。


「本人の意図とは無関係に、スキルが“最適解”を選択し、発動する傾向」


 研究班の一人が口を挟む。


「つまり、本人が止めても、スキルが動く」


「はい」


 黒瀬は、うなずいた。


「このまま前線投入を続けるのは、危険です」


 静かな同意が、広がる。


 だが。


「だからといって、切り捨てるのか?」


 鷹宮レオの声だった。


「彼は、制御しようとしてる。逃げてもいない」


「感情論は不要です」


 研究班が冷たく返す。


「問題は、結果だ」


 そのとき。


「――選択肢は、三つあります」


 対異常戦略局の上層が、口を開いた。


「一、現状維持。ただし、前線投入は極小化」


「二、長期凍結。実質的な戦力外」


 一瞬の間。


「そして三」


 言葉が、落ちる。


「中二病スキルの封印」


 室内が、静まり返った。


「……封印?」


 黒瀬が、確認する。


「はい。言語領域への干渉を遮断し、スキルそのものを眠らせる」


「代償は」


「高確率で、再起不能です」


 探索者として、ではない。

 二度と、あの力は戻らない。


 会議は、一時中断された。


 別室で、ゆうじは一人、待たされていた。


 扉が開き、黒瀬が入ってくる。


「……話は、聞いていますね」


「だいたいは」


 ゆうじは、苦笑した。


「封印、ですよね」


「はい」


 否定しない。


「安全です。少なくとも、社会にとっては」


「……俺は?」


 黒瀬は、答えなかった。


 その沈黙が、答えだった。


「選べ、ってことですか」


「ええ」


 守るために、

 力を失うか。


 力を保つために、

 危険を引き受け続けるか。


「……ずるいですね」


「管理とは、そういう仕事です」


 夜。

 ゆうじは、窓の外を見ていた。


 声は、静かだった。


『――封じれば、楽になる』


(……ああ)


『――選ばなければ、失わない』


(……そうだな)


 だが。


(それでも)


 ゆうじは、目を閉じる。


(俺は、まだ)


 言葉を、選びたい。


 世界を、どう語るか。

 何を、現実にするか。


 それを、

 誰かに奪われたくない。


 翌日。

 最終判断の場。


「結論は?」


 ゆうじは、ゆっくりと息を吸った。


「……封印は、今は選びません」


 一部から、ため息が漏れる。


「ただし」


 言葉を続ける。


「このままじゃ、危険なのも分かってます」


「では?」


「管理体制を、俺中心じゃなくしてください」


 全員が、顔を上げる。


「俺一人で背負わない」


「止める役を、ちゃんと置く」


「必要なら、戦わない判断も、強制していい」


 沈黙。


 やがて、黒瀬が、静かにうなずいた。


「……それが、あなたの答えですね」


「はい」


 力を持つことを、

 諦めない。


 だが、

 独りで抱え込むことも、しない。


 封印という選択肢は、消えなかった。

 だが――先送りにされた。


 それは、逃げではない。


 覚悟を持って、危険と共に生きる選択だった。


 中二病スキルは、

 まだ、目を閉じていない。


 そして、

 その重さを背負う体制が、今、作られ始めていた。


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