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第十話 力には、必ず遅れて請求書が届く


 探索者ギルドの応接室に通された瞬間、空気が違うとわかった。


 静かすぎる。

 無駄な装飾が一切ない。

 ここは、冒険の場ではない。


「竹本ゆうじさん」


 向かいに座る男は、名乗らなかった。

 濃紺のスーツ。表情は柔らかいが、目は笑っていない。


「対異常戦略局です」


 国家機関。

 その一言で、背筋が自然と伸びた。


「あなたの固有スキル、《中二病》について話をしたい」


 黒瀬ミサキが、隣に座っている。

 視線を向けると、軽くうなずいた。


「結論から言いましょう」


 男は、端末を操作する。


「我々は、あなたを“管理協力対象”として契約したい」


「……協力、ですか」


「ええ。強制ではありません」


 だが、その後に続く言葉は、選択肢を狭めていく。


「情報提供、定期検査、有事の優先招集。対価として、報酬と保護を用意します」


 提示された数字に、ゆうじは息をのんだ。


(……一桁、違う)


 浅層探索を何日も続けて、ようやく届く金額。

 それが、月単位で保証される。


「ただし」


 男は、穏やかに言った。


「あなたのスキルは、時間・重力という上位系統を含む。暴走時の被害は、個人では済みません」


 黒瀬が、口を開く。


「彼は、まだ成長段階です」


「承知しています」


 男は視線を外さない。


「だからこそ、今のうちに“枠”を用意する」


 その言葉に、ゆうじは小さく息を吐いた。


 力は、もう個人のものではない。


「……考える時間をください」


「もちろんです」


 男は立ち上がる。


「ただし、長くは待てません」


 その日の夜。

 ゆうじは、自室で一人、床に座り込んでいた。


 頭が、重い。


(……おかしいな)


 時計を見る。

 秒針の動きが、妙に遅く感じる。


 立ち上がろうとして、足元がふらついた。


「っ……」


 壁に手をつく。

 一瞬、視界が歪む。


 時間が、引き延ばされる感覚。

 重力が、身体にまとわりつく感覚。


(……まさか)


 黒瀬の言葉が、脳裏をよぎる。


――時間・重力系統は、代償が遅れて現れる。


 翌日。

 医療区画で、黒瀬はデータを確認していた。


「やはり、来ましたね」


「……これが、代償ですか」


「ええ」


 淡々と、だがはっきりと告げる。


「時間系使用後、認知速度が一時的に乱れています。重力系は、筋肉と内臓に負荷が残る」


「治りますか」


 一瞬の沈黙。


「完全には、わかりません」


 推測はしない。

 それが、彼女の誠実さだった。


「使えば使うほど、蓄積します」


 ゆうじは、拳を握った。


 契約。

 報酬。

 そして、身体に残る代償。


 夜。

 再び、対異常戦略局の男と向き合う。


「結論は?」


 ゆうじは、深く息を吸った。


「……協力します」


 逃げないと、決めたからだ。


「ただし」


 言葉を続ける。


「俺は、兵器じゃない」


 一瞬、男の眉が動いた。


「人として扱ってください」


 短い沈黙のあと、男は笑った。


「その主張ができるうちは、まだ大丈夫です」


 契約書に、サインをする。


 ペン先が、わずかに震えた。


 部屋を出たあと、黒瀬が言った。


「後戻りは、できませんよ」


「……はい」


 それでも、歩く。


 時間を操れば、時間に削られる。

 重力を支配すれば、重さを背負う。


 中二病スキルは、

 ついに代償という形で、牙をむいた。


 それでも――

 選んだ以上、前に進むしかない。


 ダンジョン時代は、

 力を与え、

 必ず、その請求書を送りつけてくる。


 しかも、

 支払い期限は、容赦なく近い。



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