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作戦会議


 今日は女子会をすることになった。ことになったというのは、たまたま談話室で読書をしていた時、リーシュに捕まって参加させられたからだ。

 

 話題は恋バナになり、カレンがいい感じの人がいるだとか、シャンテが言い寄られているのを見ただとか、そんな話に花が咲いた。

 

 私はクッキーを摘みながら、温かい紅茶を啜る。

 そんな私に、リーシュは視線を向け、それで、と切り出す。


「アリアは最近、クロノくんとよく一緒にいるけど、どんな感じなのかしら」


 リーシュはにこやかに笑いながら、でも逃がさないわよ、とでもいいたげな目をしていた。

 あの告白以来、私とクロノの距離は一歩縮まった。

 心のうちを曝け出したからか、死に戻る前の私たちほどでは無いものの、一緒に読書したり、買い物に行ったりと共に過ごす時間がぐっと増えた。


「まだ友達。でも、仲良くなれたなとは思うよ」


 そう答えると、リーシュとシャンテは手を取り合い、きゃあという。

 カレンはそんな二人を横目に、ケーキをフォークで掬いながら、クロノといえば、そういえばさぁと言う。


「カイル先輩いるじゃない?なんかお父さんがクロノのことすっごく気に入ってるらしくてさ。自分の息子がクロノだったらよかったのにって愚痴ってるらしいよ」

 カイル先輩、あんなに期待に応えようと必死なのにね……そう言いながら、カレンはケーキを頬張る。


 私はシャンテに視線を送る。彼女も同じことを思ったのだろう。私達は目を合わせ、小さく頷いた。

 

 


 休日、私はクロノと街に買い物にやってきた。

 いわゆる、デートってやつだ。

 

 というのも、クロノが私に、明日デートしない?と声をかけてくれたのだ。

 私は言葉の響きに、予定も確認せずに頷いていた。

 わざわざデートって言葉を使うなんて……クロノも私を好きになってくれたのかな。

 そんなことを思いながら、隣を歩くクロノを見上げると、なに?と顔を近づけられる。

 耳に熱が集まり、私はすぐに顔を逸らす。

 なんでもないと呟くと、頭上からはくすくすと笑い声が聞こえる。

 からかわれているなぁ、と思いながらも、私の足取りは軽やかになる。


 街中にある噴水近くのベンチに座り、パン屋で買ったサンドウィッチを取り出す。

 両手で掴んで頬張ると、シャキシャキしたレタスとスモークサーモンのしょっぱさに笑みが溢れる。

 穏やかな陽気の中、子どもたちが噴水の周りを走り回る。

 その後ろを、暖かな目で見つめる両親と思われる男女。クロノはその様子を眺めながら、ぽつりと話しだした。


「俺、小さい頃は体が弱かったんだ。うちって騎士を輩出する家系だから、父親には見放されて冷たくされててさ」


 笑いながら話しているが、視線は下を向いていく。私はクロノの手に、そっと自分の手を重ねる。クロノは黙って、手をずらし、重ねた私の手を握りしめた。

 彼の行動に驚きつつも、その手の温度が私をじわりと包み込む。


「でも、母親に言われたんだ。貴方が生きたい道を見つけなさい、誰に何を言われても突き通したい道をって」


 クロノは空を仰ぎ、口角を上げる。


 「俺、嬉しかったんだよね。俺の人生意味ないのかなって思ってたから。母さんが、意味は自分でつくっていいんだって、教えてくれた気がして」


 小さく笑った彼を見て、私も目を細める。

 素敵なお母さんだね、と伝えると、ありがとう、と返ってくる。


「アリアはそういう……冷遇されたことって、なさそうだよね」


「うーん、ないかなぁ。私って結構恵まれた環境で育ってきたし。辛かったことも、あまり……」


 そう呟くと、変わり果てた彼の姿が思い浮かび、言葉が出なくなる。

 


「どうしたの?」


 そうクロノに聞かれ、私は、笑顔を作る。自然にみえるように。


「……ただ、幸せな人生だな、って」


 そう答えた。嘘じゃない。このままクロノと生き残れれば、幸せな人生のまま終われるんだから。例え、心の傷が残ったとしても。




 季節は巡り、クロノと私が死んだ日が近づいてきた。

 カイルのクロノへの当たりは徐々に強くなっていき、今では嫌悪の表情を隠そうともしない。

 それなのに、理由を聞いても何も言わない。

 カイルへの不信感が強くなっていく中、私とクロノとシャンテで作戦会議が行われた。


「もうすぐ、私たちが死んだ日が近いの。犯人も、そろそろ行動に出るかもしれない。だから、これからどうすべきか話したいの」


 私がそういうと、二人は頷く。


「は、犯人は……やっぱりカイル先輩なのかな?この間の、お父さんとの関係の話もあったし」


 シャンテが眉を下げつつ、そう話し出す。


「それに、アリアを好きみたいだよな。その二つが原因なのか……他にも何かあるのか。カイルが黒めだけど、誰が犯人でも対応できるようにはしておきたいな」


 彼の発言に、私も大きく頷く。

 

「あの日のクロノの猟奇的な殺し方……かなりの恨みをもってると思うの」


 磔にされ、腹部を切り裂く。忘れたくても忘れられない光景。私はぶるりと身震いする。それに、と付け加える。


「わざわざ、あのタイミングに殺した理由があるんじゃないかなって」


「理由か……」


 私とクロノが唸っていると、シャンテがあのぅと手をあげる。


「か、可能性のはなしだけど、クロノ君に恋人ができる前……幸せになる直前を狙ってる、とかないかな?恨んでる相手が幸せになる前に、とか」


 推理小説の動機で、あいつが幸せになるのが許せなかったとか、読んだことあるから……と、最後の方はモゴモゴ言いながら、小説のページを指差す。


「それ、ありえるかも……」


 私は小説を受け取り、ぱらぱらとページをめくった。


「だったら、また告白する場を用意すれば、同じように狙ってくるかもな」


 クロノに言われ、私は頷く。


「そうだね。その時を狙えば、捕まえることができるかも。もし、物的証拠もあれば、確実に治安隊に引き渡せるし」


「そ、そうだね!いいと思う」


 私達は作戦の詳細をノートに書きだす。


 前回と同様に、義兄さん経由で教会を抑え、友人たちに話をしておく。義兄さんに、クロノの部屋で見張りをお願いする。

 義兄さん頼りな部分が多い。後で沢山お礼をしないと。

 スラスラとペンを走らせ、よし、と呟く。


「これで……大丈夫、なはずだよね」

 


 できる限りのことをした。間違いもないはずだ。

 でも、胸に残る説明できない不安は何だろう。

 まるで用意されたパズルのピースを埋めていくような綺麗さが、逆に不安なのだろうか。私は両腕をギュッと掴む。


 そんな私をみて、クロノが私の肩に手を乗せる。その指に、力が入るのを感じる。


「大丈夫。俺は死なないよ」


 そう言われ、私は頷く。

 彼の言葉は本心だ。それを信じたい気持ちは強くある。

 それでも不安は完全には拭えない。あの強烈な悪意を直視しているからなのか。でも、それでも。


「……うん、大丈夫。必ず生き残ろう」


 私は呟く。自分自身に言い聞かせるように。

 胸に手を当て、強く握りしめた。




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