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矛盾


 正直、シャンテと何を話したのか、まったく頭に残っていない。

 彼女と話し終わった後、私はその場から動くことが出来なかった。

 あの変貌ぶりは、なんだったのだろう。


 「彼女、よっぽど触れてほしくなかったのねぇ」


 私の背後から、間延びした声が聞こえる。

 振り向くと、そこにはリーシュが居た。

 まだ、動揺が残る中、私は必死に頭を回転させて「久しぶり」と言った。

 言った後で、失敗したことに気がつき、心の中で舌打ちをする。

 このリーシュとは初めて会ったのに。

 言い訳を考えようと、言葉に詰まっていると、彼女はにぃっと笑って言った。


 「ええ、久しぶりねぇ」


 彼女の言葉に、私の頭は真っ白になる。

 慌てて思考を巡らせるが、ノイズが走る。

 記憶が、ある? 彼女も、死に戻りをしている?

 ……頭がパンクしそうで、返答が思いつかない。

 表情にも出ていたのだろう、私の顔を見て、彼女は吹き出す。


 ぽかんとする私に、彼女はケラケラと笑い、「冗談よ、はじめましてよね」と言った。

 ……彼女なら、やりかねないやり取りではあった。

 だが、シャンテのことと続けてこうも動揺させられると、それは疑念を深める要素でしかなかった。

 私は引きつった顔を、懸命に取り繕い、笑顔を作る。

 そこからは、いつものように、皆との再会を続けた。



 再会を終えた私は、自分の部屋のベッドに倒れ込み、ようやく一息つけた。

 といいつつも、頭の中は次にどう行動すべきかと、働き続けているが。

 

 犯人は、義兄さんが髪の毛を掴んでいたことに気が付いていないはずだ。

 そうでなければ、放置したりするはずがない。

 私が容疑者を絞っていることを、気が付かれてはいけない。警戒されると、また突飛な行動を取られるかもしれない。

 なるべく、普段と変わらないように過ごさないと。

 

 もし、想定しない形で襲われたときは……。

 私はぎゅっと、重い袖口を押さえながら、ナイフを手に入れた時を思い出す。


 初めて護身用にとナイフを手にした時、ずんとした重さと、濁って反射する自分の姿を見て、つばを飲み込んだ。

 殺されるくらいなら、いっそ……。

 そう、思考が揺らいだ時、誰かが、嗤った気がした。

 私ははっとして、ナイフを落とした。鈍い音をした、それをじっと見つめる。


 「私は……そっちにはいかないから」


 そう呟いて、私はナイフをぎゅっと握った。

 

 ――あの日、私は境界を引いたんだ。

 

 

 

 

 常に神経を尖らせ、監視をする日々。

 気がつけば季節は変わり、秋が訪れていた。

 しかし、犯人は尻尾を出さなかった。

 試練に失敗すれば、犯人にも代償が求められるのだ、当然だろう。

 私自身も最後のループと考えて慎重になっていたが……そろそろ攻めに転じるべきかもしれない。

 何かきっかけがあれば……そう考えた時、ふと以前のクロノの行動を思いだした。

 彼は嘘をついて、犯人を動揺させていた。

 何か、糸口を見つけるような会話をすれば、あるいは……。

 


 「春の祭りが近づいてきたわけだけど、皆は何か叶えたいお願いとかある?」

 

 女性陣でお茶会をしている時だった。

 カレンが両手を顎の下に置いて、きらきらした表情で話し出した。

 ――実際、この話題を提供したのは私だ。

 皆の願いを聞くことで、その奥の渇望を覗き込めないかと思ったのだ。

 ただ、私が話すと、警戒されるかもしれない。

 なので、カレンに話題を振ってもらうよう、事前にお願いしていた。

 カレンは少し不思議そうな表情を浮かべていたが、彼女の好きな焼き菓子を渡すと喜んで応じてくれた。


「近づいてきた……かしら?まだ、大分先の話だけれど」


 リーシュがつっこむが、カレンは「まぁ、まぁ」と続ける。


「それで、なんかないわけ?リーシュ」


 カレンが促すと、リーシュはすぐに答える。


「好きな人と結ばれたい、ね」


「わぉ、即答だね」


 カレンが茶化すと、リーシュは鼻を鳴らす。


「まぁね、で、カレンは何なのかしら?」


「私はねー背を伸ばしたい!」


「……子供みたいな願いね」


 呆れ顔のリーシュは、シャンテの方を向く。


「シャンテはどうなの? 欲がなさそうだけど」


 そう言われて、シャンテはおどおどしながら答える。


「わ、私は、兄妹が欲しいな」


 そう答える彼女に、いつもの癖は出ていない。

 ……嘘じゃなくて、本心なんだ。

 そう思いながらも、違和感があった。

 以前もシャンテが兄妹について話していたような。

 私は必死に記憶を辿る。

 そうだ、私と義兄さんが仲が良いね、と話をした時だ。

 彼女の言葉が、頭の中で響く。

 

 『私もいつか、こんな仲良い兄妹になれるかな』


 強烈な違和感だった。

 彼女に兄が居ないのが真実だとしたら。

 何故、まるで兄妹が居るかのように話したのか。

 ……自分の願いが、叶うことを知っていたかのような。


 その考えに至った瞬間、身体中に鳥肌が立った。

 私は顔が強張るのを必死に誤魔化すように、口角を上げる。

 彼女の二面性が、発言の矛盾が、私の中で警報を鳴らす。

 


「アリアは?」


 気がつくと、シャンテがこちらを向いて、私に微笑んでいる。


「私は……」


 一瞬言葉に詰まる。

 でも、答えは決まっていた。


「私は、クロノと一緒の未来を歩むよ」


 それは、私なりの宣戦布告だった。


 願いというより、宣言みたいとカレンが笑う。

 それに続いて、皆も笑顔になる。

 その裏に、どんな感情を秘めているのか、私は息を呑んだ。


 

 


 

 

 

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