注文の多いハロウィンメイド喫茶料理店
夜中の夜中。
キチガイじみた深夜徘徊に疲れ、ふらりと立ち寄る明かりどころ。
其処にはなんと『メイド喫茶』の文字があり。
『ハロウィンイベント』の文字があり。
深夜営業珍しか。
こんな田舎に深夜に開いている店なんてバーやスナック、ドラッグストアくらいだけだろうに。
私は酷く疲れた足を癒し、空腹を満たさんとするが為に初めてではあるもののメイド喫茶にするりするりと入り申し上げた。
近年では珍しく手動ドア。ドアノブを回して、ギギギと古風な開閉音を立てつつ颯爽入店である。
店内は最早家。
私は確かにメイド喫茶そのものが初めてだ。
だが、いくらなんでも二畳の部屋に小さなテーブルが1つ。椅子すらない。なんなら厨房といえるものすら見つからずメニュー表もないとなると……
メイド喫茶どころか飲食を提供する場として間違っていると言えるだろう。私の目で見てもだ。
ハロウィンイベントと言うだけあって天井からコウモリやジャック・オー・ランタン、魔女、ミイラなどの飾りつけが吊り下げられてはいる。
それ以外はブラウンの壁にペタペタと切り絵が貼ってあるだけのチープなものばかりだ。
そんな部屋をLEDが照らすだけ。
「こ………こんばんは……。」
そして一番の問題なのがこれだ。
145cm程度の身長しかない幼子が1人。
黒猫の猫耳、首には鈴、手は肉球のついたグローブと言うのだろうか、とにかく仮装用のものを。足も同様。
腰は…所謂Tバックというパンツ。白である。黒い縁取りの中に白がある。
何?身体はどうなっているのか?
言わせないでくれよ。
何も無いんだ。
彼女の身体には何もない!
あるとしても可愛い可愛い黒猫さんのシールが乳首に貼り付けてあるだけだ!当然、そこからぷっくらと膨らむ突起―――あなる山―――がこんばんはしている。
あぁ!ああなるほど!先程、こんばんはと言ったのはこの突起ちゃんか!
髪型はショート、黒髪。お目々が大きくてクリクリしていて黄金色だぁ。
個室に男女2人……何も起きない筈はない………いいや!何も起きやしないぞ!
私の脳の六法全書がこの現実に犯罪を感じている!
「君は……。あ、いや、ご家族の方は……?危ないよ。こんなこと。」
クソったれ!まともに人と話す機会が無かったせいでまともな台詞が出て来ない!
「気にしないでください…。それよりも注文は何になさいます……?」
待つのだ!この台詞を安々と受け入れる程、私は腐ってはいな………。
無理だ。黄金色のクリクリとしたあどけない上目遣いなんてされたら何も言い返せない。
「……あ、アイスティーを1つ…………。」
「ごめんなさい。アイスティーはなくて……水だったらあるんですけど……。」
「あ…あぁ!そ、それじゃあ水を…。」
まるで口が言うことを聞かない!
可愛い黒猫ちゃんに反論したら泣かせてしまいそう。この思考だけが私を支配する。六法全書はどうなっているんだ!
「ごめんなさい…。あたし…手がこんなだから……。水はそこのコップに自分で注いでもらってもいいですか……?」
「もちろん!もちろん!もちのろん!」
当たり前だ!未成年に深夜労働なんてさせる訳にはいかない!
勢い良く歩き出し、棚の上に置いてある黒猫のマグカップを手にして、近くにあった水道から水を注いだ。
マグカップ一杯に水を注いでズンズンと席に戻りカーペットも畳もない床の上にずっしりと腰を下ろす。
「そ…それじゃあ、か、飼い主様!トリック・オア・トリートー…。お菓子をくれなきゃイタズラするゾ♡」
うっほ。
ウホウホウホウホッ!
肉球を顔の横で構え、頬を恥ずかしさで赤らめながら大きな口を開ける黒猫には脱棒だ。
私の目線の上からそういったことをされると……とても、心地がいい。
「ね…ねぇ、お菓子を……。」
ん?私はお菓子なんて持っていない!
でも、ここで持ってないなんて言ったら悲しませるに違いない!
「ちょっと待ってくれ……。」
ガサゴソとポケットの中を探し回るが、ティッシュ以外、何も見つからない………。
だが、そうやってポケットの中を探すために手でガサゴソやっていると面白いものに手が当たることに気付いた。
そうだ。私にはとっておきのお菓子があるじゃあないか!
私は起立し、黒猫ちゃんから目線を外してズボンのチャックを下ろすことに集中する。
上手く下ろすことが出来たので
「ほら!おやつカルパ…………え?」
目の前から黒猫ちゃんが消えていた。
代わりに処刑道具が大量に並べられた机が現れる。
「ハロウィンって元々は悪霊を退治する祭事だったみたいだよ?お兄さん。」
LEDが消え、代わりに机の上のデスクライト処刑道具を照らす。
必然的に視界は生々しく、痛々しい処刑道具しか捉えられない。
「どれでもいいよ♪自殺はセルフサービスとなっておりま〜す♪」
本当に今更、嬉々とした黒猫ちゃんの獲物を前にした声が耳を通った。
何処にもいないのに声がする。
「なん……で……。」
私にできる唯一のことは疑問を呟くことだけだった。私はここに不可能を見た。
背中を急に押され、テーブルとの距離が縮まる。
あと一歩でテーブルと身体がぶつかってしまう。
「ほらほら〜♪選びなよ〜♪」
ガタガタッと音と共にテーブルの方が距離を詰め、私とテーブルはぶつかった。
思わず腰を抜かし、床に両腕をついてしまう。
テーブルが私を上から見下ろしている。無感情に無表情に無心情に…
わたしの死などどうで
もいいというのか……
わたしが一体何をしたというのだ
「分かんないかなぁ?お兄さんはあたしの魔法にまんまとかかっちゃったんだよ♪Fólksemflettirhlutumupp erhálfvitarっていうアイスランドに伝わる魔法にね♪」
魔 わから
ことだ
わたしは
法 ない
どういう
? 死ぬ
とけあう これは
わたしが
ひとつに
何に
乱れ 反芻 思考 する がッ
起き上がる
わたし
手に取る
刃物
あしが
もつれ くじけあう
刃物
立ち上がる
顔
くずれた
「悪魔祓い完了♪」
どうでもいい下ネタのトリビア
文中に登場したあなる山。
実はあんなる山と読みます。
これは撥音便というやつで元々は
あるなる山→あんなる山→あなる山となってしまったわけですね。
因みに意味は「あるという山」です。どうやら竹取物語が初出かな?
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