悪役令嬢レベル37歳 自分のやってる恐怖政治にへこむ
学園の階段を転げ落ちたら、いきなり転生前の記憶がもどったわし。
わしは乙女ゲームの悪役令嬢になっておった。
このままだとわし、乙女ゲームの流れで主人公のヒロインにやられて破滅エンドまっしぐら。
どうすればいいんじゃ?
そんな日々の苦悩のはけ口に、ちと日記でもつけて見ようと思う。
悪役令嬢って、よく取り巻きがおるじゃろ?
ワシにはそんオナゴらが10人おるんじゃ。
転生前の記憶が戻っとらんかった時分は、そん子らをアゴでつかっとった。
じゃが記憶が戻った今、ワシの気分はどうじゃと思う?
そりゃあもう、すいましぇん、すいましぇんの連続じゃった。
そん子らの一人が言うんじゃ。
「おカバンお持ちいたしますわ」
「けっこうじゃ」
ワシは、すまんと思うから断るじゃろ?
そうすっと、そん子がこの世の終わりのような顔をするんじゃ。
ほんで、震える声で懇願するんじゃよ。
「今日は……わたくしめがカバン持ちでございます。
わたくし、なにか粗相をしましたでしょうか。
お許しくださいっ、お許しくださいっ。
なにとぞわたくしめの家を、お取り潰しはお許しくださいっ。
どうかっ、どうかああっ」
なんぞ?
なんでカバン持ちを断ったら、そんな話になるんじゃ?
もうワシの頭は、深酒と睡眠不足でろくに回らんから、はてなマークしか浮かんでこん。
そんなワシを、コミュニティノートみとうに手助けしてくれるモンがおった。
それはワシの中の、もう一人のワシじゃった。
ワシの中には転生前の大学生19歳と、悪役令嬢として生きてきた18年間が合わさって、都合37年間生きてきた知識と経験があってな。
そいつはもうピチピチ女学生なぞしとらんで、冷静にワシを見つめてきよる。
そやつも結局ワシなんじゃが、破滅エンドまっしぐらなワシは、もうストレスマッハじゃ。
ワシもう、おかしくなっとるんじゃ。
そやつが別人のように話しかけてきよる。
(ほら、あなた。
これまでも気に入らない子の家を、自分の公爵家の実家パワーを使って、潰してきましたでしょう?
この子は、それを恐れて震えているのですよ)
「なんじゃそれ!? ワシそないなことしてな―――――しとったー!」
(忘れていたの? 酷い人ね。
あなた空気みたいに人を潰してきたから、いちいち覚えていないのね)
「違うんじゃ、忘れていたと言うか、あれなんじゃ。
過去を思いだすと、SAN値がゴリゴリ削れていくんじゃ!」
(ちょっと落ち着きなさいよ、ぜんぶ声にだしているわ。周りが引いているわ)
「はぐ!」
気づけばワシの取り巻きのオナゴたちが、おしくらマンジュウみとうにかたまって、全員震えておった。
もうワシ、どうしたらいいのか分からん。
そうじゃ、もう取り巻きのグループは、解散と言うたらどうじゃろうか?
こん子らに自由を!
そう思うたら、心のワシにダメ出しされてしもうた。
(あらダメよ、あなたがグループを解散したら、この子たちが地獄を見るわ)
「なんでじゃ!」
(声にでてるわよ)
「ふがむぐっ」
ワシが「そこを詳しく!」と心に念じると、やれやれと言った心象が伝わってきよる。
(いい? よく聞いてね。
あなたはもう、この取り巻きグループを解散できないのよ。
少し想像してみて。
今解散したらこの子たちは、女性という弱肉強食の世界で、路頭に迷うことになるのよ)
(どういう事じゃ!?)
(貴族社会の女性は、グループを作らずにはいられないの。
もしもの話よ。
あなたが解散してこの子たちはバラバラとなり、何処かのグループへ入ったとしましょうか。
すると彼女たちは、また一からそのグループの最下層として、やり直さなければならないわ。
下品な言い方をすると、ぺーぺーからよ。
それも、ただのぺーぺーじゃないわ。
どんな理由であれ世間は、公爵家のあなたに見捨てられた者というレッテルを、この10人に張るでしょう。
嘲笑され蔑まれることでしょう。
それはもう一からじゃなくて、マイナスからのスタートよ。
あなたの下で耐えて、もう3年もこのグループにいる古参たちを、また他のグループでマイナスぺーぺーさせるの?
そんなこと、彼女たちのプライドが耐えられないわ。
下品に言うと、あなたはヤクザの親分なの。
ヤクザのトップは子分のことを思うと、一度かけた看板をそう簡単には下ろせないわ)
(むぐうっ)
(それと、急に優しくしても逆効果よ。
キレ散らかす武闘派の親分が、ある日いきなり優しくしたら子分はどう思うかしら?
きっと、自分は殺されるんだって思うわよ)
(なんぞー!)
ワシどうすればいいんじゃ?
退くも地獄、進むも地獄?
このままの関係を、卒業まで続けるのかや!?
とまあ、この時はそう思うたんじゃが……
あーワシ、破滅エンドで卒業できんかったわ。
いまは破滅の前に死にとうなっとるが、また気分がようなったら日記をつけるかもしれん。
そんときは、ワシに優しくしてくれると嬉しいぞい。
それじゃのう、ごきげんよろしゅう。