私はあの時、助けていただいた女神です。
「おじさん、ありがとう!」
風船を手渡された少女は満面の笑みを私に返す。
「あ、ああ……はは……よ、よかったね」
高所恐怖症の私はよじ登った木の枝にぶら下がったまま、少女に微笑み返す。
私は昔から厳しい両親の元、「人の役に立つ人間になりなさい」という教えを守り、困った人がほっとけない性格になった。
その性格のせいか、おじさんになっても女性にモテたことがない。どうやら『お人好し』という性格は現在では『騙されやすい人』と変換されてしまうらしい。感謝はされるがそれだけ、それが私だ。
「ふぅ、やっと降りれた。早く行かないと山田さんを待たせてしまう」
介護職の私はご高齢の山田さんのお宅へ向かっていた。今日も朝から穴に落ちた亀を助けたり、挟まった猫を助けたり、お婆さんの荷物を持ったりと人助けに明け暮れ時間に余裕がなくなっていた。
「せっかく3時間も前に家を出たのにな」
それでも私は両親の教えを守り、「お人好し」と言われても人助けを止めるつもりはなかった。
それが、亡くなった両親への供養だと考えていたからだ。
キキキ――!!
猛スピードで走ってきたトラックが横断中の女性を跳ねようとしていた!
「危ない!!」
私は考えるより先に体が動いていた。
ドン!!
……
…………
……………………さん。
名前を呼ばれた気がして目が覚める。
「よかった。無事に魂を呼び寄せることに成功しました」
そう言った美少女は目をうるうるさせながら私を見つめる。
私は照れてうつむいた。正直、こんなに綺麗な女性に出会ったことがない。服も純白の布を体に巻き付けただけのようで目のやり場に困る。
「私は……あの時助けていただいた女神です」
女神と名乗った女性は私の両手を握り自ら胸に押し当てる。
「あ、あの!大丈夫です!大丈夫です!」
何が大丈夫かわからないが、私は女性に免疫がないのでかなり慌てた。
「……さん、申し訳ございませんが今のあなたの肉体は仮のもので……本来のあなたの肉体はミンチになってしまわれたので別の体、別の世界での転生をしていただきたいのですがいかがでしょう?」
「は、はい!お願いします!お願いします!」
申し訳なさそうに女神様が何か言っていたが、私は女神様の胸に埋まった私の両手が幸せで溶けてしまいそうだったの曖昧な返事しかできなかった。
「よかった。それでは……さん、あなたを報われる世界へ転生させますね。スキルはお詫びと私を助けてくれたお礼として受け取ってください。あなたにたくさんの祝福があらんことを――」
パァァァ――…………。
こうして私は、別の世界へと旅立った。
<つづく>
次回、『私はあの時助けていただいたサキュバスです』