会う
成人式の会場は、人で溢れていた。懐かしい顔が並び、笑い声があちこちで響く。僕はスーツの袖を引っ張りながら、心のどこかで彼女を探していた。
そして——いた。
彼女は相変わらず美しかった。いや、高校の時よりもさらに輝いて見えた。端正な顔立ち、落ち着いた仕草、そしてあの頃と変わらない強さを持った瞳。彼女は友人たちと楽しそうに話していた。
僕は話しかけるべきか迷った。けれど、その時、彼女と一緒にいる一人の男が目に入った。見覚えがあった。彼女の彼氏だった人。大学でも彼女と一緒に過ごしていたらしい。
「……やっぱりな」
僕は心の中でそう呟いた。彼女はずっと先を歩いている。僕はどんなに努力しても、その背中に手が届かなかった。そして今も、彼女は遠い。
それでも。
「久しぶり」
気がつけば、僕は彼女に声をかけていた。
彼女は驚いた顔をして、すぐに微笑んだ。「あっ、久しぶり。元気?」
僕は頷いた。喉が乾いてうまく言葉が出ない。彼女の隣の彼も、僕に気づいて軽く会釈をした。
「大学、頑張ってる?」
「……まぁね」
本当はうまくいっていなかった。僕は彼女と同じ学科に入ったのに、彼女のように評価されることはなかった。結局、僕は彼女のようにはなれなかった。
「そうなんだ。私、来年から海外に行くことになったんだ」
「……海外?」
「うん。研究のために留学するの。ずっとやりたかったことだから」
僕の心は大きく揺れた。もう、彼女に会うことはほとんどなくなるのかもしれない。
「すごいな」
やっと絞り出した言葉は、それだけだった。
彼女は笑った。「ありがとう。あなたも、頑張ってね」
彼女の瞳は真っ直ぐだった。昔と変わらない、まるで太陽みたいな瞳。
僕はその光に、もう一度手を伸ばしたいと思った。
「……ねぇ、最後にひとつだけ聞いてもいい?」
「なに?」
「昔、僕に『すごいね』って言ってくれたことあったよね?あれ、なんで言ったの?」
彼女は少し考えてから、ふっと微笑んだ。
「君はずっと、私とは違う道を探してたでしょ。だから、すごいなって思ったの」
僕は息を呑んだ。
彼女は僕を見ていた。ずっと、僕が知らなかっただけで、彼女は僕を見ていたのかもしれない。
だけど、その言葉にすがるのはやめようと思った。僕は彼女の背中を追い続けていたけれど、僕には僕の道がある。
「……ありがとう」
僕は初めて、心からそう言えた。
彼女は笑顔で頷いた。
そして、成人式の喧騒の中、僕は自分の足で歩き出した。
——今度は、誰かの背中を追いかけるのではなく、自分の道を見つけるために。