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027:鹿波の教官

「おはよう」


「ああ。おはよう………辰。なんだいその格好は」


 朝食のために食堂に入ると、早速祖母に呆れられた。大間になんか嘲笑された。


「これ、結んだ方がいいのかなって。………やっぱり、ダメだった?」


「ダメというわけではないが………まぁ、変だな。食事中は汚れるかもしれないから脱いでおきなさい。あとで里子に結び方を習うといい」


 祖母が呆れる原因はわかっている。


 昨日用意してくれた和装だ。


 スマートフォンで検索してみた結果「中羽織」というものに近いらしい。ただ違うところといえば、結び目が作れそうな紐が対に何本も垂れ下がっていること。しかも左右で位置が異なれば短いし。


 結果、結べそうなところを適当に蝶結びにして食堂に行くしかなかった。


「おい小僧。お前、いつからボンスレスハムに転職した? 貧相な手足でなければうまそうだったのになンゲェェェエエエエエエエエ!?」


「まだ懲りないか白馬鹿蛇めっ。それにお前、今のは私の旦那にも言ったな!」


「や、やめろ神音! 儂をかた結びにするでなっ、んぉぉォォオオオオオオオッ!?」


 祖母は音もなく立ち上がると、大間のお仕置きに取りかかる。あの二十メートルもある巨体が、本当にかた結びにされそうになるのだからゾッとした。


 ボンスレスハムと称されたが、確かにそう見えなくもない。複雑に絡み合った紐に抱かれた印象だ。苦笑する里子に解いてもらいつつも、恥ずかしくてまた逃げたくなる。


 すると、現実逃避しようと流した視線の先に、食卓に着いていた鹿波と目が合った。


「………おはよう」


「………はよ」


「お?」


「あら?」


 短い挨拶だった。先に目を反らしたのは鹿波の方だったが、それでも悪い気はしない。祖母と里子なんて早速勘付いた。


 多分、昨日のやりとりがあったからだ。


 その影響で爆撃みたいな舌打ちではなく、言葉で返される挨拶になった。これは進歩と言えるのではないだろうか。


 朝食を食べ終えてから、俺と鹿波は揃って席を立つ。その頃には、俺は里子によりちゃんと羽織を着せられていた。結ぶのは一対でいいらしい。


「お祖母ちゃん。これ、なに?」


「それはね、お前のお祖父さんのものさ」


「お祖父ちゃんの? ………もしかしてこれって、渡良瀬家に伝わる由緒のあるものだったり、とか?」


「いいや? それは渡良瀬家に薄給でこき使われていた旦那が、初任給で買ったものさ。どうにも素材が悪いし、造りも雑。無意味な紐なんか邪魔でしかない。まぁ単に騙されたわけだ」


「え………」


「とはいえ、旦那は最初から最後までそれを着て奮闘したよ。当時は代名詞みたくなったもんさ。だからお前に譲る。ちなみに鹿波には、私が若い頃に着ていたものを改造して与えた。どうだ。可愛いだろう?」


「え、あ、うん」


 なるほど。どおりで鹿波の制服が、どうにも昭和のドラマで着用されていた制服間があるわけだ。


 今では私服然としているので、確かに違和感がないし、そもそも素体の容貌が優れているし。確かに似合っている。………都心をこれで歩くには勇気が要るけど。


 それにしたって祖父の遺品とはいえ、騙されて買わされたものだったなんて。残念が気がしてならない。


「じゃ、お婆ちゃん。行ってくる」


「あいよ。しっかりね」


 呆然とする俺の腕を引っ張る鹿波。向かった先は神社の裏の建造物。


 そういえば夜しか訪れていないから、昼に見ると大分印象が変わる。


 火の灯っていない石灯篭群は相変わらず不気味だったが、中央にある建物は道場のように聳え立っていた。


「………あれ、水面さん?」


「やぁ。おはよう辰くん。話しは鹿波から聞いているよ。鍛えたいんだってね。もう準備はできているから遠慮なく入ってね」


「あ、はい。失礼します」


 神社なのだから、神主をしている水面がいるのは当然のこと。管理も一任されているのだろう。


 しかし、服装が違う。黒い道着袴を着用していた。


 笑顔の似合う柔和な表情に丸眼鏡。改めて見ると身長が高い。そしてなにより、裾から伸びる腕の筋肉が凄まじい。


「………直ってる」


「あはは。昨日は暴れたんだってね。でもこうして鹿波が朝から積極的に使うこともあるから、お勤めの翌日には補修したり交換をしているんだ。これなら問題なく鍛えられるね」


 お勤めの時とは違い、鹿波はブーツを脱いで上がる。俺も靴を脱いで上がった。水面は本格派のようで、草履の下には足袋を着用していた。


「鍛えるって………水面さんが教えてくれるんですか?」


「あれ? 鹿波からなにも聞いてないんだ? そうだよ。僕が教官です。なにを隠そう、僕は当主様に鍛えていただき、そして鹿波を鍛えた師匠だからね」


 新たな事実が発覚した。


 だから鹿波はここに俺を連れてきたのか。


 十年振りに再会した水面は優男の風体ではいたが、そのイメージは俺の勝手な妄想だった。確かに水面は口にしていた。「龍以外ならなんとかなる」と。有言実行できる肉体と実力を得たということか。


「そんなに強いなら、水面さんがお勤めに出れば、もっと効率が上がりそうな気がするんですけど」


「うん。そうしたいのは山々なんだけどね。こればかりは相性というものがあるんだ」


「相性?」


「そう。例えば、僕は龍と繋がれない。契りを結べない体質なんだ。この龍ヶ棲町は龍と人間が共存することをテーマにしているけど、実質、龍と契りを交わせない人間が九割以上なんだよね。そんな僕たちがお勤めに出たとしても、サポートはできたとしても、決定打が出せないから最終的には力不足で足手纏いになってしまう。だから僕は、力の行使とお勤めに出る人間の指導をする役に回ったんだよ」


 知らなかった。


 鹿波は普通にあの黒い奴と交戦している。新参者の俺も二回は経験し、あの黒い奴を倒したことになる。しかし水面は決定打───つまりとどめを刺せない。確かにそれではあの場にいても意味がない。


「僕は神器を授かれなかったからね。でも、代わりに辰くんが受け取ってくれた。それでよかったんだよ。どうせ僕はあと十年もすれば戦力に数えられない歳になって、足腰だって不調が出るんだ。良い機会だったよ。おっと、無駄話が過ぎたね。早速始めよう。まずは辰くんがどれだけ動けるのか見せてもらうよ」


「え?」


「ああ、安心していいよ。いきなり模擬戦なんかしないって。その身体能力だけ調べさせてもらってから、戦い方を教えてあげるから。さぁ。まずはこの施設をダッシュしようか。軽く四十週!」


「よんじゅっ………え?」


「お勤めに出るんだったら、それくらいできないとね。早くしないと昼食に間に合わないよ? さぁ走った走った!」


 優しい男だと思ったが、いきなりの身体能力テストはスパルタの域に達していた。


 どおりで線の細い鹿波があれだけ強くなるはずだ。


 俺は入口から右回りに走らされる。ただ、軽いランニングだと考えていたのが甘かったらしく「全力でダッシュだよ! ファイト!」と叫ばれた時は正気を疑った。


今作の主人公はチートを持たせるか悩みました。でもある程度は努力させなければなりませんので、最初はコツコツと積み上げていくことにします。


もしよろしければ、ブックマークと評価を入れてくださったら嬉しいです。

辰はここからがスタートとなります。実力を付ければ、もっと面白い展開になるとお約束します!

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