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017:真龍穴の上にある町

「龍の歴史は古い。特に龍ヶ棲町を含め………ええと、いくつあったかな。まぁいいか。真龍穴のある地へと集まる傾向にあった。当時の人間はなにも知らず、真龍穴の上に住んでいてね。そりゃあ………混乱しただろうさ。見たこともない生物が空からやってきたのだからね」


 きっと、龍ヶ棲町にやってきた俺のようなリアクション、またはもっと酷く狼狽したに違いない。


「日本における神話には龍が登場するものがある。まぁ龍なんて架空の生物だから、すべてがフィクション。おとぎ話程度に留めておくのが都合がよかった」


「都合?」


「実際に龍がいるなどと知れば、混乱が広がるからね。幸い、龍のなかにも人間に興味を示し、友好的な関係を築こうと接触した個体もいた。だが龍は人間とは違う。数多の能力を有している。躍進する時代のなかで、龍の存在が公となれば………利用しようとする馬鹿者どもも増えてしまう。そこで政府公認の組織が立ち上げられた。渡良瀬家も、その組織のひとつさ」


「政府が龍を認識しているってこと?」


「そうさ。龍は人間を愛するか、憎悪するか、無関心かの三つに分類される。能力が違うのだから、気紛れで風を起こしたばかりに多くの人間が死ぬなどの災害も発生した。そうなると人間も龍を憎む。日本がまだ戦国の世など、特に龍の能力にあやかりたい武将らが捜索隊を派遣したほどさ。まぁ龍も一筋縄ではない。身を隠すか滅ぼすかでやり過ごした。謂わば───龍は天災と同じなのさ。後の世たる現代においても秘匿することで龍との共存を実現している」


 まず学校では習わない裏事情に、理解は及ぶが衝撃の度合いが強すぎて、簡単に受け入れられるものではなかった。


 確かに人間は、そこに龍がいると知れば利用したくなる。捕獲して研究し、最悪殺して解剖………もありえるだろう。


 巨額の富の象徴と考える利己的な人間がいるなら、どんな場所であっても捕獲するための隊を組んで血眼で草木でもかき分ける。戦国時代でもそうであったように。現代は技術的にも進歩したため機械を動員するだろう。


「龍ヶ棲町は政府公認の、人間と龍が共存するために用意された場所のひとつさ。人間と龍が平等に暮らせるようにと」


「うまく、いったの?」


「最初はうまくいかなかったさ。異種間では主義主張も思考も異なる。人間だって、ただでさえ男と女の思考はまったく異なるだろう? 衝突があったとも聞く。………だが、強く共存するを決意した契機があった。なんだと思う?」


 日本史において、そんな迎合を果たすイベントがあっただろうか。


 歴史の外であった実際の異種族交流であったとしても、なにを契機にすれば人間と龍は共に手を携えられるというのか。


「………わからない」


「内戦さ。いつの時代だろうと、この島国は広いようで狭い。広域で名高る武将たちが戦争を始めれば、それだけ隠れられる場所も限定され、狭められてしまう。日本神話が伝わる前の時代なら、まだよかった。人間はただ龍を恐れていただけだからね。気紛れで起こされた自然災害に対し、幼児を生贄に捧げることで鎮めてきた。しかし時の移ろいとともに人間は龍を恐れなくなった。手中に納めて武勇のひとつとして誇張しようとする。生捕りが叶わぬのなら殺して纏う。………少なくとも、産まれて間もない赤子の龍が犠牲となったようだ」


「………酷い話だね」


「そうだね。それが人間の悪いところさ。ただ幼児の龍とはいえ、神聖な生物であることには違いない。偶然にも殺した龍を分解し鎧兜の素材とした名もない兵がいた。すると戦において輝かしい功績を得られたという。その噂はすぐに広まり、龍の捜索はより苛烈となった。それでも見つからぬ場合は、龍をモチーフにした鎧兜を製作したという。………龍にしてみれば、たまった話ではないだろうがね」


「まったくだ。儂とて幾度となく襲われた。返り討ちにしてやったがな」


 墓参りにも同行する大間は苦々しく呻く。その雄々しい角に、線香などが入ったバッグを提げながら。


 祖母の語る歴史は、大間が証人となっている。つまり大間は、そんな古くから生きている龍なのか。


「戦に招集された農民は、敵地の村を襲う風習があったのを知っているね? そうやって略奪でもせねば暮らせぬほど貧しかったのさ。ところがそんな略奪も、ついには龍が棲む地にも届くことになった。この龍ヶ棲町も例外ではなかった。ここには龍の他に、逃げてきた人間が集落を作っていたからね。人間と龍は手を携え、守る必要があった。かつてのわだかまりなど語っていられない。龍の能力を人間が支持し有効活用する。それが私たち、龍使(りゅうし)の始まりとされている」


「その龍使って、具体的にはなにをするの? 私たちってことは、お祖母ちゃんもそうなの?」


「龍と契りを交わすのさ。そうすることで人間も龍の能力の一部を使えるようになる。ただ、誰しも龍使となれるわけではない。素質が必要とされるのさ。………渡良瀬家は代々、龍使を輩出する家系のひとつでね。婿養子となった死んだ夫と、その血筋たる私も龍使となれたのさ」


 龍の能力が具体的になんであるのかはわからないが、とにかく特別な存在なようだ。


「そして………渡良瀬家を主導とする龍ヶ棲町は、第二次世界大戦後にやっと平穏を取り戻した。まさか内戦のみならず他国に攻め入るとは考えていなかったからね。龍の力を使わせろと政府が要望を出したようだが、龍は決して首を縦に振らなかった」


「当然だ。人間同士の争いに儂たちの力を使えば勝利は必須。ただただ、虚しいだけよ。それでも引き下がらぬ有象無象もいたが、その馬鹿者どもにはこう言ってやったわ。───もし龍同士の戦争になった場合、お前たちを含めた国民は喜んで助力し、率先して肉の壁となるのであれば加勢しよう。とな。あの連中の怯え切った顔といえば………ククク。なかなかに見物だったぞ」


 なんとなく想像ができる。


 鹿波も言っていた。トラックと龍が正面衝突した際に、勝るのは龍の方だって。


 トラックと衝突しても勝てる龍同士の戦争になったら、人間などひとたまりもない。そんなのが暴れ回れるなかに率先して飛び込む約束などできるものではない。


 なんとか龍にコンタクトを取れたものの、龍に助力を得ようとした交渉人が、顔面蒼白になって帰っていくのが目に見えた。


「まぁ、戦争の話はそこまでとして………龍使の役割だな。それはお前も体験したとおりさ。お前や鹿波が交戦したのは、謂わば怨念のようなものだ」


「怨念?」


「人間のものが大半なのだがね。死した人間が抱いた野望や、負の感情が蓄積されて生まれる。ひとりやふたりなどの魂からではない。もっと多くの負の感情の集合体だ。真龍穴の真上にあるこの町で集合したものが具現化し、暴れ回る。負の感情の内容は破壊衝動が多いね。堕ちしものには見境がない。よって撃退する必要がある」


「龍なら簡単なんじゃないか?」


「もちろん。だがね、龍はこれでいてなかなかデリケートなのさ。負の感情を蓄積しやすい。特に人間のものがね。毒にもなる。溜め込めば龍も堕ちる。しかし人間はどうか。元より負の感情を持つ者が多いだろう。触れても傷を負わぬ限り問題は少ない」


「あ、そうか。だから九九利は」


「そうだ。龍よりも耐性のある人間が戦い、人間と龍を守る。龍はそんな人間に富を与えるべく邁進する。真龍穴のコントロールも兼ねてね。それの利害関係があって、やっと互いを必要とし、認め合うことができたのさ」


 それが龍ヶ棲町の成り立ち。


 共存という還元が成立するということか。


いきなり歴史を交えた説明回。


でも、こういう裏側を考えるのって楽しいですね。違和感はまだあるとは思いますが。


日本史に詳しい友人がいるので、今度の飲み会で設定を説明しながら考察を聞きたいと思います。勉強はまだまだ終わらない!


次回は現代の龍についてです。


あともうちょっと更新しますので応援よろしくお願いします!

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