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きみの色


 ソレイユプロダクションの社長である金丸に相談し、翌日は事務所のスタッフをできる限り陽奈梨救出作戦に回してもらった。

 条件は陽奈梨を必ず救い出すこと。

 そして、雪花が事務所の裏方の仕事を手伝うことだ。


 陽奈梨が山奥などに連れ込まれていないことを願いながら、迎えたライブ配信。

 昼の十二時ちょうどにスタートした動画配信は、昨日と同じように当然ユキ一人だ。


「こんにちは、ユキです。昨日の配信で予告した通り、今日はお昼から始めさせてもらいます。昨日はコメントたくさんありがとうございました。今日もぜひ、みなさんのコメントお待ちしてます」


 雪花がユキとして配信を始めると、コメント欄にどんどんコメントが書き込まれていく。

 ヒナを心配するオレンジ色と水色のコメントが多めに見えるが、緑や赤、紫など、昨日よりもコメント欄は色とりどりになっていた。

 昨日のコメントにあったように、ユキとヒナをどっちも応援してくれている人は、何色にすればいいのか迷っているのだろう。


「ヒナの情報も、どんなにささいなことでも気づいたことがあれば教えてください!」


 了解!

 ヒナ早く見つかるといいね、心配。

 みんなで探してお姫様を救い出す……燃えるね。

 真面目にね! 人命かかってるから!

 ユキはコメントなるべく読んでね! 読み上げなくていいから!

 待ってる間に前の動画見てみたらかわいすぎて発狂した。推すわ。


「私はコメント読んでるよ。追いきれずに大事な情報が流れちゃったら困るから、近くでスタッフさんも一緒に確認してくれてるんだ」


 雪花の言葉に反応したのか、質問が書き込まれる。

 たまたま目についたので、雪花はすぐに質問に答えた。


「ヒナの居場所を推理するためにも、ざっくりした犯人の会社の住所を教えてほしい、って。堺さん、あそこって東京のどこですか?」


 千代田区だよ、とマネージャーの堺が答えてくれる。

 雪花は配信をしながら、自身のスマートフォンでインターネット検索をしてみる。

 冴島の会社名を入力すると、会社に関する情報がたくさん存在していた。

 その中には住所もあったので、今度は千代田区の中のどの辺りにあるのか、地図で確認してみる。


「千代田区の…………方角で言うと北の方かな?」


 慎重に言葉を選びながら方角を説明すると、コメント欄が少しずつ騒がしくなる。


 千代田区か。北の方は結構オフィス多いもんな。

 皇居に近いほど警官が多いイメージ。

 ヒナは会社に連れていってないだろうけど、犯人が都内ってことはヒナも関東圏内かな。

 妻にしたいって言ってるくらいだから近くに置きそう。

 東西は? ざっくりでいいから!

 ゆきちゃんたすけて。

 関東圏内って広いぞ……都内でも探すのに大変なのに……。


「東西は……東の方。だから、千代田区の北東の方ってことになるのかな?」

 

 冴島の会社と家まで、どのくらい距離があるのか分からない。

 そもそも家ではなくホテルや旅館、もしくは避暑地の別荘などに陽奈梨を閉じ込めているかもしれない。

 本当に見つけられるのだろうか、と強い不安が雪花の心にのしかかった、そのときだった。


「ユキちゃん! コメント! きた!」


 コメントをチェックしていた堺が、ふいに声を上げた。

 ひらがなで書き込まれた陽奈梨本人らしきメッセージ。

 それが再び書き込まれたときは、ライブ配信中でも教えてほしい、と堺には事前に伝えてあったのだ。

 雪花もコメント欄を遡り、ゆきちゃんたすけて。というメッセージを見つける。

 心臓が痛いぐらいに早鐘をうっていた。



「視聴者のみなさんにお願いがあります! コメントの色を、オレンジに……ヒナの色にしてください! お願いします!」


 突然の雪花の頼みに、コメント欄にはなんで? という文字が並ぶ。

 まだ色とりどりなままだ。


 なんで急にオレンジ?

 ヒナちゃんは心配だけどユキ推しの俺、水色一択。

 箱推しだけどヒナちゃん見つかるまではオレンジにしよう。

 コメントカラフルの方がかわいくない?

 ユキちゃんが頼んでるんだから、大人しくオレンジにしようぜ。

 そういうお前は鮮やかな赤だけどな。


「ヒナが、ここに書き込んでる可能性がある……! コメントが流れても、見落としたくないんです!」


 ユキ頭いいな。

 えっどういうこと? ヒナちゃん動画見てるの?

 コメントの色と見落としの意味がよく分からないけどとりあえずオレンジにした。

 私もオレンジにする。ヒナちゃん無事でありますように!

 ヒナ書き込んでるの!? 無事ってこと!?

 うわ待って、かなり流れてるけど確かにゆきちゃんたすけてってコメントがある。

 ガチ!? 今すぐオレンジに!

 みんなー! オレンジだぞー!!


 最初は他の色が混ざっていたコメント欄が、少しずつオレンジに染まっていく。

 これから動画を見始めた人にも分かるよう、コメントはオレンジ色で書き込んでくださいというお願いを画面の中に常に表示してもらった。


 おおー! きれい! オレンジ!

 まだ他の色残ってるよ! 協力しよう!

 さえじまさんはあさいえをでたからいまはわたしひとり。

 オレンジがたくさん並ぶと目がチカチカしない? ユキちゃんコメント見える?

 ユキ推しの俺、ユキの頼みはあっさり聞いてしまう。

 !?!?!? 白文字! そういうこと!?

 なるほどね! 超目立つ! 頭いい!

 えっこれ本当にヒナなんじゃない? 誰かの名前あげてるし……。

 鳥肌立った。


 陽奈梨はスマートフォンでの漢字の変換がまだ苦手だ。

 ひらがな入力は特徴的だが、それだけでは見落とす可能性がある。

 だから、雪花は策を練ったのだ。

 コメント欄に陽奈梨らしき書き込みが見られたら、コメントの色をオレンジに統一してもらう。

 陽奈梨はコメントの色を変える方法を知らないはずだからだ。


 事前に予告しておけば、もっと早く陽奈梨のコメントを見つけられたかもしれない。

 しかし、雪花の動向を冴島がチェックしているかもしれないので、陽奈梨の動きを待ったのだ。

 陽奈梨が自由にコメントできる。

 つまり、冴島がそばを離れるそのときまで。


 コメント欄がオレンジ一色に変われば、陽奈梨のメッセージは簡単に浮かび上がってきた。

『さえじまさんはあさいえをでたからいまはわたしひとり。』

 このコメントから読み取れるのは、陽奈梨が冴島の自宅に監禁されている、ということ。

 陽奈梨への見張りをつけていないこと。

 少なくとも陽奈梨は、タブレットで配信を見ていて、コメントができる状況だということだ。


 ぶる、と雪花の身体に震えが走った。

 しかも陽奈梨が伏せていた犯人の名前を出してくれたことで、信憑性は増した。

 雪花自身もだが、視聴者も白字のひらがなのコメントがヒナだと理解できたはず。


「ヒナはコメントの色を変えられません。だから、他の色で揃えてもらえると、ヒナのコメントが見つけやすいんです!」


 ユキの願いを聞いて、コメント欄にオレンジがずらりと並んでいく。


 染めろー! ヒナ色に変えるんだー!

 オレンジね! 了解!

 ヒナちゃん安心して書き込んで。絶対見つけるよ!

 ヒナ状況教えてー。場所分かったりしない?

 オレンジがたくさん並ぶときれい。太陽みたい。

 ヒナがコメント入力できるならこっちのもんじゃい。何が何でも助けようぜ!


 優しいメッセージで溢れるコメント欄に、白文字が現れた。

 陽奈梨のコメントだった。



 じゆうにうごけてごはんももらえてます。

 でもかぎのあけかたがわからなくてそとにでられないの。


「ヒナ! とにかく助けにいくから、何か情報ないかな? 住所とか、電話番号とか、窓から見える景色とか」


 はやる心を必死で抑えながら、雪花は訊ねる。

 陽奈梨は文字入力に慣れていないので、返事はゆっくりだ。

 その間にもコメントが流れていく。


 ヒナちゃん無事でよかった……。

 まだ救出されてないから!

 さえじまってどういう漢字かな。苗字分かったのかなりでかくない?

 特定班さーん! お願いしまーす!

 千代田区北東の企業なんてたくさんあるけど、重役なんでしょ? ワンチャン特定できるのでは。

 そんな便利な能力ないのでオレンジに染めておこう。

 ヒナー? 大丈夫ー?


『にゅうりょくむずかしくておそくてごめんなさい』


 ヒナのコメントに対し、タブレットかスマートフォンなら音声入力もあるよ、と教えてくれるコメントが流れてきた。

 慌てて雪花はそれを読み上げる。

 音声を読み取って書き込んでくれるなら、陽奈梨とのやりとりのスピードをあげられる。


「ヒナ! 文字を入力するところの近くにマイクの形のマークない? それを使えば音声入力ができるって!」


 ナイスフォロー! ユキ!

 音声入力のアドバイスしたやつ天才過ぎる。

 早口だと読み取ってくれないから気をつけてね。

 焦らずゆっくりだよ。


 流れるコメントを読みながら待っていると、さっきよりもかなり早く陽奈梨のコメントが書き込まれる。


「どこかは分からないけど、小さな川がみえる、か……。東京の川って……ダメだ、いっぱいある…………」


 陽奈梨のコメントが、少しずつ増えていく。


『かわのりょうがわにたくさんきがうえられてる』

『まどからとびおりるのはたぶんしんじゃう』

『かなりたかいところ』


 小さい川。たくさんの木。

 陽奈梨が閉じ込められている冴島の自宅は、おそらくマンションの高層階。

 飛び降りるのは危険すぎる。


 窓から叫んでもらうべきだろうか。

 でも、そんなことをしても、誰にも見つけてもらえないかもしれない。

 高いところならなおさら、下まで声が届かずに、陽奈梨の体力だけが消耗される可能性もある。


 どうするべきか、と雪花が迷っていると、コメント欄にアドバイスが飛び交っていた。


 窓から飛び降りるのは絶対ダメ!

 小さい川って狭い川ってことかな?

 さえじま、ってもしかして冴島かも。検索したら出てきた。

 ヒナちゃん。家に電話ない? 探してみて。

 近くにマンションとかあるなら、窓が開いてるとこ一軒くらいはあるんじゃない。

 タブレットから大音量でSOSのサインを出す。

 都内に住んでないから場所特定は力になれなそう……。

 冴島、会社役員で検索した。試しに会社に電話したら今日役員会議あるって。特定したかも。


「電話って、スマートフォンじゃないの? あ、固定電話っていうのがあるんだ。ヒナ、こういう画像のやつ、家にない?」


 堺から電話機の写真をもらい、配信の画面にかざす。


 電話といえばスマートフォンのことかと思っていたが、固定電話というのもあるらしい。

 一家に一台、昔は置いていたそうだが、スマートフォンが普及してからは衰退してきている文化だという。

 堺が言うには、冴島くらいの年の人ならば、家にまだ電話がある可能性は高い。

 動画を見ているタブレットは、雪花との連絡手段として残しておかなければならない。

 そのため他に外部と連絡が取れる手段が欲しいのだ。


 でんわあったよ。

 どうやってつかうの。


 陽奈梨からのメッセージに、雪花は思わず堺と目を合わせる。

 冴島は知っていたのだ。

 陽奈梨が、本島の文化に疎いこと。

 電話機などの連絡手段を残しておいても、使用方法が分からず、そもそもそれが何かも分からないということに。


 雪花の心に、希望の光が差した。


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