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取材と計画


 八雲はビデオカメラというのを使い、二人の話を映像として記録に残した。

 最初はどんなものか想像できなかったが、話し終えた後に実際に映像を見せてもらい、雪花と陽奈梨は驚いた。


 画面の中で、先ほどの雪花と陽奈梨の話が完全に再現されているのだ。

 話すのをためらったところも、陽奈梨の控えめなくしゃみまで、全て記録されている。


 二人がビデオカメラの便利さに感心する横で、八雲は完全に言葉を失っていた。

 何度か雪花が呼びかけて、ようやく八雲は反応してくれた。


「あ、ああ……悪い…………想像してたよりもずっとスケールのでかい話だったから」

「八雲さん、記事にできそうですか?」


 陽奈梨が首を傾げて訊ねると、八雲は迷わず頷いた。


「ただ少し時間がほしい。二重島に実際足を運んで、取材がしたい。それから週に一度来ていた物資とやらを誰が運んでいたのか、どこから調達していたのかも知りたいな」

「物資の運搬担当は、二重島出身の人らしいですよ」


 なるほど、と八雲が頷く。


 二重島の掟に定められているように、島を出ることを選択した場合、男は労働力か財産を差し出さなければならない。

 物資を運んで来てくれる男は、きっと島を離れる際に、今後二重島への物資の仕入れと運搬を約束することで島を出たのだろう。


 八雲は眉を寄せ、少し悩んだ後、再び口を開いた。


「住む場所が決まるまでは、俺の家に泊めてやろうと思ってたが、やめておいた方がいいな」

「やっぱりご迷惑ですもんね」


 申し訳なさそうに声を上げる陽奈梨に、八雲は静かに首を横に振った。


「いや、それはいいんだ。問題は、あそこは二重島から近すぎるってところだ」


 雪花も同じ考えだったので、頷いて説明を付け足す。


「俺たちが島から本島に辿り着いて、一番にあの町に辿り着いたように、追っ手の奴らもあの町に来る可能性が高いだろ?」

「そっか、少しでも離れてた方がいいんだ」

「そういうこと」


 そして住む場所と同時に生じる問題は、お金のことだ。

 二重島から出る際にお金を持ってきたけれど、すぐに底をついてしまうだろう。

 やはりなんとかして戸籍がなくてもできる仕事を探さなければならない。


 雪花が相談すると、八雲は一緒に考えてくれた。


「たとえば履歴書不要の日払い手渡しの仕事だったら、戸籍がなくてもいけるかもな」


 八雲がインターネットで検索すると、警備の仕事などが出てきた。

 働いて収入が得られるならば、それでいい。

 どんな仕事であったとしても、とにかく何かしら働くことができそうだ、と分かり、雪花は少しだけホッとした。



「そういえば陽奈梨。有名になる、ってどうするつもりなんだ?」


 八雲がふいに質問する。

 確かに、陽奈梨は言っていた。


 二重島のことを世間に公表するために、八雲に記事にしてもらう。

 同時に陽奈梨たちも有名になって、呼びかけるのだ、と。


「八雲さんに記事にしてもらうだけで十分だろ。陽奈梨が有名になるのは、島の奴らに捕まるリスクが高くなる」


 具体的にどんな方法で有名になるのかは分からないが、たくさんの人に名前と顔を知られる、ということは、追っ手にも見つかりやすくなる、ということだろう。


 二重島を国に認知してもらい、雪花と陽奈梨だけでなく、二重島の住民に戸籍を。


 その考えには雪花も賛成だが、陽奈梨を危険に晒すことは避けたい。


「いや、俺の記事だけじゃ起爆剤として足りない。雪花と陽奈梨、二人の顔と名前が世間に知られていれば、話題性はさらに増す」

「顔と名前……。有名になる方法ってあります?」


 陽奈梨のふんわりとした質問に、八雲はニヤリと笑った。

 そして、いくつかの方法を挙げていく。


 たとえば善行を続け、SNSなどで話題になること。

 反対に、犯罪行為で悪目立ちし、ニュースに取り上げられること。


「有名になるなら、一番はメディアに出ることだな。テレビ、雑誌、動画配信。結局そういうのが知名度上げるには手っ取り早い」


 陽奈梨はメディア、と呟き、思い出したかのようにバッグから名刺を取り出した。

 街を歩いているときに、陽奈梨に声をかけてきた人たちのものだ。

 

 確かに芸能人というのは、まさに八雲のいう『メディアに出る人』かもしれない。

 雪花が陽奈梨の手元を覗き込むと、八雲も倣って同じことをした。


「なんだぁ!? この名刺の数」

「街を歩いてたら渡されたんですよ。陽奈梨は人目を引くから」

「それにしてもすげえな。ちょっと見せてくれ」


 八雲が名刺を一枚ずつ見ていき、振り分けていく。

 芸能事務所でないところは論外。

 地下アイドルは有名になれたとしても時間がかかる。

 業界である程度力を持っている事務所。

 そして、雪花たちの事情に理解を示してくれるところ。


「この中なら、まあここだろうな」


 八雲が選んだ名刺を見て、陽奈梨が目をまたたかせる。

 雪花の記憶が確かならば、一番最初に陽奈梨に声をかけてきて、やけにしつこかった男だ。


「あとは交渉次第だ」


 事情と計画を話し、その上でも陽奈梨を事務所に迎え入れたいと思ってくれるかどうか。

 それは、雪花の役目だ。


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