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第94話 ここまでがお約束

第94話を公開しました。

与人たちを待ち受ける「お約束」とは一体?

「いや~、昨日は久しぶりに楽しかった」


 一夜明け、護衛たちに撤収の準備をさせながらホセは与人たちにそう言った。

 その顔からは心からの笑みがこぼれており、言葉が嘘では無い事が窺えた。


「……」


 しかし与人は考え事をしているようであり、黙ったまま頷く事すらしない。


「与人様」

「はっ! す、すみません」


 隣にいるストラに名前を呼ばれようやく状況を理解したのか、与人はホセに謝る。


「ふむ」


 その様子を見ていたホセは唸る。


「……」


 一方でストラは何か言いたげにしているが、黙ったまま何も言わない。


「……すみません」


 何とも言えない空気に、もう一度謝る与人。

 その姿に苦笑しながら、ホセは口を開く。


「どうやら何かお悩み中。それも自分の根幹に関する事のご様子」

「! ど、どうして」

「商人を舐めてはいけません。これでも人は嫌というほど見てきたのですから」


 そう言うとホセは笑みを引っ込め、真剣な様子で与人に語る。


「余計なお世話かも知れませんが、一言ご忠告を。もっと周りを見た方がよろしい」

「周りを?」

「ええ。自分の根幹は遠くを見てもありません。近くに転がっているものなのですから」

「……」


 与人はその言葉を受けてしばらく黙り込む。

 そして何度か頷くと、ホセに頭を下げる。


「ありがとうございます、ホセさん」

「いえいえ」

「ストラもごめん」

「……はぁ。まあ前を向いたようで何よりです。それに悩んでいる内容も、察しはつきますので」

「流石」

「ブレインですので」


 ストラがモノクルを弄りながらそう返すと、ホセは再び笑いだす。


「ははは! 将来尻に敷かれそうですな」

「なら今とそう変わらないですね」

「失礼な」


 ホセに釣られ、与人とストラも笑い出す。

 そんな和やかな空間を引き裂くように、大声が聞こえてくる。


「旦那ー! こっちに来てくれー!」

「ん? 何かありましたかな?」

「ホセ殿を呼ぶ以上はそれなりの事案のはずですが……」

「ふむ。良ければお二人とも、ついて来てもらえませんかな?」

「え?」

「商人の勘が言うのです。そうした方が良いと」


 そう断言され、与人は確認を取るようにストラの方を見る。

 それに対しストラは、静かに頷きを返す。


「分かりました」

「では急ぎましょう。そちらの世界ではこう言うのでしょう? 時は金なりと」



 与人たちが声がした方に向かうと、そこにはリルたちも含めたほぼ全員が集まっていた。

 そしてある一か所を見ながら、何かを話あっている。

 ホセは護衛たちに声をかける。


「お前たち、どうした?」

「ああ旦那たち。実はまだ調査してない遺跡を見つけたかも知れやせん」

「何!?」


 そう驚くホセを横目に、与人はリルたちに確認を取る。


「ホントに?」

「うん」

「クラリッサが見つけたんだ。歩き回ってたら見つけたんだと」

「えへへ。クラリッサ、偉い?」

「……そう、ですね」


 嬉しそうにするクラリッサに対し、やや渋い表情を作るストラ。

 無警戒に歩き回って事に対して言いたいが、結果として未発見の遺跡を見つけた為に何も言えないようである。

 ストラの様子に苦笑する与人であったが、ある事に気づく。


「あれ? ライアは?」


 そう。

 周りを見渡しても、ライアの姿が無いのである。

 与人が不思議そうに探していると、リルが遺跡の方を指さす。


「中」

「え!?」

「護衛の何人かが調査したいって言ってな。アタイが行ってもよかったんだけどな」

「それ、危なくない?」


 トロンの説明に、与人はそう疑問を漏らす。

 その言葉に答えたのは、護衛から話を聞いていたホセであった。


「よほどの事がない限りは大丈夫でしょう。既にしたサーチの魔法ではそう大きな空間はないようですし、モンスターも確認されてないようで」

「らしいぜ? まあアイツならそう負けないとは思うけどな」

「いいなー。クラリッサも行きたーい!」

「機会があれば」


 全く行かせる気が無さそうな言葉を、ストラはクラリッサに返す。

 だがその真意に気づく事無く、クラリッサは喜んでいた。


「うーん」

「ご主人?」


 その一方で、与人は何かを考えてから口を開く。


「ライアって、何気に面倒見がいい?」

「……答えたいところではありますが、タイミングが悪すぎますね」

「え?」

「人のいない所で勝手に評価とか、いいご身分ね」

「うおっ!? ら、ライア!?」


 与人が振り向けば、そこには調査から戻ってきたらしいライアが腕組みしながら仁王立ちしていた。


「と言うか、何でそんな評価になるわけ? 面倒事になるよりマシだから行っただけなんだけど?」

「あ、ああ。ごめん」

「……まあ、別に陰口してた訳じゃないしね。これ以上は言わない」

「それで? 何かありましたか?」


 ストラがそう聞くと、ライアは面倒な顔をしながらもしっかりと答える。


「特に何も? だが何もない空間が広がっているだけで壁に何も描かれてもない」

「おかしいですね。そうなると何のための空間なのか……」


 そう言って高速で呟き始めるストラ。

 そして同じように考え込んでいたホセは、やがてこう口を開く。


「こうしてても埒が明かないでしょうね。直接見る事にしましょう」

「えー! おじさんズルい!」


 そう文句を言うクラリッサに対し、ホセはこう提案する。


「では一緒に行きますか?」

「うん!」

「ま、待ってください!」


 即答するクラリッサを慌てて止めようとするストラであったが、ホセは笑みを浮かべつつなだめる。


「そう心配しなくても大丈夫でしょう。既に安全は確保されてます」

「それは、そうですが」

「何ならストラ殿も一緒に行きましょう。その方が意見も聞けますしね」

「……分かりました」


 珍しく説得されるストラの姿を見て、与人は思わず苦笑するのであった。



「で? 何で私も一緒に行かないといけないわけ?」


 先導する役を任命されたライアがそう愚痴ると、その後ろから笑い声が聞こえる。


「日頃の行いじゃねぇの?」

「うっさい! 大体何でアンタらまで一緒に来る訳!?」

「いや、普通に興味があって」

「ご主人の護衛」


 与人とリルがそう答えるのに対し、ライアは露骨に嫌な顔をする。

 そうこうしている内に、一同は少し広い空間に出た。


「ここで行き止まりですか?」

「みたいね。探したけど道なんてなかった」


 ストラはその言葉を聞くと、再び思考を始める。

 そんな事はお構いなしに、クラリッサは走りだす。


「おいクラリッサ、危ないぞ」

「大丈夫だよトロンお姉ちゃん!」


 トロンの忠告も聞かずに走り回るクラリッサをよそに、ホセは一通り見て回る。


「確かに何もないようですな」

「だから言ったじゃない」

「うーむ。与人殿はどう思われます?」

「え? 俺ですか?」

「ええ。別視点から聞きたいのです」


 ホセにそう言われ、与人は空間を見渡す。


「こういう場所だと、やっぱり隠し部屋とかですかね?」

「ふむふむ」

「あと定番だと、何かしらのスイッチが」


 ガチャ


「そうそう。こうガチャと……ガチャ?」


 考え込んでいたストラも含めて皆が一斉に音の方向を向くと、クラリッサの足元が一か所だけ凹んでいた。


「「「「「「……」」」」」」

「あれ? 凹んだよ?」


 クラリッサ以外が嫌な予感に包まれていると。

 突然床が、消えた。


「嘘だろぉぉぉーーー!?」


 そんな与人の叫びと共に、全員が落ちていくのであった。

今回はここまでとなります。

遺跡にトラップは定番ですよね。

果たして与人たちはどうなるのか?

次回をご覧ください。

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