第144話 襲いかかる信仰の手
144話を更新しました!
無事優勝できたリルとメイ。
だが問題は残っていて……。
「さて、大会を優勝したはいいが。問題は山積みだな」
決勝戦を終えた夜、再びリントたちは部屋に集まって今後を話し合っていた。
「報告によればアーニス教と思われる一団が国境付近に集まっているという報告がありますわ。間違いなく過激派でしょう」
「諦めが悪い」
リルが本当に嫌々といった表情で言うのに対し、メイは憤慨した様子であった。
「まるで盗賊のような振舞いではないですか! 正義も何もありません!」
「正義はあるのだろうな。ただし独善ではあるがな」
リントの言葉を受けて、全員が黙り込む。
このまま戻ろうとすれば、間違いなく過激派の襲撃を受けるであろう事は全員が気づいている。
その上相手は未だ眠っている与人の命も狙うだろう。
となればいくらリントたちに実力があっても、守りながらあの集団を戦うのは厳しいものがある。
「とは言え、何時までもここに厄介になる訳にもいかないだろう」
「本音を言えばもっと居て欲しいところですが、こんな事になった以上は引き留める訳にもいきませんわね」
「また来る」
フレイヤが悲しげに言うのに対し、リルがその背中を擦りながら慰める。
「主次第にはなるが、こんな事を一々気にするタイプでもないだろうしな」
「お優しいですからね、お館様は」
「そう言ってもらえると気が休まりますわ。……立場上同行する事はできませんが、無事に戻れる事を祈らせてもらいます」
幾ら過激派とはいえアーニス教徒を真正面から叩きのめすのは、フレイヤの立場を考えれば問題になりすぎる。
なので今回は見送りもなしで、ひっそりとマキナスへと戻る事となった。
「さて、分かり切っていた報告はここまでして。どうやって奴らを振り切るかを考えなければならない訳だが」
リントが切り出すと、メイが質問する。
「正面突破では駄目なのでしょうか?」
「恐らくそれは無理でしょうね。あらゆる手を使って妨害するのでしょうから」
「かと言って、説得も無理」
「それが一番あり得んだろうな。戦う以外に手はない訳だが、あの護符を出されると厄介だな」
ああでもこうでもないと言い合いながら、フォルテクス最後の夜は過ぎていくのであった。
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「では、よろしくお願いしますわね」
「「「はっ!」」」
フォルテクスの王城前で、兵士で囲まれた豪華な馬車が陣取っていた。
フレイヤは兵士たちに何度も念を押す。
「この馬車には重要なお客様が乗っています。くれぐれも失礼のないようお願いいたしますわ」
「「「はっ!」」」
数分後、兵士たちに囲まれた馬車はゆっくりと動き始めた。
その様子をフレイヤは、見えなくなるまでジッと見ていた。
「……やはりご心配ですか? フレイヤ様」
「エミリー」
「申し訳ありません。気になってしまい余計な事を言いました」
「別に構わないわ。事実ですもの」
フレイヤは空を見上げながら大きく息を吐いた。
「それにしても。見送るしか出来ないというのは、存外に悔しさが積るものですわね」
「……」
「さあ執務に戻りますわよ。今回の一件で、見直さなければならない事が山ほどあるのですから」
「はい、フレイヤ様」
王女とメイドの二人組は和やかに話し合いながら城へと戻っていくのであった。
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時は少し経ち、馬車はマキナスとの国境付近まで移動していた。
すると、武装した男たちが馬車の前に立ちふさがった。
「何者だ!」
兵士がそう声を張り上げるが、言葉を返す事もなく襲い掛かる。
フォルテクスの兵士たちも奮戦するが、多勢無勢のため男たちに捕縛される。
「くっ!!」
「馬車の中を探せ。弓を回収したら中の奴らは殺せ」
リーダー格と思われる男が命令すると、周りの男たちが馬車の扉を開ける。
「!!」
だがそこには人どころか物もなく、ただ広い空間が広がっているだけであった。
「こ、これは一体」
「! 全員下がれ!」
リーダー格が叫ぶより前に、巨大な衝撃波が馬車もろとも男たちを薙ぎ払う。
「ふむ。ブレスは久しぶりに出したが、人の身ではこんな物か」
「……前は火出てなかった?」
「殺す訳にもいかんだろう?」
「お二人ともお気を抜かずに!」
「き、貴様ら……!」
木々の陰から現れたのは、先回りして潜伏していたリントたちであった。
三人を睨みつけながら、男たちは戦闘準備を整える。
殺気を受けながらも、リントは逆に睨み返しながら宣言する。
「さて、ここを通らせてもらうぞ。信仰者ども」
今回はここまでとなります。
再び襲いかかるアーニス教の魔の手に、リントたちは勝つことが出来るのでしょうか?
そして未だ眼を覚まさない与人の行方は?
次回をお楽しみに!