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第141話 灯る炎

141話を公開しました。

突如倒れた与人。

果たしてその容体は?

「「「……」」」


 城に用意された与人の部屋。

 そこでリントたち三人は黙って報告を待っていた。

 与人が倒れてから既に数時間が経ち、フレイヤは重鎮たちと話し合うために席を外しているため全く状況が掴めない。

 それでも三人がこの部屋でジッと待っていれるのは、自分が役に立てる事は無いと理解していたからだ。


「お待たせしましたわ」

「! お館様は!?」


 ノックなしで入って来たフレイヤを咎める事もなく、メイは縋りつくように詰め寄る。

 実際に縋りつくのはリントとリルによって防がれたが、その二人も目で状況を催促しているのは明白であった。


「与人様は一命を取り留めました。ただいつ目覚めるかは今後次第だそうですわ」

「……そうか」

「良かった」

「ええ、本当に」


 メイが涙ながらに言うのに対し、リントとリルはあっさりとした態度。

 だが二人が心の底から安心したのは、言葉にしなくてもこの場の誰もが分かっていた。

 三人の様子を見ていて微笑ましく見ていたフレイヤであったが、次の瞬間には顔を引き締めてその口を開く。


「ですが、残念ながら下手人は未だ見つかっておりません。これに関してはこちらの落ち度ですわね」

「気にするな。主が無事なのだ、後はどうとでもなる」

「うん」


 リントの言葉にリルも頷き、場は少し緊張の糸が緩む。

 するとフレイヤの後ろに控えていたお付きのメイドであるエミリーが報告をし始める。


「それでは大会の今後ですが、残りの日程を明日に延期されます」

「延期、という事はまだ続けるんだな?」

「……この大会にも多くの費用が掛かっていますわ。それを中止には出来ないというのが殆ど。まあワタクシは棄権という形になってしまいますが」


 自虐気味に見えるフレイヤの様子に、リントはため息を吐くとリルとメイに言葉をかける。


「そう言う訳だ。二人とも大会の続きがあるのだから、早く寝ろ」

「で、ですがお館様の側に……」

「それはワタクシ共の役目ですわ。お二人が優勝しなければ、きっと与人様も悲しみます」

「刀の人、寝よ?」

「……はい」


 フレイヤとリルの言葉を受けてメイは渋々ながらも頷き、リルと共に自室へと戻っていく。

 途中リルがアイコンタクトをしていたのを、リントはしっかりと受け取っていた。


「それで? 実際のところはどうなっているんだ?」


 二人が完全に離れたのを感じ取ると、リントはフレイヤに切り込む。

 エミリーはその不躾さに何か言いたげであったが、フレイヤは気にした様子もなく報告し始める。


「大方は先ほど言った通りですわ。ただ、与人様が使用した食器から毒が検出されています」

「……毒、か」


 普段与人が口にする物は、自分たちで料理するか、サーシャに確認を取ってから食べさせている。

 ただ今回は完全に気が緩んでいたとしか言えない失敗であった。


「エミリー、毒の詳細を」

「はい。今回使われたのは非常に殺傷力の強い物。ですので目的は……その」

「殺す事、という訳か」


 リントがそれを口にすると、場が一気に緊張に包まれる。

 二人からにじみ出る威圧感に、エミリーは冷や汗で服が湿っていた。


「もし大会という事で城勤めの医師がいなければ、最悪の場合もあり得たかも知れませんわね」

「だな。だが逆を言えばそこまで考えていなかかった犯行とも言えるだろうな」

「げ、現在毒を仕込む事が出来た人物を全員調査中です。それなりの人数ですが、明日までには判明する事でしょう」

「急ぎなさいメアリー。もしこれが集団的な犯行であれば、他の者たちは逃げるかも知れませんから」

「し、承知しました!」


 フレイヤから命令を受けると、エミリーは飛び出すように部屋を出ていく。

 そうなると当然、部屋にはリントとフレイヤの二人のみになる。

 二人はしばらく黙ったまま見つめ合っていたが、フレイヤが踵を返す。


「そろそろ失礼しますわ。後処理をしなければなりませんので」

「まて。もう一つだけ聞かせろ」

「何でしょう?」

「もし犯人を捕まえたら、その時はどうする気だ」

「どうもこうも、法に則って刑を下しますわ」

「それが無理ならば?」

「……」


 フレイヤはまたしばらく黙っていたが、やがてリントの方に振り向く。

 その眼には、紛れまなく怒りの炎が灯っていた。


「その時は、是非手を貸してもらいます」

「ならいい」


 フレイヤはその言葉を聞くと、今度こそ部屋を出て行った。

 一人きりになったリントは、誰に聞かせる訳でもなく呟き始める。


「どれだけ深い理由があろうとも、どれだけ崇高だったとしても。必ずこのツケは払わせるぞ」


 リントの眼にはフレイヤと同じく、炎が灯っていたのであった。

今回はここまでとなります。


早いものでもうすぐ11月。

だいぶ年末が近づいてきました。

この小説も来年ぐらいには終わりを迎えるかも知れません。

長いような短いようなですが、まだまだお付き合いくださいませ。


では、また次回の更新にて。

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