第140話 暗転
第140話を更新しました。
順調に見えた大会
だが……
大会は順調に進んで行き、残すは準決勝と決勝のみとなっていた。
与人とフレイヤ、そしてリルとメイのタッグは当然の如く勝ち進んでおり、今は食事を取る為に合流していた。
「お館様! 準決勝進出おめでとうございます!」
「ありがとうメイ。そっちも順調そうで良かったね」
「まあ主は殆ど突っ立ていただけだがな」
「……それは言わないでくれリント」
そんな事を言い合いながら、与人たちは闘技場に併設されている食堂へと向かう。
観客も使う食堂であるため着いた頃には人でごった返していたが、四人はフレイヤが待つ特別室へと案内される。
「お待ちしておりましたわ。只今用意をさせている所ですから、少しお待ちくださいませ」
そう言いながら自然と与人を隣へと誘導しつつ席へと座らせる。
残るリント達も、残った席にそれぞれ座っていく。
「……お腹すいた」
「ふふ。いま腕によりをかけて作らせていますから、もう少しお待ちくださいませ」
「へぇ。それは楽しみだな」
この闘技場の食堂の食事は、与人が味わった中でもかなり上位に入るぐらいの美味しさであった。
与人が以前その理由をフレイヤに聞いた時は、こう返された。
「どうせなら完璧を目指したいですもの。それに選手が食べて食事が不味かったから負けただなんて言い訳されたくありませんから」
というある意味フレイヤらしい理由に与人は苦笑したものである。
ともかく食事にも並々ならぬこだわりを持つフレイヤが食べにくるという事もあり、ここの食堂は高水準を保っていたのである。
こうして与人たちが食事が出てくるのを待っていると、暇を持て余したのかリントが口を開く。
「ところで準決勝の話だが、主たちは気をつけた方がいいぞ」
「? 相手強かったけ?」
試合は見ていたはずだが、リントが気をつけろと言うほど強いという印象は無かった。
それはフレイヤも同じのようで、興味深かそうにリントの話に耳を傾けている。
「強い弱いの話ではない。どうも奴らは、きな臭い」
「……赤いの、どういう意味?」
その言い回しが気になったのか、リルも怪訝そうな顔をする。
リントは珍しく言葉を選ぶように少し黙ると、意を決したように語り始める。
「奴らはアーニス教の熱狂的な信者で組まれているらしいが、どうやらその中でも特に過激派でも知られる一派の一員らしい」
「過激って?」
「詳しくは知らん。だが目的の為なら殺しも平然とやる連中だと」
「そのような輩が、何故この大会に?」
メイが発した疑問に、今度はフレイヤが答え始める。
「おそらく賞品である弓が狙いですわね。以前から勇者関連の品を手元に置きたがっていましたから、アーニス教は」
「その様子だと知っていたな」
「当然ですわ。けれど怪しいからと言って罰するようでは人が居なくなってしまいますから」
少し憂うつ気な顔をしながら答えるフレイヤを見ながら与人は少し考える。
与人が『ぎじんか』のスキルを持っている事は当然の如く秘密ではあるが、それでもポツポツと漏らしてきた。
(もしバレれば袋叩きに合いそうだな)
もちろんそこはストラたちも気を付けている事ではあり、与人が知らないところでも常に護衛がついていたりする。
「……」
改めて自分がこのルーンベルという世界にとって異質である事を考えていると、対面に座っていたメイが与人の手を取る。
「大丈夫です。お館様」
「メイ?」
「お館様は拙者たちが命をかけても守ります。ですから心配せずとも大丈夫です」
「ん。ご主人、守る」
「まあそう言う事だ。余計な心配をしなくていいから主は試合の事でも考えろ」
「……ありがとう」
与人は三人からの言葉に礼を言うと、自身の頬を強めに叩く。
思考を切り替え、今は試合の事だけを考える。
例え棒立ちであろうと、集中しなければフレイヤにも失礼だ。
「いい顔になりましたわね。それでこそ人の上に立つべき者の顔ですわ」
フレイヤが微笑みながらそう言うのに対し、与人はどう返していいか分からず苦笑で返す。
彼女が言いたい上が、どう言う意味かが何となく分かるからだ。
「というより、王女は主が女を侍らせても文句は言わないのか?」
「リント。侍らせるとか言わないでくれ」
「問題ありませんわ。どれだけ女性がいようと、一番になれるだけの自信がありますもの」
「ふっ」
自信満々にそう言ってのけるフレイヤにリントが軽く笑うと同時に、リルが鼻をヒクヒクとさせる。
「……食事、もう来る」
それから少しして与人たちの前に、次々に食事が運ばれてくる。
選手用のメニューであるためかスタミナが付きそうな料理を中心に、テーブルがあっという間にいっぱいになった。
「さあ食事にしましょう。控える試合を万全にするためにも」
「いただきます」
与人がそう言うと、リントたちはもの凄いスピードで食事を開始する。
あまり行儀のいい食べ方とは言えなかったが、フレイヤは咎める事無くその様子を見ている。
そして与人もスプーンを手に取り、まずはスープを口にする。
「……ゴホッ!?」
その瞬間、血を吐きながら与人の世界は暗転した。
「主!」
「ご主人!」
「与人様!」
「お館様!」
四人が自分を呼ぶ声を聞きながら、与人は意識を完全に手放すのであった。
今回はここまでとなります。
執筆中に風邪をひいてしまいましたが、書きたい所が書けて良かったです
果たして与人は無事なのか?
大会の行方は?
それらは次回以降にて!
p.s.
皆さんも体調管理には、お気をつけて




