第13話 蟷螂の斧って絶対嘘だろ!?
第13話を公開しました!
ギルドに加入しての初依頼、開始です!
その後、与人たちはウォーロックの勧める宿屋にて一泊し翌日再びブラッド・アライアンスの一員になるための書類を書いていた。
「はい、これで最後です。お疲れさまでしたスローンさん」
「……あ、はい! お手数でした」
与人は最後の書類を書きつつミイに礼を言う。
ちなみにスローンというのは皆で考えた与人の偽名である。
書類作りのためだけの偽名であるがそれでも自分とは違う名をひたすら書いていくのは苦行だったようで与人は途中何度も首を回しつつ最後の書類を書き終えた。
「いえいえお仕事ですから。……はい、確認が終わりました。これにてスローンさん及びパーティの皆さんは私たちブラッド・アライアンスの一員です!」
ミイがそう言うと周りのギルド員がパラパラとだが拍手をしてくれる。
「フフ、皆さんも祝福してくれているようですね」
「祝福かどうかは怪しいけどな。けどやっぱり護衛はユニだけで良かったろ?」
「そうみたいですね。よ……スローンさん」
書類を書きに行くだけで五人全員が護衛に付いて来るのはどうだろうと言う与人の判断で平和にじゃんけんで護衛にユニが選ばれたのであった。
「それでスローンさん。依頼の件ですが……あの本当にギガントマンティスの討伐を受けるんですか? 初心者向けの依頼もありますが」
「でもすでにウォーロックさんと約束してしまいましたから。それに自分らのパーティ、意外と戦闘向きなので」
「ならいいんですけど。……ギガントマンティスにはこの支部のメンバーが大勢返り討ちにされています気を付けてくださいね」
ミイはそう言うと諸々の処理するため一度姿を消す。
――ギガントマンティス
ここからそう遠くない森の主で二カ月ほど前から動きが活発になっているらしい。
当然ブラッド・アライアンスを始めとした様々なギルドが討伐しようと森に入っていったが帰ってきたのは少数らしい。
「俺が出張れば楽勝なんだがな……まあいろいろ制約とかがあって動けねぇんだ」
とはウォーロックの言葉である。
出来れば速やかにとの事なので今日の午後にも与人たちは向かうつもりでいる。
「お待たせしました。これでこの依頼はスローンさんたちの案件になりました。討伐依頼の場合何らかの一部を持ち帰る事で完了となり持ち帰れない場合は、本部が確認を終えるまで報酬は出ませんので注意してください」
「分かりました。……あ、出来れば森までの案内が欲しいんですけど」
「そうなると報酬の一部を依頼を受けた人に渡す事になりますがいいですか?」
「もちろん」
「分かりました。今から募集するのでお時間を……」
「俺が行こう」
そう言って、間に入ってきたのは昨日ユニが話しかけた中年の戦士であった。
「あなたは昨日の」
「アイザックさん。いいんですか? その……腕の調子は?」
「道案内ぐらいできるさ。それにギガントマンティスが退治されるところを見たいんでな」
「……分かりました。ではアイザックさんスローンさんたちをお願いします」
「ああ、短い時間だがよろしくスローン」
「いえ。こちらこそよろしくお願いしますアイザックさん」
「ええ。お願いしますアイザックさん」
そう与人とユニが言うとアイザックは何とも言えない顔をしていた。
「ここまでくれば後は直進だ」
その日の午後アイザックに言われるがままに六人が歩いていくと確かに真っ直ぐ言った先に森のようなものが見える。
その後誰も何も喋らないために気まずく感じた与人はアイザックに話しかける。
「あのアイザックさん? ギガントマンティスと戦った事あるんですか?」
「……何故だ?」
「そんな感じの言い方だったので。触れて欲しくないなら黙りますけど……」
「一つ忠告しとくぞスローン。ギルド員同士、不必要になれ合う必要は無い。お互い仲間ではあるが仕事を取り合う敵でもあるんだからな」
「でも、分かり合える以上は仲良くしたいと思います。……甘いですか?」
「激甘だな。だがウォーロックさんが気に入る訳だ、あの人そういった奴が好きだからな」
そう言うとアイザックはため息を吐き説明をする。
「ギガントマンティスの討伐依頼を最初に受けたのは俺だ。まあ見事に返り討ちにあったがな。その時に腕をやられて今でも少し痛むんだ」
「問答。ではその時の恨みが消えないという事でしょうか?」
「いや、こんな傷で恨まないさ。だが俺さえしくじらなければその後の被害も出る事はなかったんだ」
「アイザックさんが気にする事では……」
「……まあどうでもいい事だがな。それより質問に答えたんだからこっちの質問にも答えろ。……お前らどういった集まりなんだ?」
そのアイザックの質問に与人の心臓は大きく跳ねる。
最も突かれるとまずい質問であった。
「見てた限りスローン中心に纏まってはいるが、仲が特別いい訳でも無い。……お前、小国の王子だったりするのか?」
「い、いや~。何と言うか……」
与人が何とか誤魔化しを考えているとリルが腕をクイクイと引っ張る。
「ん? どうしたリル」
「ご主人。……前から血の匂い」
リルの言葉に全員が一斉に警戒を強める。
「本当か? 何も匂わないが?」
「この子は鼻がいいんです。間違いないと思いますよ」
アイザックに与人が説明している中、リルは更に鼻を動かし詳細を調べていた。
「人間の血、一人。……匂い、とても薄いから時間は経ってる」
「主、指揮しろ。皆が勝手に動き回る訳にもいかないからな」
リントにそう言われ少し考えてから、与人は口を開く。
「リル。悪いけどユニとアイナと一緒に、先にその匂いの元まで行ってくれる?」
「ん。分かった」
「三人とも、言われるまでも無いと思うけどあんまり森の奥には行かないように」
「分かっています」
「主様の方もお気をつけて」
そう言って三人はリルを先頭に走るのであった。
「……随分速いな」
「でしょ? 俺たちも気をつけながら進みましょう」
「了解。警戒を最大にしつつ先行部隊を追います」
「私が後ろを守る。主は真ん中にいろよ、守りやすい」
四人は警戒を強めつつ三人を追う。
しばらく歩くと森の入り口辺りで三人が固まっていた。
「どうだった」
「主様。……残念ですが」
そう言うアイナの後ろには背中に大きな切り傷がある大男が地に伏せていた。
そしてその姿は見覚えがあった。
「あ、アイザックさん。この人って」
「ああ間違いないコルトだ」
そう昨日ミイと揉めていた大男コルトであった。
ユニが傷を見つつ自分の見解を語る。
「恐らく切られたのは昨日のようです。鋭い刃物で背後から一撃を受けたようですが即死には至らずここまで歩いて来たようですね」
「この傷。……間違いない、ギガントマンティスだ」
アイザックの発言に皆が彼の方を向く。
「確かか?」
「俺がどれだけ奴の被害者を見て来たと思う? それにしても何故コルトがこんなところで……」
「推察。昨日彼は討伐の証拠を持ち帰らなかった事で揉めました。なのでギガントマンティスを倒す事で」
「見返そうとした訳か。クソ! 馬鹿な真似をしやがって!」
アイザックはそう言いながらコルトの遺体を背負う。
「アイザックさま何を?」
「遺体とはいえこのままにする訳にはいかないだろう? 俺の仕事はここへの案内までだし俺がホーレスに連れて帰る」
「そうか……なら頼む」
「おう。あんたらも危ないと思ったら引いた方がいいぜ」
そう言ってアイザックはホーレスへと戻っていく。
それを見送りながら与人は森の入り口を見る。
「こ、この先に例のギガントマンティスが居るんだよな」
「だな。この森に慣れた手練れがな。……それと主、奴も居なくなったんだから完全擬態を解け」
「あ、ゴメン」
与人が皆の完全擬態を解くと一斉に消えていた部分を伸ばしたり屈伸したりしている。
「そんなに窮屈だった?」
「見えないだけでそこにある訳だからな。ぶつからないように気を使っていた」
「私はそうでもありませんでしたが、やはり完全擬態状態だとどこか……」
アイナはそう言うと聖剣のコピーを手にして森を睨む。
皆も一通り準備し終えると与人を囲うようにして進み始める。
「何と言うか『神獣の森』とは違った雰囲気の森ですね」
「ギガントマンティスの被害が出るまでは観光地的な扱いだったらしいよここ。ほら道も整備されているし」
「……新鮮」
与人はユニとリルと話ながら皆の中心で歩いていた。
ちなみに先頭はアイナとセラ。
横にはユニとリル、そして後ろにはリントという布陣であった。
昨日考えたどの方向から来ても対処できるようにしたものであった。
「それにしても、これから先どういった関係か問われた時に言う答えを用意しとかないとな」
「主の思うままに話せばいいのではないか? こいつらは俺の女だ! とかな」
「言わねぇよそんな事! それに別に恋人関係という訳じゃないだろ!」
「……恋人」
「質問。アイナ氏、どうなされましたか? 体温が上がっていますが」
「な、何でもないですよ! 恋人になった時の事なんて考えてはいませんから!」
自分が自爆した事に気付かずアイナはその後も誰に向けてか分からない言い訳をし続けている。
その状態でも周りの警戒は解いていないのだから凄いと与人は思いつつある事を考えていた。
「主、何を考えているか当ててやろうか?」
「……ドラゴンに心を読む力があるなんて知らなかったな」
「ギガントマンティスを仲間にしてそれがバレたら被害者はどう思うか、だろ? 主は分かりやすい」
「……」
リントの言葉に何も言えなくなる与人にユニが声を掛ける。
「与人さん。差し出がましいようですけどあまり気にしない方がよろしいと思います。被害者がその事を知る事は無いのですから」
「それに……ご主人悪くない」
「そりゃそうかも知れないけれど」
何時までも煮え切らない様子の与人の頭をリントはガシガシと乱暴に撫でる。
「ちょっ! リント何を!?」
「主、少し背負い込みすぎるぞ? 少しは楽でいろ。答えは進んだ先にある」
「……リントのくせにまともな事を」
「まあお前よりは長生きだからな。たまにはこういった役目もいいだろう」
「フフ、リントさんと与人さん。まるで姉弟みたいですね」
ユニの言葉にリントは笑い与人は恥ずかしそうにしている。
だが突然、リルが戦闘態勢に入る。
「リル!?」
「ご主人。……血の匂いがしてきた。近いと思う」
リルが戦闘態勢に入ると同時に皆が戦闘モードに突入する。
森の静けさが皆を包む。
だがしばらく時間が経過しても何も起こる気配は無かった。
「り、リルどう?」
「まだ近い。……様子見てる」
「油断したところを狩るつもりですね。主様は決して頭を上げないように」
「肯定。ですがこのままでは向こうに有利です。何か手を打たなければ。……辺り一帯を焼き払いますかマスター」
「それだと多分俺たちも被害受けるよね!? 出来ればもうちょっと安全な作戦で!」
そんな会話をしている間もギガントマンティスは襲おうとはせず森の中に隠れたままであった。
「主。私たちを信じ切れるか?」
「は? いきなり何を……。そりゃ信じるけど」
「リントさんまさか」
「ああ主。少し囮になれ」
「それは受け入れらませんリント」
真っ先にそれを拒否したのはアイナであった。
今にも切りかからん程に怒るアイナにリントは冷静に言う。
「この中で最も弱い主が囮になれば必ず食いつく。それとも聖剣、お前は守り切る自信が無いか?」
「そうは言っていません。従者が主に囮をしろと言うのを問題にしています!」
「二人とも落ち着いて」
与人は落ち着いた声で二人を宥める。
「リントの作戦に乗ろう」
「主様!」
「アイナ、俺の身を思って言ってくれるのは嬉しい。けど何も出来ずにいるままじゃ嫌だから。……ごめん」
「……主様が決められた事でしたら」
アイナはそう言うとひたすら剣に集中する。
皆もいつどこから来ても対応できるように神経を研ぎ澄ましていく。
「主。何時でもいいぞ」
「よ、よし行くぞ」
そう言って与人が顔を上げるとゾクッと背中が寒くなる。
すると突如リルが飛び上がり何かを蹴り上げる。
その何かは空中で体勢を立て直すと皆の前にその姿を現す。
「で、デカァ!?」
そう与人が叫んでしまうほど大きいカマキリであった。
その姿は三メートル以上はあるだろう。
両方の鎌を大きく広げつつこちらを威嚇してくるギガントマンティスにリントは腕を回しつつ前に出る。
「さて、主も頑張った。ここからが私たちの出番だな」
「油断しないでくださいよリント」
「戦闘。これより戦闘形態に移行します」
アイナとセラもそれぞれ戦闘準備満タンであり与人の隣にはリルとユニが固めている。
ギガントマンティスとの戦いが始まろうとしていた。
今回はここまでです。
次回はギガントマンティスとの戦いが描かれます。
お楽しみに!
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