第107話 信じられる理由
第107話を公開しました。
一連の騒動、その顛末とは?
「皆の者、ご苦労じゃったな」
戦いの夜が明け、与人たちは再び玉座に座るパトラを見上げていた。
事前に説明が行き届いているのか、与人たちを罪人として見る者はいなかった。
「この一件で我がラサハのグリムガル派は壊滅したと言ってよい。……まあ半分は向こうの自滅と言うべきじゃろうが」
「それで、その……」
与人が言いにくそうにしていると、パトラは察したのか大和に対する処遇を言い始める。
「命までは取らんが貴重な情報源じゃ、日の光を浴びるのは当分は先の話じゃろうな。ちなみに、あ奴が洗脳しとった者たちは故郷に帰れるよう手配を進めておる」
「そうですか」
与人は何とも言えないような表情をしながらそう言うと、ストラが言葉を繋ぐ。
「ではラサハはマキナスとの協力体制を強める事に対し前向き、とエクサ王にはお答えしておきます」
「うむ、よろしく頼む」
「おっしゃー! 仕事終わりだぜ!」
「ちょっ! アンタここまだ玉座!」
大声を上げて喜ぶトロンをライアが慌てて止めようとするが、パトラは笑いながら許す。
「構わん。お主らの功績に免じて多少の無礼は許そう」
「だってよ!」
「はぁ。だからってはしゃいでいいという訳じゃないでしょ」
「……牛の人らしい」
リルの呆れたような声に、トロンは笑い返すと玉座の間には和やかな空気が流れていた。
「それでお主はどうする気じゃ? 滞在するつもりじゃったら歓迎するが?」
「そうしたい所ではありますが、仲間が待っていますのですぐにマキナスに戻ろうと思います」
与人がそう答えると、クラリッサが不安そうにストラの服を引く。
「どうしましたクラリッサ殿?」
「……待ってる仲間って怖い人、いない?」
「ええ居ませんよ。……ある意味で、というならいますが」
ストラは戻ってからしなくてはならないだろう説明。
そして某聖剣がどんな行動を取るかに頭を抱えるのであった。
「アハハ! これは当分飽きが来そうにないね!」
そう笑いながらウイは与人に抱きつく。
「うおっ! ウイ!」
「やっぱり付いて来て正解だったよ! これからもよろしくね与人ちゃん!」
「お主ら、じゃれつくんじゃったら他でやってくれんか?」
そのパトラの一言で、謁見は終了となったのであった。
「さて、マキナスへと戻りましょう。急ぐ必要もありませんので町を経由するルートで行きましょう」
「やっと砂漠ともお別れだな」
「……お土産」
それぞれが準備を始める中、与人はライアの肩を叩く。
「? 何よ」
「ちょっと時間ある?」
「……まあいいけど」
「よし。ストラ! ちょっとライアと話あるから」
与人がそう言うと、ストラは少し眉を動かしため息を吐く。
「分かりました。手短にお願いします」
「分かってる」
ストラに確認を取ると与人はライアを連れて皆から離れていく。
「……」
「ダメですよリル殿。付いて行くのは」
「……バレた」
残念そうな顔をしてリルを見ながら、クラリッサがストラに質問する。
「お父さんライアお姉ちゃんと何しに行ったの?」
「そうですね。……一言で言えば」
「決着を付けに行った、と言えるでしょうね」
「で? 何の用な訳? こんな人気の無い所で」
与人はライアを人のいない所まで連れて行くと、正面から向かい合う。
「あの時、まともに言い返す事が出来なかったから今ここでと思って」
「……ああ、アレね」
ライアの脳裏に思い出されるのは、以前遺跡で二人きりの状況で言った言葉たちであった。
「正直まだハッキリと答えが定まっている訳じゃない。それでも、今ここで言っておかないといけない気がするから」
「……ふーん。じゃあ聞かせて貰おうじゃない」
その言葉を受けて与人は深く深呼吸すると、真っ直ぐとライアの方を見て話し始める。
「確かに、俺は恐れてる。頭のどこかで皆が俺を見放すんじゃないかって」
「……」
「俺は皆にとって生みの親とも言えるかも知れない。けど皆の好意を受け取れる程の自信が俺にはない」
自虐気味に笑みを浮かべる与人に、ライアは何も言わずにただ聞いていた。
「それに楽園を造る目標が困難である事を、俺は本当には分かっていないのかも知れない。だから言えるのかもな」
「じゃあ諦める訳?」
ライアがそう問いかけると、与人は首を横に振る。
「いや。だからこそ諦める訳には行かないんだ」
「……どうして?」
「他の皆は俺以上に困難であるのを知っている。それなのにこの俺を信じて付いて来てくれる。……だからこそ俺が諦めたくない」
与人はそう言い切ると、ライアの方に向かって手を伸ばす。
「そして、できればライアにも手を貸して欲しいと思う。問題点をズバズバ言ってくれる役も必要だと思うし」
「……」
その手をじっと見ていたライアであったが、やがて諦めたようにその手を握る。
「言いたい事は言うし、給料はしっかり貰うからね」
「良かった」
与人はそう言って笑みを浮かべる。
それを見てライアは心の中で思うのであった。
(それを心の底から言えるなら、少しは信じてやれるかもね)
雲のない晴ればれとした青空を見上げながら、ライアはそう思うのであった。
今回はここまでとなります。
駆け足気味でしたが如何でしたでしょうか?
次回も楽しんでもらえれば幸いです。