第11話 目的地変更。そしてギルド入りを目指します!
第11話です!
一向は国境へと向かいますが……。
「……のどかだな~」
整備された道を歩きながら与人は心の底からそう言う。
クラスごと転移されてからずっとバタバタしていた身であった為この何も無くただ歩くだけの日々でも文句を言わず与人は進んでいた。
「立場で言えば追われる身だがな」
リントはそう皮肉とも釘を刺すとも取れる言葉を吐きながら周りを警戒する。
交代で数時間ずつ周りを警戒しているが今のところ追手がくるような様子もなかった。
「肯定。警戒を強めておいて損失はありません。マスターは一度命を狙われてるのですから」
「あれは狙われたと言うより向こうが暴走していたというべきだと思うけど……」
与人はセラの言葉に少し訂正を入れつつも否定はしなかった。
実際に『グリムガル』の王がどれほど自分たちを危険視するかなどを与人が知る訳も無いがそれでも相容れぬ以上は警戒しといて損はないとも思っている。
「ですがそろそろ私に相続されている記憶によれば国境はもうすぐのはずです。『グリムガル』さえ出れば必要以上に警戒する必要もありません」
過去に聖剣である自分を振るった剣士たちの技術と記憶の一部を引き継いでいるアイナが間もなく国境である事を報告する。
が、そう言いつつアイナは与人の右隣に陣取りそこから動こうとはしなかったが。
「まあ出来るだけ急いで国境まで来たけど越えたら一休みできそうだな。……で、ユニ? なんでそんなにキョロキョロしてるんだ?」
国境を越えた先の事を考えていた与人であるが先ほどからやけに挙動不審なユニが気になり声を掛ける。
「い、いえ。……その」
「提唱。ユニ氏、発言は明確にされた方がよろしいかと」
言いずらそうにしていたユニにセラがそう言うと意を決したように話始める。
「その与人さんの『スキル』の力なんですけど」
「え? ああ出立の前の夜に『スキルノーティス』で知らされた完全擬態?」
あの『神獣の森』にて過ごした最後の夜に突如『スキルノーティス』によって知らされた『ぎじんか』の新しい力である完全擬態。
それは他の人間に元のモンスターや道具の特徴の部分を見えなくして完全に人間のように見せる力である。
例を挙げるとするならばユニの角やリントの爪などといった部分であり特徴がある服装も(与人は見た事は無いが)『ルーンベル』に流通している服装に見えていた。
「ユニコーン。何か問題が?」
「いえリントさん。問題というより疑問が。何故か通り過ぎた人たちがやけにこちらを見ているような気がして」
「それは……そうですが、敵意が無いのですから放っておいてもいいのでは?」
「賛同。アイナ氏に賛成します。しかし何故こちらを見るのでしょうか。目立つ行動は避けているはずですが」
「あ~」
「主? 何か心当たりがあるのか?」
「まあ、一言で言えば全員鏡見て言え。ってところかな?」
「「「「??」」」」
与人は全員を見渡しながら改めて容姿が優れている思う。
そんな美女・美少女が一団となって動いているのだからそれは目立つだろうと理解出来た。
その上その中に一人若い男が混じっているのだから不審な一団感は拭えないであろう。
そんな事を考えていると急に左側の袖が先ほどから黙っていたリルによって引っ張られる。
「ん? どうしたリル?」
「……前から沢山の人間と食料の匂いがする」
「行商でしょうか? 情報が聞き出せるかも知れませんね」
アイナがそう言っているとリルの言う通り大きな荷馬車を引いた一団が向こう側からやって来ていた。
リントとユニがアイコンタクトをしユニがその一団に近づいていく。
ユニが一団の先頭にいた人と少し話すと手招きをする。
皆が近づくとその人は少し驚いていたがすぐに笑顔を振りまく。
「こりゃ美男美女ばっかり皆さま。自分はこの行商のリーダーのホス(ホセ)と言いますが、何かご入用で?」
「あ~。手持ちは無いんだけど少し聞きたい事があるんだけどいいかな?」
どうやらやはり行商らしく護衛らしい人間もいないため与人が代表して話し出す。
ホスは少し眉を顰めたが笑顔を崩さず会話を再開する。
「はあ。本来ならお断りするところですが皆さまどうやら旅人の様子。……そちらからも何か情報を貰えるのでしたら構いませんよ」
「……『グリムガル』の王が魔王討伐のために異世界より大量に人員を呼び寄せた。と、いうのは?」
「アイナ?」
「そ、それは本当ですか!?」
アイナの発言に食い気味にホセが反応する。
その後も何時頃召喚したのかをアイナに聞いている間にリントに与人は質問する。
「召喚って秘密事項なのかな?」
「いつかは言うだろうが無暗に言う事では無いだろうな」
「……なんで?」
リルが首を傾げながら言う質問にはユニが答えた。
「魔王も愚かではありませんから、討伐の為に召喚されたと知れば何らかの手を打つかも知らないからですね。……それにしても何故ホセさんはあんなに興奮しているのでしょう?」
「返答。行商にとって情報は宝であるからでしょう。その情報を売るも良し、その情報で先んずるも良し。商売をする者にとってこの手の情報は無くてはなりません」
「はぁ~。人間も大変なんですね」
そのような会話をしている内に向こうも情報を伝え終えたらしく二人はこちらに向く。
「おかげさまでいい情報をもらえました。自分に答えられる事でしたら何でもお答えしましょう」
「ええと、じゃあまず簡単な質問から。国境ってこの先ですよね?」
「ええ、そうですが……地図を無くされたので?」
「恥ずかしながら」
ホセは荷台から大きな紙を取り出すと与人に渡してくる。
「これは?」
「お近づきのしるしに差し上げます。各地の裏道まで載った最新の地図です」
「あ、ありがとうございます。でも本当にいいんですか?」
「いえいえ。このくらい先ほどの情報に比べれば微々たるものです。ですが、今は国境に向かうのはお止めになった方がよろしいかと」
ホセの言葉に与人が驚く中ユニが質問する。
「それは何故でしょうか?」
「いや~お恥ずかしながら我々もさっき知ったのですが、いま国境では検問が敷かれてまして」
「検問?」
「はい。その上検査が厳しく我々もかなりの時間を食ってしまいました。特に出る側はそれはもう厳重に調べていましたよ」
「……皆。少しこっち来い」
リントが少し離れたところに皆を集めホセに聞こえない様にコソコソと相談をする。
「おいどうする。下手に調べられたら主が危ないぞ」
「やっぱり検問って俺を捕らえるためか?」
「意見。可能性は高いと思われます。特にマスターは服装で異世界から来たと分かりやすいので検問は避けるべきかと。
「ですが他の国境にも検問が敷かれていると思います。避けては通れないかと」
「……突破する?」
「そうなると周りの人たちも巻き込んでしまうかも。それに与人さんのためにも無駄にリスク上げるのはどうかと……」
「……どうしよう」
六人が話し合っているとホセが大きな声で呼びかける。
「皆さんは何らかのギルドには所属されていないので?」
「? していませんけど。それが何か?」
「いやギルドに所属している者はどうやら検査も甘いようでしたので」
「それは本当ですか!?」
ホセにそう聞き直すと彼は先ほどの地図と同じものを取り出し事細かに説明をする。
「ええ。所属されてないのでしたらここで一番近くてギルドが多いのはホーレスという街ですね。ここなら国境にも近くギルドもたくさんあるので皆さんにあったものが見つかると思いますよ」
「できれば世界中に支部を持っているようなギルドがいいんですけど」
「そうなるとやはり『鋼鉄の傭兵団』《ブラッド・アライアンス》がおすすめですね掟が厳しいですが広く人材を集めておりますから。……皆さん戦闘のほどは?」
「俺以外はかなりの腕ですよ」
「それならますますおススメです。ブラッド・アライアンスは以前の大規模な依頼で多くの手練れを失ってますから実力を示せば歓迎されるでしょう」
「……皆はどう思う?」
与人が全員を見渡すと皆一堂に頷いたため与人も覚悟を決める。
「ホセさんありがとうございます。これからホーレスに向かいたいと思います」
「そうですか。では少しお待ちいただけますかな」
ホセは荷台から紙とペンを取り出すと何かを書いて与人に手渡す。
「これは私の書いた紹介状です。これを見せれば話もスムーズに行くでしょう」
「ありがとうございますホセさん。……でもこれじゃ釣り合わないんじゃ」
そう与人は心配になるがホセは笑いつつ肩を叩く。
「そう思われるのでしたら今後とも我がギルド『金のなる木』《ゴールド・ラッシュ》をよろしくお願いしますよ。それにあなたは大物になりそうですし先行投資というやつですよ」
「……外れるかもですよ」
「なあに投資にリスクは付き物。それに自分のこういった勘はよく当たるのですよ?」
そう言ってホセは馬に乗り荷台を引きつつ一礼して去って行った。
「主様。この地図によればホーレスには夕方には着けそうです」
「よし。少し予定とはズレるけど、行こうかギルドに所属するために」
そう与人は言って六人は進路を変えてホーレスに向かうのであった。
「これがホーレス。……なんかファンタジーの世界に来たって感じが一気にしてきたな」
「疑問。マスターの発言の意味はよく分かりませんが中々大きめの街と思われます」
無事何事も無くホーレスに着いた六人。
与人はホーレスの地球で言う中世の西洋らしき雰囲気に感動していたが、残念ながら『ルーンベル』出身の皆にそれが伝わる事は無かった。
「……いろんな匂いがする」
「フェンリル、無暗に動くなよ。もう探すのはこりごりだからな」
「分かった」
「もうすぐ夕暮れです。ギルドに向かうのでしたら急いだ方がよろしいと思います主様」
「そうだな。じゃあ早速」
「与人さん、皆さん。少し待って下さい」
「どうしたユニ?」
ユニが街へ入ろうとする皆を引き留め住人の視線から逃れられるところまで一旦戻らせる。
「疑問。どうなされましたユニ氏」
「問題と言えば問題ですね。改めて確認しますけど与人さん。この『ルーンベル』におけるお金は持っていないのですよね?」
「まあ……そうだね」
「今後もお金を要求される事はあると思います。そのためにも纏まったお金を用意しておくべきだと思うんです」
「だがユニコーン。我々に金を得るような手段があるとは思えないが?」
「あります。私の角です」
「どういう事?」
与人が分からずに質問するとアイナが説明をする。
「ユニコーンの角というのは人間の間では最上級の薬とされているみたいです。相場は分かりませんけど相当の値が付く事は間違いないかと」
「けど、いいの? 無理する必要は……」
「いえ全然? ユニコーンの角は魔力の塊のようなものですので折れたり切られたりしても数分で生えてくるんです」
「……ありがたみが無い」
「り、リル。言葉に気をつけてね」
リルが漏らした言葉に優しめのツッコミを入れた与人は一旦ユニの完全擬態を解く。
「じゃあアイナ。悪いけどユニの角を切り落としてくれ」
「お任せを。ユニ、動かないでくださいね」
そう言うとアイナは手に聖剣である自分自身の分身を作り出し力強く握り構える。
「フッ!!」
そして与人には分からぬ速度で聖剣は振られユニの角は見事に地面に落ちた。
「アイナさんお見事です」
そうユニがアイナを称賛している間にも彼女の切られた角から先端が生えようとしていた。
「これは一応私が預かっておくぞ。主が持っているよりは安全だろう」
そう言うとリントが落ちた角を無造作に掴む。
「いやリント。生え変わるからってもうちょっと扱いを……」
与人はそう言いつつユニに再び完全擬態を使用する。
だがユニは笑みを浮かべたままで何も言わないため与人も何も言えなくなった。
「じゃあ今度こそ行こうか。ホーレスに!」
六人は今度こそホーレスの街に入るのであった。
今回はここまでとなります。
果たして与人はギルドに加入できるのでしょうか?
続きをご期待ください。
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