ソフィアとレイシアの学園時代
「失礼致します」
レイシアとやいやい言い合っていると、部屋の扉がノックされた。
返事をすると、静かに中へと入って来たのは、私の専属侍女最後の一人、ソフィアだった。
ソフィアも、レイシア同様に家族の仕出かした事件により貴族の身分を失った元伯爵令嬢だ。
レイシアとの違いは、ソフィア本人は元から真面目な性格をしていたこと。
こう言うとレイシアは怒るんだけど、事実だしね。
ソフィアは、不正に浪費とやりたい放題で領政を省みない両親に代わり、学園に通いながらも実質一人で領地を切り盛りしていた。
学校通いながら家の仕事とか、よく出来るよね。
私には絶対無理だわ。
やりたくもないし。
でも、そんなソフィアだから、両親の罪によってエンメル伯爵家が取り潰されても、ソフィアだけは助けて欲しいと領民達からの嘆願も多かったらしい。
実際、私としてもその真面目さと優秀さにはかなり助けられてると思う。
うちの屋敷に来てからのレイシアの面倒を見てくれたのもソフィアだしね。
そう思うと、レイシアがこれほど早くに更生できたのはソフィアのおかげかもね。
あれ?そう言えば……。
「ねぇ、ソフィアとレイシアって、学園の同級生なんだっけ?」
ちなみに、学園て言うのはこのイシュレア王国の貴族や一部の優秀な平民が通う教育機関ね。
王立なんちゃら学園とかいう名前だった気がする。
「え?ええ。そうですわね」
「ふーん。仲良かったの?」
「えっと……」
何故かレイシアの歯切れが悪い。
私がどうしたんだと見ていると、ソフィアがクスッと笑う。
「学園にいた頃のレイシアは、なんと言いますか……。
まぁ、少しやんちゃだったとでも言いましょうか」
その言葉と二人の表情からある程度察することが出来る。
そう言えば、今は落ち着いてるけど初めて会った頃のレイシアは縦ロールだったもんね。
「あぁ、なんとなくわかったわ」
「もう!なんですかお二人して!
わたくしの過去なんてどうでもいいではありませんか!!
そ、それよりどうなさったのですか?急に学園のことをお聞きになるなんて」
「もしや、サキ様も学園に興味がおありなのでしょうか?」
真っ赤になって抗議するレイシアが露骨に話題を変えようとして来たけど、ソフィアもそれに乗っかるみたいなので一先ず揶揄うのはやめてあげるか。
「いや、別にどうってことはないけどさ。
ふと思っただけだよ。
そもそも、私は学園に通うような歳じゃないし」
学園に通う年齢は、確か日本でいうところの高校生と同じ歳だったはず。
しばらく前に24歳になった大人の女性である私には縁のない話なのである。
「そうは仰いますが……ねえ?」
「まぁ、そうです……ねぇ?」
「なによ」
何か言いたそうな二人をじろりと睨んだところで、再び誰かが部屋の扉をノックする。
「お嬢様、お手紙が届いております」
そう言ってノックの主であるセバスチャンが持ってきたのは、見覚えがあるけど見たくない紋章。
王家の封蝋が押された、王城への呼び出しの手紙だった。




