血塗れの魔女
「じゃあ、私は体洗って着替えて来るから……」
「あー!いたいた!サキさーーーん!!」
教皇達で遊んだ部屋から出て、隊員達にこの後のことを指示していると、唐突に背後から聞こえて来た私を呼ぶ元気な声。
気持ちが高揚していた私は、何の警戒もなくそれに振り向いてしまった。
「これからクラリス様とお茶するんですけど、一緒に……どう…………」
笑顔を浮かべていたヒマリの表情が、私を目にした瞬間強ばる。
それはそうだ。
だって、そこにいたのは全身を返り血で真っ赤に染め上げた化け物なんだから。
「あ、あの……。あたし……」
私の姿を見たヒマリが一歩後ずさる。
その顔にはっきりと怯えの色を浮かばせて。
そのヒマリの姿を見て、心臓がドクンと大きく跳ねる。
高揚していた気持ちが一瞬にして冷え切るのがわかった。
「せ、聖女様!ひとまずこちらへ!!」
ずっとヒマリの護衛をしていたアレクとジェイクが、慌ててヒマリに駆け寄り私の姿を隠す。
そのまま二人に連れられて去っていくヒマリを、私は何も言えず、ただ黙って見送った。
「えっと……た、隊長?ほら、早く着替えに行きましょ?」
「え……?あ、うん」
どのくらいその場にそのまま立っていたのか。
カレンの声に我に返る。
周囲に目をやれば、カレンだけでなく、他の隊員達まで私を心配そうに見ている。
「ちょっとみんなどうしたの?
私なら大丈夫だってば」
私は本当に大丈夫。
ヒマリに怯えられたくらい何でもない。
だって私は化け物なんだから。
「あれ?なんで……」
そうわかっているのに。
そんなの当たり前のことなのに。
なんで涙が溢れて来るの?
「おかしいな……。私は……」
本当にこんなのおかしい。
さっきまであんなに楽しかったのに。
久しぶりに遊んで、すごく気分が良かったのに。
「隊長……」
ほら、みんな心配してる。
いつもみたいに、楽しかったって言わないと。
遊べて満足だって言わないといけないのに。
「やだ……もうやだ……やだよ……」
それなのに、口から出るのは私の意思に反する言葉。
あ、そうか。
私は突然涙が溢れて止まらなくなってるこの状況が嫌で……。
「違う、違うの。私は……。私は……」
そうだ。違うそうじゃない。
私が泣いている理由は。
私が本当に望んでいるのは。
「私がしたいのは、違う、そうじゃなくて。
でも、私は本当はこんなこと、もう……いや、違くて、私は!」
私は。
本当の私は。
駄目だ。
これ以上考えたらいけない。
絶対に駄目だ。
そう思うのに、ずっと蓋をしていた何かが開いてしまいそうになる。
「隊長、大丈夫です、落ち着いてください」
混乱して足下がふらつく私の体を、ヒギンスが支えてくれている。カレンが背中をさすってくれている。
それに微かに安堵を覚えたところで。
私の意識は闇に包まれた。




