たぶん、触り心地がいいんだと思われる
「こーら、サキーーー?」
満面の笑みを浮かべたフローリアの姿が視界に入り、まずいと思った瞬間にはもう遅かった。
すっと両手が伸びて来て、私の頬を摘む。
「私のことを心配してくれるのは嬉しいけど、そんなことしてる場合じゃないと思うよ、お姉ちゃんは?」
そんなことを言いながら、私の頬をビョーンっと引っ張るフローリア。
あー、ものすごく笑顔だけど目が笑ってない。
本気で怒ってるなこれ。
ちょっとやり過ぎたか。後悔はしてないけど。
「ひゃめれ、いひゃいはら」
「じゃあ、もうそんなこと言わない?約束出来る?」
頬を引っ張られていて、まともに話すことが出来ないのでこくこくと頷いて意志を示しているのに、何故かフローリアは一向に手を離そうとしない。
いや、本当に痛いんですけど。
何故離さないんだ姉よ。
「ごめんなさい、殿下。
サキは少しばかり私に対して過保護なんです」
私の頬を両手でがっつり掴んだまま、首だけを第二皇子に向けて謝ってるフローリアだけど、その態度も中々に無礼だとは思う。
だからフローリアさんや。早く手離して。痛いの本当に。
「い、いや、こちらこそ軽率な発言だった。
申し訳ない」
戸惑い全開な様子ながらも謝罪する第二皇子。
私を敵に回したくないから、とりあえず謝ってるだけなのか。
あるいは、ノフロンでの一件を何かしら知っているからこその謝罪なのか。
それはわからないけど、形だけだろうと謝罪出来るのは良いね。
少なくとも、無駄にプライドだけが高いような人ではなさそうだ。
穏健派の他のメンバーを「同士」って呼んでたのにもそれが出てるよね。
まぁ、これまでの帝国内での穏健派の置かれてた立場を考えれば仕方ないのかもしれないけど。
第二皇子は皇族とは言え、結構苦労人みたいだし、この人が次の皇帝なら少なくとも在位中は帝国は大丈夫だと思えるかも。
よし、んじゃそろそろいいか。
相変わらず頬を摘まれてて話せないので、視線だけを動かして辺りを見渡せば、すぐ近くで無表情にこちらを眺めてるヒギンスの姿。
もう完全に観客に徹してるな。助けてよ副隊長。
ただ、そんなヒギンスだけど私の視線の意味は察してくれたらしい。
フローリアに向き直ると口を開く。
「フローリア様、いつまでもここで話しているのも良くないでしょう。
今は安全でも、いつ強硬派の兵がこの辺りに来るかわかりません。
まずは場所を変えてはどうかと愚考する次第であります」
「あ、そうだよね!
殿下、そういうわけなんで、場所を変えませんか?」
ヒギンスの言葉に素直に頷くと、第二皇子に声をかけるフローリア。
でも、私の頬は離してくれないらしい。
喋りながらもずっと手は頬をむにむにとしてくる。
「あぁ、そうだな。
近くに我々の拠点があるから、そこへ案内しよう。
元はと言えば、そこにあなた方を迎えるためにここまで来たのだから」
どうやら、やっとこさ無事に穏健派と本格的に合流出来るみたいだね。
そこに行って、色々と話を聞かせてもらうとしましょうか。
例えば、ここに来てからずっと。
第二皇子の後ろから私を。いや、私達全員を険しい顔で睨み続けてる子のこととかね。




