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必滅の魔女  作者: 坂井 ユキ
第一部 魔女と聖女
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ここにはヒーローなんていない

そもそも、これでもかなり聖女に配慮した言い方をしてるつもりだ。


私の本音としては、めんどくさいから邪魔なやつは皆殺しにしたいんだから。


とは言っても、聖女は私みたいに壊れた化け物な訳じゃないし、流石にこれはキツいか。

何となく私らしくなく甘いことばっかり考えてる気がするけど、こっちの世界に来て初めて会う日本人だから仕方ないよね。


「えーっと。その、さ。ごめんね、キツいこと言って」


真っ青な顔をして黙り込んでしまった聖女に向けて、なるべく優しく聞こえるように声をかける。

本当なら表情も優しく出来ればいいんだろうけど、表情筋は相変わらず職務放棄してるからそこはどうにもならない。


「ただね、私達は神殿はもちろん、神聖王国にすら行ったことがないの。

もちろん事前に準備や調査はして行くけど、いざ現地に行ったら何があるかわからない。

だからね、聖女さんが着いてきたらどんな危険があるかわからないし、その時に貴女を絶対に守るなんて約束出来ないんだよ」


クラリスは神殿に幽閉されているということは、神聖王国の意向として囚われていることになる。

それなら当然逃すつもりはないだろうし、それを無理矢理助け出そうとする者がいたら阻止しようとするだろう。そんなの当たり前だ。

それこそ、私達を殺してでもね。


そんな中に、己の身を守る手段がないだろう聖女がいたらどうなるか。


絶対に守る。

口でその約束をするのは簡単だ。

小説とかでもかっこいいヒーロー役とかがよく言うしね。


でも、この国に来てからの二年。

汚れ仕事と言うしかないような任務をして行く中で、いざ何が起こるかわからない状況に放り込まれた時。

自分の身を守りながら他人の安全にまで配慮しなくてはいけないことがどれほど大変で、危険を伴うかと言うのは嫌という程実感して来た。


実際に死にそうな状況になった時に、都合良くヒーローが助けに来てくれるなんてことはないんだ。


「でも、あたし……」


消え入りそうな声で聖女が呟く。

きっとこの子にもそんなことはわかってるんだろうな。

それでも、クラリスのために何かしたいんだろうなって思う。


私なんかとは違って、本当に相手のことを思いやれる優しい子。

そんな聖女が何となく、少しだけ羨ましい。

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