珍獣扱い?
王都への道中は、セクメト伯爵領へ向かった時のようにフローリアが羽目を外して怒られるようなこともなく平穏そのものだった。
そのまま久しぶりの王都の屋敷に一泊し、相変わらず使う意味があるのか疑問が残る馬車に乗って一路王城へ。
ちなみに今回は堂々と正面入口から入城だ。
もうお披露目も済んだから、フローリアの姿を多くの人に見られても問題ないからね。
「うぅ……、なんかすごい視線感じるんだけど……」
今日も陛下付きの侍従さんに案内されながら城内を歩いていると、フローリアが周囲からの視線に不安げな声を漏らす。
まぁ、レイシアの淑女教育のおかげもあって変にオドオドしたりはしてないけどね。
「まぁ、だいたいいつもこんなもんだよ」
私がまだフローリアの体を使っていた時から人からの視線は多い。
そこは『流れ人』だし仕方ないのかなって思ってる。
確かに今日は少し多い気もするけど。
「やはりセクメト伯爵閣下のお披露目の儀の影響が大きいかと。
それはもう大変な反響でございましたから」
何回も案内をしてもらっているうちに結構親しくなった侍従さんが口を開く。
「サキ様の騎士の誓いも素晴らしいものだったと聞いております」
あー、あれのせいかぁ。
結構その場の勢いでやっちゃったけど、うん。
確かにあれは話題になるだろうなって自分でも思う。
それなら仕方ないかなと周囲に視線を向けると、こっちを見ていた令嬢の集団と目が合う。
「きゃあああ!」
「サキ様だわ!」
「やはり今日もセクメト伯爵閣下とご一緒なのね!」
「お二人が並ばれるとなんて絵になるんでしょう!」
なんだか、こっちを見ながら盛り上がってる。
「お小さいのに麗しいわ!」
おい、誰だ小さいって言ったの。
「そこ、小さいって言わないの」
「きゃあああ!!」
「声を掛けて頂いたわ!」
いや、注意と言うか文句言ったのになんで喜んでるのさ。
「あはは。サキ、大人気だねぇ」
「人気なの?これ」
なんだか珍獣扱いされてる気分なんだけど?
「でも、私は嬉しいよ?」
「ん?」
言葉の通り、フローリアはにこにことしている。
私が珍獣扱いされてるのが面白いというわけではなさそうだけど。
「だってさ、サキがみんなから怖がられてるのは見てて辛かったから。
ああいう風に慕ってくれてるのが見れて、すごく嬉しい」
「あぁ、うん。そっか」
そうだよね。
フローリアは私の中でずっと見てたわけだから。
お披露目の時も私を見て怯えてる貴族の姿に一瞬だけど眉を寄せてたもんね。
私個人としてはそこらの貴族に自分がどう思われてようがどうでもいいんだけど、それでフローリアにまで悲しい想いはさせたくないし。
うん、それなら良かったかな。
そうこうしているうちに、陛下の執務室へと辿り着いた。
まぁ、普通は謁見申し込んだら謁見の間とか応接室とかなんだろうけどね。
昔から陛下に会うときは基本的に執務室だから気にしないけど。
どっちみち話す内容的にもたぶんここの方が都合いいし。
なんたって帝国絡みだからね。
ちらりとフローリアに視線を向ければ、緊張しているのか。顔が少しだけ強ばってる。
大丈夫だよと言うふうに軽く背中を叩くと、私へと視線を向けて微笑んでくれる。




