子どもは可愛い
「大丈夫大丈夫。こんなことでいちいち咎めたりしないから」
確かに良くはないんだろうけど、正直言うと私としては特に気にしてない。
魔女って呼ばれ始めてかなり経つから慣れてるのもあるし、何より子どものすることだしね。
それに、魔法も使えるようになったから日本人の感覚だと本当に魔女みたいなもんだ。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
何度も頭を下げてる母親に大丈夫だと手を振りながら、膝を曲げて目線を合わせつつ少女に声を掛ける。
見た感じだと王女殿下と同じくらいに見えるからまだ六歳とかそのくらいかな?
「あ、あのね!あのね!」
少し興奮気味の少女は、頬も微かに色付いていてとても可愛らしい。
きっと将来は美人になるんじゃないかな。
母親も綺麗な人だしね。
「うん、ゆっくりで良いから言ってごらん?」
私の言葉にこくこくと何回も頷いているのも微笑ましいね。
「魔女様が悪い人たちをやっつけてくれたから安心して暮らせるようになったってお母さんが言ってたの!」
悪い人たちってのはアーセル公爵派の貴族達のことかな?
まぁ、やっつけたと言うか捕らえたと言うか。
とりあえず間違いではないけど、あぁそうか。
そう言えば、ここは私達が来る前は王家直轄地だったけど、その前はアーセル公爵派の貴族の領地だったんだっけ。誰かまでは知らないけど。
その当時のことは資料を見ただけだから詳しくは知らないけど、あまり良い統治はされてなかったらしいからね。
母親が私にというか、貴族に対してかなり怯えてる様子なのもそのせいもあると思うし。
その後王家直轄地になってから来た代官がかなり頑張って立て直したらしい。
今もフローリアがまだ勉強中だから領政の中心になってくれてるけど、かなり優秀な人だからね。
「だからね、あのね!魔女様に会えたら、ありがとうって言いたかっの!」
「そっか。うん、どういたしまして」
少女の頭を撫でながら答えれば、嬉しそうに笑ってくれる。
「えへへ」
少しくすぐったそうに笑う少女に、私も自然と笑みが浮かぶ。
これまで子どもとこうして接する機会なんてほとんどなかったけど、可愛らしいもんだね。
「魔女様、領主様も魔女なの?」
「ん?フローリアは魔女じゃないよ?」
「ふろー?」
フローリアの名前までは知らなかったらしく、少女は首を傾げている。
「フローリア。領主様の名前だよ」
「そうなんだ!私も魔女様みたいになれる?」
「私みたいになりたいの?」
それはどうなんだろう?あんまりおすすめ出来ないけどな。
かと言ってフローリアみたいにってのもあれだし、目指すなら……うん。ソフィアとかをおすすめしたい。
「うん!それで私も悪い人をやっつけるの!」
「そっかそっか。
じゃあ、大人になったら手伝ってもらおうかな?」
「うん!」
私の言葉に元気に頷くと、母親に促されるようにして離れて行く。
何度もこちらを振り返って手を振ってくるのに振り返す。
母親の方も少しは緊張が解けたのか、帰り際には笑顔も見えていた。
「可愛いものですな」
掛けられた声に振り向けば、そこにはヒギンスの姿。
「そうだね。
あの母娘が安心して暮らせる領にしなきゃって改めて思ったよ」
「隊長とフローリア様でしたら大丈夫でしょう。
我らも微力ながらお支えいたします」
「うん、頼りにしてる」
実際に領民と触れ合うと、一層領主の一族としての責任を感じるっていうかね。
頑張らないとなって思う。
近衛として確かにずっと国のためっていうことで働いてはいたけど、民とこうして触れ合うことなんてなかったからなぁ。
正直国のためなんて意識もなかったし。
フローリアにも会わせてあげたかったな。
まだ工房の視察中だから仕方ないけど、残念がるかもしれないね。




