領地の視察に向けて
マークからの手紙を元に、対帝国に関して本格的に動き始めた。
実際に今動いてるのは隊員達ではあるけど。
私は報告を聞いて必要なら指示を出してるだけ。
なんせ、そうやって隊員達が動いてくれてる間にもやらないといけないことはたくさんあるからね。
「サキ様」
今日もそんな諸々をやる為に屋敷内を歩いていると、後ろから名前を呼ばれた。
「ソフィア。どしたの?」
誰かと思えば、そこにいたのは今はフローリアの補佐官をしているソフィア。
春らしい若草色のシンプルなドレスが良く似合ってる。
まぁ、ソフィアは可愛いから何でも似合うけどね。
セクメト騎士団にもかなり人気あるらしいし。
最近は私が騎士団の訓練を見てるから、そんな話も耳に入ってくるんだよね。
ソフィアだけじゃなくてレミア達侍女チームも人気あるみたいだ。
みんな可愛いから当然だと思うけど。
……レイシアに関してだけは何故かそう言う話を聞かないのは気にしないでおこう。
顔だけなら一番美人だとは思うけどね、あの子は性格が……うん。
「先日ご指示いただいたフローリア様の予定調整の件なのですが……」
おっと、つい関係ないことを考えてしまってた。
そういや、一緒に王都に行く為にソフィアに頼んでたんだっけ。
「うん、何か問題あり?」
「はい。ある程度は何とかなりそうなのですが、視察の予定もかなり入れてましたので……。
全てを完全に王都行きの後にするのは少々……」
ソフィアが本当に申し訳なさそうにしている。
確かに、新しく領主になったフローリアの顔見せも兼ねてかなりがっつり視察の予定入れてたもんなぁ。
領主って立場を使えば急な予定変更もごり押せるだろうけど、それはあまりにも感じが悪過ぎるし。
視察先の人達は、既にこちらから伝えてる日程に合わせて準備してくれてるわけだからね。
「それなら、私だけが王都に行くってのが本当は良いんだろうけど……」
「仰る通りではあるのですが……」
「フローリアが絶対納得しないよねぇ……」
「はい……」
私の言葉にソフィアが困りきった顔で同意する。
あー、これは既に一度この件でフローリアと話したのかも。
で、思い切りごねられたと。
「フローリア様は、サキ様も視察には同行してもらうおつもりのようです」
「うん、私の立場的にはそれが正解ではあるけどね」
フローリアの妹の伯爵令嬢としてではなく、セクメト騎士団の団長としての立場ね。
領主が領内を視察するなら、その護衛は領地の騎士団がするのが当たり前。
そして、その指揮を騎士団長、つまり私がするのが自然な流れではあるけど。
なるべく早く王都に行きたいんだよなぁ。
だから、フローリアには一人で視察に行ってもらって、護衛の指揮は王国騎士団の隊長なりに任せたいところなんだけど。
まぁ、無理か。
無理だよね、絶対。
フローリアに付いてきてって言われたら断れる気がしないもん。
「仕方ない。まずはサクッと視察を終わらせちゃおう。
私もセクメト伯爵家の一員である以上は、領地にも責任があるしね」
王都行きはそれからだな。
さすがに夏前には全部終わるだろうし。
「では、そのように手配いたします」
一礼すると、早速とばかりに足早に去って行くソフィアを見送りながら、私は内心でため息を吐いた。




