どうやら、何かしよう企んでいるようです
「では、よろしく頼むぞ、セクメト女伯爵。
あぁ、正式な叙爵と発表はお披露目の時にやるからな。
領地の資料を屋敷に送っておくから、それまではその資料を読み込むなり、領地へ引っ越す準備をするなりしててくれ。
もちろん、お披露目の準備も忘れずにな」
「はい、わかりました」
いよいよかぁ。何だか緊張するなぁ。
陛下の言葉にドキドキしていると、横からちょいちょいとつつかれる。
なんだろうと思って目を向けると、サキが私を見ている。
「大丈夫だよ、フローリア。私がいるから」
「うん、そうだよね。ありがとう」
「ほほーう?」
私とサキが笑顔で頷き合っていると、それを見ていた陛下がとても楽しそうにしている。
て言うより、今日の陛下はずっと楽しそうだよね。
普段から穏やかで親しみやすいお方ではあるけど。
「俺があれだけ言っても貴族にはなろうとしなかったサキがなぁ」
どうやら、サキが私と一緒に貴族になることをあっさりと了承したのが面白いらしい。
本来なら、あれだけ断ってたんだから多少なりとも不快に思われても仕方ないと思うんだけどね。
「そりゃ、フローリアと陛下とじゃ違いますから。
当然ですよ」
「たしかにそうか。セクメト伯爵と比べられては勝ち目はないな」
相変わらず不敬って言われても仕方なさそうなサキの物言いにも平然としてるし、本当に心が広いと言うかなんと言うか。
そして陛下、さりげなく私を伯爵呼びしてる……。
「あの、陛下。まだ伯爵呼びはちょっと……」
「そうか?」
遠慮がちに声を掛けてみたけど、そんな不思議そうな顔されましても。
正式な叙爵はお披露目の時って言ってたじゃん!
「まぁそう言うならフローリアと名前で呼ばせてもらおう。
伯爵になるわけだから、嬢は付けないぞ」
「はい、問題ありません。ありがとうございます」
この国だと〇〇嬢って言うのは貴族のご令嬢に付けるらしいからね。
それなら当主になる私は仕方ないけど……あ。
それじゃあサキには付けられるのか。
陛下も同じことに気が付いたのか、サキを見てニヤッと笑っている。
一方のサキはすごく嫌そうな顔してるけど。
「私に嬢とか付けたら、当分話せないようにしますよ」
陛下が口を開きかけたところで、サキが先手を売って止める。
新しい体になっても、サキの能力は健在だもんね。
「なにが嫌なんだ。伯爵令嬢になるのだから別に良いではないか。
あぁ、そう言えば貴族令嬢は学園に通うのが義務なんだが、復学を断ったらしいな?」
エフィーリア様から提案されてたよね。
何故か断ってたけど。
年齢的にも本当は18歳なんだから良いと思うのにね。
「まぁ断りましたけど。
そもそも、私退学になったんですよね?」
あ、ノフロン行きになった時かぁ。
そう言えばそうだった。すっかり忘れてたけど。
「それなんだがな。
どうやら学園長が独断で退学届を手元で止めてたらしい。
サキは退学ではなく、休学という扱いになってるそうだ。
今回の新しい体の一件は本来なら学園長は知らない筈なんだが、どこからか情報を得ている様子でな。
サキが目を覚ました直後に復学するならいつでも受け入れると連絡が来たぞ」
おー!それはありがたい!
学園長の情報源が気になるけど、それは知らない方が身のためだって本能が告げてるから気にしないでおこうっと。
ナターニャ先生も言ってたもんね。
学園長は絶対に敵にするなって。
「うーん、それはすごくありがたいことだってわかってるし、学園に行きたくない訳じゃないんですよ。みんなと通うの楽しかったし。
でも、今はちょっと。
考えてることや、やろうと思ってることがあるんで、それが片付いたら改めて相談させてください」
「何をしようとしている?」
サキに聞きながらも、陛下が「知ってるか?」と尋ねるように私へと視線を向けて来るので、それに首を振って答える。
私、本当に何も聞いてないんだけど?
「いずれきちんと相談するんで、もう少し待ってください。
今回は独断で動いたりはしないんで」
「そうか。
何となく嫌な予感しかしない気がしないこともない気がしなくもないが。
とにかく、何かする前に報告だけはしてくれよ」
陛下、相当不安なのかな。言葉がおかしなことになってる。
私としても、めっちゃ気になるんだけどね!




